チャーシューおむすびと今そこにある危険
「あいたたた……」
昨日に引き続き筋肉痛がわたしを苛む。
ゆっくりストレッチをしてから、お米を研ぎ、身支度をして昨日は筋肉痛にかまけてサボった洗濯をまとめてする。
洗濯場を見たことでなんとなくイメージは掴めた。
ラウムは洗濯棒での叩き洗いを思い浮かべていたんだろう。わたしはあちらの世界の洗濯機を思い浮かべて、水流で汚れを浮かせる。
ぐるぐると激しくかき混ぜる動きと対流を起こす動きで、右回りと左回りを交互に発生させる。
イメージが固まったからか、連日の水魔法で扱いに慣れたのか、洗剤入りの水も動かせるようになった。あとはコレが中空で出来るといいんだけど、むやみに汚水を撒き散らしたくはないから、タライを使って洗濯してます。水を入れ替えるのがまだちょっと難しいのよね。汚れが溶けた水ごと脱水して捨てる。新しい水で洗剤残りがないようによく濯ぐ。濯いだあとはしっかり脱水して乾かす。
うむ、我こそは全自動洗濯機なり。
いや、全自動洗濯機欲しい。
この際、全自動じゃなくて二層式でもいいから、洗濯機みたいな魔道具はないのかしら。
魔法は便利なんだけど、洗濯の間は集中して操作しなきゃいけないのがちょっと……ボタンをポチッとしたらあとは放置で脱水までしてくれた洗濯機、本当に便利だったな。
今日は下に履くパンツなしでこちらの服。
ジャージもあるし、いいか、と思ってパンツは一本しか買わなかったけど、洗い替えにもう少し買い足した方がいいかもしれない。
このスカートも、山を降りる用にたくし上げられる改造しておかなくちゃね。
「おーい、リサー! いるかー?」
洗濯を終え朝ご飯の支度をしていると、すっかりお馴染みになった声がした。
「はいはい。今日は来る予定なかったのに、なんで?」
出迎えに出ると、ブレッドの表情が明らかに明るくなった。
「昨日、ワフタからひとりで町に降りてきてたって聞いて。本当はすぐにでも確認に来たかったんだが、仕事があったから。大丈夫だったか?」
迷子にはなりまくったから大丈夫とも言いづらい。
「一応、ちゃんと帰ってこれたよ。せっかくきたし、ご飯食べていく?」
「あぁ! ありがたい!」
なんか、だんだんブレッドが犬に見えてきた。初めて会った時から黒柴っぽいとは思っていたけど、もはやブンブン振ってる尻尾が目に見えるようだ。
たーんと食べておゆき……。
今日の朝ご飯は、チャーシュー炊き込みご飯のおむすびと、大根と大根の葉のお味噌汁、セロリと大根とにんじんを軽く塩で揉んで甘酢で和えた浅漬けだ。
セロリ、一本や二本じゃなく、一株あったからね。
まだ大部分が残ってる。
残りはどうしようかな。
チャーシュー炊き込みご飯は、おこわ風にもち米とお米を一合ずつブレンドして、にんじんと生姜の千切りを加え、残っていたチャーシューをどどんとぶち込んだ豪華版だ。彩りに細ネギが欲しかったけど、ないものは仕方がないので、代わりに庭の長ネギの白いところを微塵切りにしたものを炊き上がりに混ぜてある。生姜とネギのシャキシャキ感が脂のクドさを緩和してくれてなかなかいい。
これでにんじんも向こうのものは使い切った。
炊いたのは二合だけど、たっぷりチャーシューが入ってるから、三食食べてもひとりだと微妙なラインかな、と思っていたから、ブレッドが来てくれてありがたい。
「ちゃんと戻っていたら朝早く来ると迷惑だろうと、朝の訓練に参加してから来たが、急いできたから朝飯を食べてないんだ」
「そんなに心配してくれたの?」
子供じゃないんだから大丈夫よ、と言いかけたわたしは、続く言葉に絶句した。
「魔獣に遭ってはいないかと気が気じゃなかった」
「ま、魔獣……レイスだけじゃないの?」
夜はレイスとかゾンビが出るって話は聞いた。
でも、夕方に魔獣が出るなんて話は聞いてない。
