地球編・4 届く形①
本編の地球編3 からの続きになります。
※挿絵はAIイラストを使用しています
「見て見てお兄ちゃん! 50%オフだって! しかもこれ、70%オフ!」
キララの声が、ショッピングモールに響いた。
12月の週末。
街は年末セールの真っ最中で、どの店も「SALE」「大特価」「今だけ!」という文字が躍っていた。
「キララ、さっきからもう3枚目だろ」
ピカルが呆れた声で言う。
彼の手には、すでにキララが選んだ買い物袋が2つぶら下がっていた。
「だって安いんだもん! 普段なら買えない値段だよ?」
キララは目を輝かせながら、淡いピンクのニットを手に取った。
「これ可愛いでしょ? しかも元値の半額!」
「‥‥‥同じようなの、この前も買ってなかった?」
「え? 似てるけど違うよ! あれはベージュで、これはピンクだもん」
「ほとんど同じ色に見えるけど‥‥‥」
「もう、お兄ちゃんは分かってないなぁ」
キララはそう言って、ニットをカゴに入れた。
さらに、隣にあったカーディガンも手に取る。
「あ、これもいいな‥‥‥冬用のブラウスも‥‥‥」
気づけば、カゴはいっぱいになっていた。
「キララ‥‥‥」
「だって、今買わなきゃ損だよ!」
キララは満面の笑みで、レジへと向かった。
ピカルは小さくため息をついたが、妹の嬉しそうな顔を見ると何も言えなくなった。
地球に来て半年以上が経つ。
アルフィオスでは、服は貴重品だった。
一着を何年も大切に着続け、修繕を重ねて、最後の最後まで使い切る。
だから「好きな服を選べる」という地球の体験は、キララにとって魔法のようなものだった。
でも――
「お会計、12,800円になります」
レジの店員の声に、キララは少し驚いた。
「え‥‥‥そんなに?」
「はい。セール価格でこちらの金額です」
「‥‥‥」
キララは一瞬、戸惑った表情を見せた。
でもすぐに笑顔を作って、財布を開いた。
「ありがとうございました! またのご来店をお待ちしております!」
店を出ると、キララは両手いっぱいの買い物袋を抱えていた。
「‥‥‥すごい量だな」
ピカルが苦笑する。
「うん‥‥‥でも、安かったから!」
キララは明るく言ったが、その声には少しだけ迷いが混じっていた。
_____________________
それから3日後。
「ん~~~! もう無理ぃ!」
キララの悲鳴が拠点の一室に響いた。
床には色とりどりの服が山になっている。
セーター、ジャケット、パーカー、カーディガンなど冬物衣料が、まるで色とりどりの波のようにうねっていた。
「大げさだな」
ベッドの端に腰掛けたピカルが、呆れた声で言う。
彼の膝の上には、母星アルフィオスから届いた定期連絡のデータパッドが置かれていた。
「大げさじゃないよ! だって、衣替えのつもりでクローゼット開けたら、こんなに服が出てきたんだもん!」
キララは床に座り込んだまま、両手で顔を覆った。
今日は12月——地球の友人から「本格的に寒くなる前に冬服を出しておかないと大変だよ」と教わり、クローゼットの整理を始めたのだ。
予想をはるかに超える量の服に、完全に圧倒されていた。
しかも、3日前に買った年末セールの服も加わって、さらにカオスになっている。
「地球に来てから‥‥‥そんなに買ったつもりはなかったんだけどなぁ」
キララがぼやくと、ピカルは小さくため息をついた。
「『つもり』はなくても、実際に買ってるんだろ?この前のセールだけで、何枚買ったんだ?」
「え、えっと‥‥‥6枚‥‥‥?」
「7枚だよ。レジで会計してるの、見てたから」
「‥‥‥そうだっけ」
キララは観念したように頷いた。
確かに、あのときは「安い!」という気持ちが先走って、気づいたら大量に買っていた。
それに、ネット注文も混じってからは、箱を開けただけで安心して、袋のまま積んでいたこともある。
ピカルは立ち上がり、キララの横に膝をついた。
「まあ、気持ちは分かるよ。セールってそういうものだ」
その声には、わずかな優しさが滲んでいた。
「‥‥‥多すぎるね、これ」
キララは、床一面に広がる服の山を見つめた。
「うん」
ピカルも頷く。
「じゃあ、整理しよう。まずは、今年着た服と着なかった服に分けるといい」
「分かった!」
キララは気合を入れ直して、服の仕分けを始めた。
左側に「着た服」、右側に「着なかった服」——そうして1時間ほど作業を続けると、意外な事実が明らかになった。
「着なかった服」の山が、「着た服」の山よりも高い。
しかも――
「‥‥‥これ、いつ買ったんだろ?」
キララの手に、見覚えのない淡いブルーのニットがあった。
値札もタグもまだついている。
「未使用‥‥‥?」
記憶を辿ってみるが、買った記憶がない。
でも、確かにこのクローゼットから出てきた。
ということは、買ったはずなのだ。
奥の方から、もう一枚。
グレーのカーディガン。
