地球編3・小さな種②
※挿絵はAIイラストを使用しています
地球編3・小さな種①の続きになります。
深夜。
すっかり静かになった部屋の中で、ピカルとノヴァの通信はまだ続いていた。
キララはベッドで丸くなり、コーギーちゃんもその足元で幸せそうに眠っている。
眠る二人の存在が、夢のように穏やかである一方。
対照的に、画面越しの青年たちは厳しい表情を崩さなかった。
通信装置の淡い光だけが、ピカルとノヴァの二人の顔を静かに照らしている。
「アルフィオスの穀倉地帯、今はもう耕作不能らしいな。燃料供給が断たれ、再生も止まっていると聞いた」
ノヴァの低い声が、静寂を破るように響いた。
ピカルはうなずく。
「残存地域でも、子どもたちの教育は半分以上が途絶え、技術継承も困難です。記録によれば、このまま十年以内に文明的自立は完全に失われると」
「それを前に、なにかしらの『起点』が必要だと?」
ノヴァの赤い瞳が鋭く光る。
「ええ。今日見た循環型の村は、あくまで小規模なモデルにすぎませんが、意識変革の芽がありました。人々は小さな成功体験を共有することで、前へ進む力を得ていた」
ノヴァはしばし沈黙し、夜空の映像が画面越しに映る。
「かつての我が星も、同じだった。小さな希望が連なり、五百年の繁栄を築いた。しかし、それを忘れ、奪い合い、崩れていった」
「だからこそ、今必要なのは残すことだと思います。技術・知識だけでなく、人との繋がりを。」
ピカルが沈黙を破り、静かな声で言った。
ノヴァは目を細め、数秒の間を置いて応じる。
「理想だけでは星は救えない。だが、現実だけでは生き延びる価値も消える」
その言葉に、ピカルの視線が微かに揺れる。
「そう思われますか」
「ああ」
ノヴァの声には、先ほどよりもわずかに熱がこもっていた。
「君の提案した『再生可能エリア』の件だが、検討に値する」
ピカルの目が、驚きに見開かれる。
「本当に?」
「ただし、小規模な実証実験からだ。効果が認められれば、段階的に拡大する。それが現実的な選択だ」
二人の間に、張りつめたような静寂が流れる。
信念と論理が交差しながらも、同じ一点星の未来を見据えていた。
そのとき、寝室の方からキララの寝言が、ふわりと聞こえてきた。
「‥‥‥なんか今、すっごく頭使う話してなかった? うわー、どっちも顔こわーい‥‥‥」
予想外のタイミングに、ピカルとノヴァ、二人の動きがぴたりと止まる。
ピカルは口元を引きつらせ、わずかに気まずそうに目をそらした。
「‥‥‥妹は正直だな」
ノヴァが、これまでにないほど穏やかな声で言う。
その表情には、珍しくわかりやすい緩みがあった。
「いつものことです」
ピカルは軽く肩をすくめて苦笑する。
「でも彼女の感性は時として、僕らの論理より的確な答えを見つけることがあります」
通信画面の向こうとこちら。
言葉はまだ少ないがわずかに、だが確実に信頼の光が芽生えつつあった。
翌朝。
まぶしい朝陽が、宿泊施設の窓辺を柔らかく照らしていた。
ピカルとキララは、帰り支度を進めながら荷物を整理していた。
背中にリュックを背負いながら、キララがふと立ち止まり振り返る。
「みんな、ちゃんと動いてたよね。ゆっくりだけど、話し合って手を取り合って。ちゃんと未来に向かってた」
その言葉に、ピカルは静かにうなずく。
「ああ。それを、僕たちは記録に残そう」
彼の声には、昨夜よりもわずかに希望の色が混じっていた。
出発前。
ピカルの脳裏に、昨晩のノヴァとのやりとりがふと浮かぶ。
『星が再び歩き出すには、信じる意志が必要です。あなたがそれを認めるなら、きっと..…』
そのとき、通信越しのノヴァの表情が一瞬だけ揺れた。
それが驚きだったのか、それとも希望だったのか。
ピカルにはまだ判然としなかった。
だが確かに、あの一瞬に何かが芽生えたのだ。
「‥‥‥あの人もまた、何かに悩んでいるのだろうか」
ぽつりと漏らしたピカルの呟きに、すぐ隣からパシンと軽く肩を叩く音が返ってくる。
「お兄ちゃん、また難しい顔してる! さて、次はどこ行こっかー!」
明るく笑うキララの声にピカルは目を瞬き、そして苦笑した。
「そうだな。まだまだ、見るべきものがたくさんある」
そのとき、コーギーちゃんが尻尾をブンブン振りながら元気よく駆け寄ってきた。
「じゃあ次は、海洋保護の研究施設なんてどう? サンゴの再生プロジェクトとか、見どころいっぱいだよ!」
「わあ! 海! 行きたーい!」
キララがぱっと目を輝かせ、手を伸ばすように空を見上げる。
ピカルも笑顔でうなずいた。
二人と一匹は希望の種を胸に、また新たな旅路へと踏み出す。
遠く離れた母星アルフィオスへ。
小さな変化の兆しを、確かに届けるために。
その頃、アルフィオス。
冷たい風が吹き抜ける統治区域の高台で、ノヴァは一人夜空を見上げていた。
遠い星のきらめきが、彼の鋭い赤い瞳に淡く映る。
手にはピカルから送られてきた報告書。
地球での視察結果と、小規模な循環システムの詳細なデータが、びっしりと記録されている。
昨晩の通信の最後にピカルが口にした言葉を、ノヴァは心の中で繰り返していた。
『星が再び歩き出すには、信じる意志が必要です。あなたがそれを認めるなら、きっと..…』
風が、ノヴァの金色の髪を優しくなびかせる。
彼の表情にふと影が差し、そしてほんの一瞬、口元に小さな変化が現れた。
それは、誰にも気づかれないほどに淡いものだったが。
確かに、笑みだった。
『信じることの重さ』と『変化への一歩』を、少しだけ受け入れ始めた男の笑み。
夜空は静かに輝いていた。
星々は何も語らず、それでも希望を照らし続けていた。
夜更けの地球側の拠点。
ピッと電子音が薄暗い部屋に静かに鳴り響いた。
ディスプレイには、「AURORA・重要連絡/オペレーター:A.D」の文字が浮かんでいる。
コーギーちゃんが普段の能天気な顔とは打って変わって、真剣な眼差しで通信装置を見つめていたのだった。
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この後本編は続きますが、分岐としてProject Alpheosシリーズの「外伝」をお読みくださると、よりキャラたちの深堀ストーリーに繋がりますので推奨します。
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