「ここらの人間は夕方には町の外にでないから、うっかり話し忘れていたんだな……」
既に話したつもりでいたのか、ブレッドが顔を顰めた。
「ここらあたりは夕方になるとたまに魔獣がでる。俺がいれば対処できるが、出かける時は日暮前に戻った方がいい」
「なんでわざわざそんなところに住んでたのよ、ルディアーナ……」
「それは、俺も何度も言った。アイツは自分では滅多に外に出ないし、屋敷には結界を張ってるから問題ないと思っていたんだろう」
oh.引きこもり……。
「昼間なら大丈夫なの?」
「あぁ、昼間は滅多に出ない。あ、あまり朝早くても危ないから、出歩くなら日が登ってからがいい」
いくらなんでもそこまで朝早くから出歩かないよ。
しかし、滅多に、ってことは、ごく稀には出てくるってことだよね。
普段からシースナイフとサバイバルキットは身につけて歩こうかな。
「……まだ道を覚えていないんじゃなかったのか?」
「まぁ、うろ覚えだったから迷ったよね」
あっはっは、と笑うと、ますますブレッドは難しい顔になった。
「危なかったんじゃないか。しばらくは俺が付き添うから問題ないと思っていた」
「あー、気を遣わせたみたいでごめんね。今日も町に行くつもりだし、ちゃんと道を覚えるからご飯食べたら付き合ってもらっていいかな?」
それだとわたしが町に行けるの二週間後になっちゃってたよ、とは言わないでおく。
おそらくブレッドは自分が面倒を見なくては、という使命感があって、自分が来ない間わたしが何をしているかにまでは気が回っていないに違いない。
「っ……あぁ!」
まー、わたしも道はそのうち覚えればいいか、なーんて軽ーく考えてたしな。
気がかりな話が終わったからか、ブレッドは大きな口を開けておむすびにかぶりついた。
「この肉入りおむすび、美味いな! コレも売るのか?」
「あー……しばらくは考えてないけど、コレを売るとしたら原価率とか考えなきゃダメよねぇ。手持ちの食料を売るだけなら、別にいくらでもいいと言えばいいんだけど、ちゃんと商売にするとなるとなぁ」
「えらく手間暇も掛かってるし、そこいらで売るには難しそうだな」
「そうねぇ、作るのが面倒なのもあるわ」
カップ麺なら砕いて大きな具を刻むだけだけど、チャーシューを作るところから始めるとなると、一晩掛かるもんなあ。
「となると、コレを食ったのは俺だけ?」
「そうね……いやいや、昨日お肉だけだけどマグに持って行ったわ。家族で食べてくれたんじゃないかな」
ひとりで食べるつもりでも、あの様子ならおチビちゃんも食べたに違いない。何人分になるか知らないけど、推定600gのチャーシューなら、ある程度の人数の口には入れられただろう。
「……そうか」
なんだかしょんぼりしてるのはなんなの。
「肉、俺も食べたかった」
「今食べてるじゃん」
「……そうだな」
もぐもぐとおむすびを食べ、合間に浅漬けを挟む。
うん、浅漬け添えたのは正解。
酸味で口がさっぱりする。
「いや、でも、肉入りのおむすびを食べているのは俺だけ、か……?」
「それはそうだね」
「そうか。このおむすび、肉も美味いが米もモチモチして美味いな。このピクルスも甘酸っぱくて美味いし、大根のスープも美味い」
自分が肉を食べてるのに気がついたからか、元気になったブレッドは、軽々とおむすびを完食した。
まぁ、朝から角煮を1キロ近く食べる男だ。
このぐらい軽いものだろう。
食後のほうじ茶を飲みつつ、洗い物を済ませる。
もはやこの程度の水魔法ならお手の物だ。
「すごいな。もう魔法を使いこなしているじゃないか」
「ふふーん、もっと言って」
称賛の声が気持ちいい。
それじゃ、おでかけしますかね。
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