文福おむすび
量った米にウォーターサーバーから水を注ぎ入れて、ざっと掻き混ぜて水を捨てる。飲用水が勿体無い気がするけど、まだイマイチ浄水タンクを信じ切れていないわたしがいる。
これからは水も節約しなきゃだし、こちらの世界に長期滞在するようなら、徐々に水にも慣れなきゃいけないな。
でも、今はまだ勘弁してほしい。
「こんなことなら、無洗米を買っておくんだった」
なんとなく節水を意識しつつ米を研ぐ。
ザァザァ水を流したりしないで、お米を擦り合わせるようにしてから、ヒタヒタの水を注ぎ入れて掻き回し、一旦水を捨ててからザルに上げる。
「精米技術が上がったから、今のお米はそれほど研ぐ必要がないって本当かな」
そしてそれは家庭用精米機にも当てはまるんだろうか。
炊飯用の土鍋にお米を入れて、水加減をしながらキッチンの片隅に放置した箱に目を向ける。
買った時は、これでいつでも精米したてのお米なんて美味しいに決まってる! わたし賢い! なんて思ったし、玄米なら日持ちするんだよね、もちろん玄米のままでもヘルシーだし、とブランド米の大量買いもした。
食べ比べしよ、と五種類の玄米+餅米を買ったわたしを殴ってやりたい。しかも、一袋が30kgってひとりで食べ切れるつもりだったのか。
一袋でさえ食べ切る前に虫が湧きそうだし、その前に新米が出そう。下手したら十年分くらいあるんじゃないだろうか。
あまりにも大量買いをしたからとオマケにもらったお米キューブ可愛いし、大量買いするならこっちにすれば良かった。精米も計量もしなくていいし、真空パックだから、玄米よりも日持ちしそうじゃない?
まぁ、ブランド米に手をつける以前に、既に開封済みで持ち込んだブレンド米を消費しなきゃだけど。あと2回くらい炊いたら無くなるかな。
次はどのお米を炊こう。
浸水させてる間に、ノリで買った竹の皮も水に浸す。
本当にわたし、なんでこんなものまでキロ単位で買ったんだろう。
その割に海苔は佃煮しかないし。
自分で自分がわからない。
プレハブから離れた隙にプレハブだけ奥多摩に戻っちゃう可能性も考えたけど、今後生活物資に不足が出ることを考えたら、余裕のあるうちの探索は必須だ。
車はいずれ出すとして、その前準備として道の向こうに何があるかくらいは確認しておきたい。
プレハブが消えるのを想定した持ち物を装備して出かけないとな。
とりあえずマウンテンバイクにキャンプツールを積めばいいだろうか。自力で持ち運ぶなら、ある程度コンパクトにまとめないとダメよね。
サバイバルツールキットにシースナイフ、あとはキャンプツールコンテナと毛布に非常食ぐらい持っていけば大丈夫……?
持ち物に悩みながらご飯を炊き、蒸らす。
いつもの調子で2合炊いちゃったけど、そういえば冷凍庫がないことに気がつく。クーラーボックスはあるけど、氷がないんじゃ、そのうちただの保温箱になるよね。中に入っているものも、早く食べちゃわなきゃいけないし。
クーラーボックスに入れてる焼きそば用の食材は明日に回して、夜もおむすびにするしかないな。
防腐効果もあるらしいし、残ったおむすびは竹の皮に包んでおけば大丈夫だと信じよう。
半分くらいをそのまま塩むすびにして、竹の皮で包む。
「わはは、日本昔話みたい」
真っ白い艶々のおむすびが、竹の皮に包まれているビジュアルがもう面白い。
残ったご飯に、朝飲んだお茶の出し殻と揚げ玉にめんつゆを混ぜて、こちらもおむすびにする。
めんつゆも一本開けちゃったからには、しばらくはクーラーボックスが使えるとはいえ、早めに消費しないとな。
葉っぱの柔らかい高いお茶の出涸らしって実は美味しい。
お茶って言うなれば乾物みたいなものだ。
お茶を淹れた後もビタミンとかカテキンとか残ってるらしいし、お醤油と鰹節でもかけたらおひたしみたいに食べられる。
わたしは二煎目を淹れたヤツくらいが、適度に苦味や渋みが残っていて好き。
水気を切った後、少しお醤油をかけてから軽く絞って、改めて味をつけるのがコツ。こうすると水っぽさが抜ける。
カフェインも残っているらしいから、そこだけは要注意だけど、さっぱりした苦味が揚げ玉の油っ気によく合ってて、ご飯の甘みを引き立ててくれる。
「普段はお茶碗一膳で充分なのに、おむすびにすると一合ペロっといけちゃうの、謎」
通称・悪魔のおにぎりの日本茶版。
悪魔のおにぎりはたぬきむすびとも言うから、これはお茶とたぬきで文福おむすびとでも名付けようか。
悪魔も妖怪みたいなものだし、茶釜に化けて踊りだす狸なんてどう考えても妖怪だし、ぴったりなネーミングかもしれない。
文福おむすびふたつにインスタントのお味噌汁をつけて、朝ご飯。
「はぁ、美味しい……」
焼きそばの材料はあるし、カップ麺だってあるのに、気合いを入れようと思うとお米を食べなきゃ、ってなる自分はつくづく日本人だ。
まだまだ備蓄はあるけど、いったいいつまでこの余裕が持つんだろうか。
そもそも衣料品を手に入れるあてが本当にあるの?
不安ですうすうする鳩尾を、温かなごはんが宥めてくれる。
何もかもなくなるまで引きこもっていたところで、現状より事態が好転するとも思えないし、自分がどこにいて何が出来るのかくらいは把握したい。
そのためにはまず、この周辺に何があるのかを調べなくちゃ。
朝ご飯を食べたら、用意した荷物をマウンテンバイクに積んで探索に出かけよう。
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