これもタグ付き。
さらにもう一枚。
白いブラウス。
「‥‥‥あれ?」
キララは、少しずつ胸の奥がざわざわし始めるのを感じた。
買った記憶がない服。
着る機会がなかった服。
タグがついたまま、クローゼットの奥で眠っていた服。
そして——3日前に買ったばかりなのに、まだ袋に入ったままの服。
「どうした?」
急に静かになったことに、ピカルが心配そうに覗き込む。
「‥‥‥なんか、ごめん」
キララは、未使用の服を抱きしめた。
「誰に?」
「この服‥‥‥たちに」
ピカルは黙って、キララの隣に座った。
「地球って‥‥‥すごいね」
キララがぽつりと呟いた。
「こんなにたくさんの服があって、セールで安く買えて。でも、それって‥‥‥」
言葉が続かない。
でも、ピカルには分かった。
キララが感じているもの。
地球の「豊かさ」の裏側にある、何か。
「過剰」「忘却」「管理しきれない量」。
そして使われないまま眠り続けるものたち。
アルフィオスなら、一着の服すら貴重で、最後まで使い切る。
でも地球では、買ったことすら忘れてしまうほど、たくさんのものがある。
しかも「安いから」という理由で、必要以上に買ってしまう。
「‥‥‥アルフィオスのこと、思い出した」
キララが小さく言った。
「うん」
ピカルも頷いた。
ふたりは、しばらく無言で床の服を見つめていた。
そのとき――
『ピロリン』
電子音が響いた。
部屋の隅で昼寝中だったコーギーちゃんが、ぴょこんと起き上がり、尻尾を振りながら近づいてくる。
「キララ、ピカル~!」
明るい声だが、その目はしっかりとふたりの様子を観察していた。
「ちょうどいいタイミングかも! 新しい体験ミッションが届いたみたいだよ~」
「体験ミッション?」
キララが顔を上げた。
「うん! 今回は『衣の循環について』を調べてほしい、って!」
コーギーちゃんは端末に鼻を向けた。
そこには、たくさんの人々が服を運び、仕分けし、修繕している様子が映し出されていた。
「不要になった服を回収して、必要な人に届ける仕組みだよ。今回はその現場に参加してほしいんだってさ」
「服を‥‥‥回す?」
キララが、床の服を見下ろした。
「うん。捨てるんじゃなくて、『循環』させるの」
コーギーちゃんは、にっこりと笑った。
「アルフィオスみたいに、資源に制約がある星では、状況が崩れたときに『人が動く』ことがあるんだ。そのとき『衣食住』をどう回すかは大事な課題になるんだよ。だから『回す仕組み』を知っておくいい機会じゃないかな、ってね」
ピカルの目が、わずかに鋭くなった。
「‥‥‥あり得る話だ。環境を整えても、状況が崩れたら人は動く。その前提で"回る形"を考える必要がある」
コーギーちゃんの言葉に、キララは再び床の服を見つめた。
未使用のニット。
着なかったカーディガン。
買った記憶のないブラウス。
そして——3日前、セールで買ったばかりの、まだ袋に入ったままの服。
「‥‥‥私、行く」
キララが静かに言った。
「この服たち、どうすればいいか知りたい」
「オッケー! じゃあ、明日の朝、回収センターへ案内するね!」
コーギーちゃんが嬉しそうに尻尾を振った。
ピカルは、キララの横顔をそっと見つめた。
妹の瞳には、いつもの明るさとは少し違う、真剣な光が宿っていた。
地球の豊かさと、その裏側。
アルフィオスの資源不足と、これから起こるかもしれない資源を求める人々の移動。
そして「手放す」ことの意味。
キララの中で、何かが静かに動き始めていた。
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翌朝。
キララは大きなバッグに、未使用の服を詰め込んだ。
タグのついたニット、カーディガン、ブラウス。
それから、もう着ないであろう去年の服もいくつか。
そして、3日前に買ったばかりの、まだ袋に入ったままの服も。
「結構な量だね」
ピカルがバッグを持ち上げようとして、その重さに少し驚いた。
「うん‥‥‥私も、びっくりだよ」
キララは苦笑した。
「でもちゃんと届けられるなら、それでいいよね」
「そうだね」
ピカルは頷いた。
ふたりは、コーギーちゃんに導かれて、拠点を出た。
地球の冬の朝は、少し冷たい。
でも、空は澄んでいて、青かった。
灰色の空が多いアルフィオスとは、まるで違う。
「さあ、行こう! 衣食住の循環、体験スタートだよ!」
コーギーちゃんが元気よく尻尾を振った。
キララは、バッグを抱えて、その後に続いた。
心の中で、小さな予感がしていた。
この体験が、きっと——何か大切なことを教えてくれる。
そんな予感がしていた。
星レベル15突破により、本編が解放されました。
投票の結果「衣食住」が強化されたストーリーになります。
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