考えてなかった冬支度
「そういえば、土支度はどうするんだ?」
「土支度?」
「リサが来る少し前に薪なんかは注文されてたけど、食い物なんかはコレからだと思うんだ。店の連中にも今年はどうするのかそろそろ聞いてくれって言われてる。もう水闇月も半ばになるもんな」
「水闇月?」
「もう水の季節の2巡目だし、いい加減土の季節の準備をしなきゃならないだろ」
「待って待って、わからない」
当たり前みたいに言われて聞き返すと、この世界の一年は風、火、水、土の4つに分けられ、その4つをそれぞれ、星、闇、光で分けた31日を一月としているそうだ。
「一月31日って決まってるんだね。この世界にカエサルはいなかったか」
「向こうの世界じゃ31日って決まってないのか?」
「決まってないねー。30日の月と31日の月があって、2月なんて28日だよ」
「複雑だな」
「あと、四年ごとに閏年なんて言うのもあって、その年は2月が29日になる」
「なんで!?」
「向こうの世界は一年が365日なんだけど、ちょっと余るんだよ。それで4年ごとにそのずれを修正してる。じゃないと、8月が夏で12月が冬だったのが、ずれていっちゃうでしょ」
「ちょっと余る……季節がずれる……」
わたし自身よくわかってない説明だけど、ブレッドにとってはもっと想像もつかないらしくて、完全に困惑している。
「つまり、土支度って冬支度か」
風が春、火が夏、水が秋、土が冬で、一年の起点は風星月の一日なんだそう。
春が一年の始まりなんだね。
ちなみにわたしがこちらにやってきたのが水闇月一日で、ブレッドは毎月一日にルディアーナの様子を見に来ていたんだそうだ。
冬支度そのものは嬉々としてやった覚えがある。覚えがあるというか、その結果が積み上げられたカップ麺であり、プレミアムビールなんだけど。
冬の間プレハブでおこもりできるよーに(ハート)という言い訳の元、あれこれ買い漁ったわけだ。
しかし、そのおこもりの前提には、降ってわいた遺産と車があり、冬の間ホテルステイもいいかも(ハート)なんていう、甘い甘い見通しで買い物に勤しんだ。だから、何もかも足りてるわけがない。
食べ物は拘らなければ、まぁ、ある。
水も、水魔法が使える今、問題ない。
寝具なんかも、ブランケットに加えて寝袋まで駆使すれば……まぁ。
問題は燃料と暖房だ。
一応電気ストーブとキャンプ用の薪ストーブはある。冬に向けて石油ストーブがいるかもなー、こたつ買っちゃう? なんてこともふんわり検討したこともあるものの、もう少し寒くなってから考えようと思っていた。
ガレージ横に設置した薪ラックは、満載の方がカッコいいから満載にしてあったが、到底一冬保つとは思えない。物置にある形成薪や炭を勘定に入れたとしても、だ。
ガスやら電気やらを駆使すれば冬は越せるかもしれないが、そうなると春からの煮炊きはどうするのか、という問題が出てくる。
たしか、薪って年単位で乾燥させなきゃ使えなかったはずだ。
薪割りやってみたーい、と準備はしてあるが、あくまでそれはホームセンターなんかで売ってる薪を手頃な太さに分割するぐらいのレジャーであって、ガチに生活の為にやらなきゃならないとなれば話は別だ。
「ルディアーナがいないことがバレるわけにいかないから、薪はそのまま納入されるけど、必要か?」
「いる! めっちゃいる!」
「どこに置くんだ?」
「今ウチにある分は屋根の下に避難させて、一部は外の薪ラックに。入り切らない分はパレットの上に積んでブルーシートでも掛けとけばいいかな」
物置の中でも場所を塞ぐだけだと思っていたパレット、ここに来て大活躍だ。
ただ、物置のパレット、木製だから重いんだよね……。
「あとは防寒具と保存食か……防寒具は置いておいて、保存食は疑われない程度に納入されたもので作ることになるだろう」
「作る?」
「肉類は加工を頼むことも出来るが、ジャムやピクルスは家で作るのがほとんどだな」
「おぉ、これぞスローライフ。大草原の小さな家っぽーい」
そっか、ルディアーナの不在を隠すとなると、ある程度の消耗品も用意しなきゃならないのか。
「ライムのピクルスは砂糖漬けか塩漬けはたまた酢漬けか、気になるところだわ〜」
若草物語以外にも何かの話に出てきた気がするライムピクルス。あれだってきっと保存食よね。それからダイアナが飲むはずだった苺水、ザワークラウトって本当はキャベツを塩で発酵させるんだっけ。
たっぷりのドライフルーツを刻み込むミンスミートは、こちらの世界ではあちらが昔そうだったように、本当にお肉を入れて作ったりするんだろうか。時間をかけて、季節ごとに果物を漬け込むルムトプフみたいなものもあるのかな。
冬支度と言われて、昔読んだ物語に登場した保存食が頭の中を駆け巡る。
そういえば、祖母の遺産にもラム酒はあったし、氷砂糖もあったから、ルムトプフは作れる。
シンプルにラムレーズンでもいい。
そこまで考えて、はたと気がつく。
粉がない。
正確に言えば、わたしが持ち込んだ、お好み焼き粉、たこ焼き粉、ホットケーキミックスはあるけど、シンプルな小麦粉がない。
小麦粉がなければ、クッキーもパウンドケーキも作れない。いや、ホットケーキミックスでも作れるといえば作れるけれど、ホットケーキミックスで作ったお菓子って全部ホットケーキミックス味になるから……。
「何をどのぐらい用意すればおかしくないのかよくわからないから、可能であれば、その辺りは領主様にお任せしたいんだけど、冬支度って小麦粉とかも入る?」
「逆に聞きたいんだが、小麦やライ麦なしに……あぁ、米があるのか」
ブレッドは少し考える。
「去年の土支度、ルディアーナはメイド伝いに丸ごと領主家に任せっきりだったはずだ。ルディアーナがいないのがばれて困るのは領主様だから、土支度に関しては領主様……というか、ダスティロー様に相談してしまって構わないと思う」
「それなら助かる。冬支度なんてしたことがないもの」
「ルディアーナの分と、使用人の分があるから、挽いた小麦の他に、ライ麦や大麦、オーツ麦、豆なんかも混ざるだろうな」
「メイドさんと料理人がいたんだっけ? あんまりたくさんあっても消費しきれないから、その辺りも考慮してもらえるとありがたいかな」
「対外的にはリサが増えたことになっているから、あまり減らすのも難しいと思うけど相談があったことは報告しておくよ」
そんな話をしながらの帰り道は、迷うこともなくプレハブに着けた。




