【高台の記録者】
※挿絵はAIイラストを使用しています
風が、ほんの少し冷たくなった。
秋の訪れを告げる合図だった。
「‥‥‥やっぱりここが一番落ち着くな」
ピカルはお気に入りの高台へとやってきた。
ここは街を一望できる小さな丘の上。
人通りも少なく、静かで、考え事をするには最適な場所だ。
地球に来てから、彼はこの場所を何度も訪れていた。
敷いた白いクロスの上に腰を下ろすと、バッグから一冊の記録書と温かいお茶を取り出した。
魔法瓶から注がれるお茶は、ほんのりと湯気を立てている。
香ばしい香りが鼻をくすぐり、心が落ち着いていく。
眼下に広がるのは、色づいた木々と、のんびりとした時間が流れる街並み。
赤、黄、オレンジ――秋色に染まった木々が、まるで絵画のように美しい。
その向こうには住宅街が広がり、平和で穏やかで、そして温かい光景。
ピカルは記録書を開いた。
ページをめくるたび、彼の視線はこれまで地球で過ごした日々を思い出していた。
キララと訪れた祭り。
初めて食べた焼き芋。
紅葉の森で笑った妹の顔。
まるで赤く染まりかけている一枚一枚の葉に、それらの思い出を色付けているようだった。
ペンを走らせながら、ピカルは丁寧に記録を綴っていく。
『地球での秋――終わりと始まりが共存する季節。葉は散るが、その下では新しい命が準備を始める。人々はその循環を理解し、受け入れ、そして祝う』
どれも、アルフィオスの人々に伝えたい大切な記憶だ。
この豊かさ、この循環、この文化――すべてを持ち帰り、母星の再生に役立てたい。
それがピカルの使命であり、願いだった。
ふと吹いた風に、紅葉した葉がひとひら舞い落ちる。
ゆらゆらと、まるで踊るように空を舞いながら、葉は地面へと降りていく。
その軌跡を、ピカルは静かに目で追った。
そして、葉が彼の記録書の上に静かに落ちた瞬間――
ピカルはそれを見上げ、そっと呟いた。
「皆と同じ空を見上げられるといいな....」
赤く染まった葉を、そっと手に取る。
繊細な葉脈、鮮やかな色、そして僅かに残る温もり。
この小さな葉ひとつにも、地球の命の営みが詰まっている。
「いつか、この景色をみんなにも見せたい」
ピカルは葉を記録書に挟み、再びペンを手に取った。
『秋の葉が教えてくれたこと。終わりは、次の始まりのための準備。散ることは、新しい命を育むための犠牲ではなく、循環の一部である』
そうして彼はまた、静かに記録書へとペンを走らせるのだった。
その時遠くで、キララの声が聞こえた。
「お兄ちゃ〜ん!どこ〜?」
「ここだ」
ピカルは手を振って応えた。
坂道を駆け上がってくるキララの姿が見える。
手には何やら袋を持っている。
「見つけた!もう、こんなところにいたの?」
「ああ。記録を整理していた」
「ふ〜ん……あ、そうだ!おやつ買ってきたよ!お月見団子!」
キララは嬉しそうに袋を掲げた。
「お月見もうそんな季節か」
「うん!今夜は満月なんだって!一緒に見ようよ!」
「ああ、そうだな」
ピカルは記録書を閉じ、隣に座るキララに微笑みかけた。
二人で団子を頬張りながら、沈みゆく夕日を眺める。
やがて夜が訪れ、空に満月が昇るだろう。
地球の月も、アルフィオスの衛星も、きっと同じように輝いている。
「今夜は、星の話をしようか」
「うん!」
兄妹の静かな時間が、秋の高台で流れていく。
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