【太陽光より眩しい期待の眼差し】
※挿絵はAIイラストを使用しています
「お兄ちゃん!ハロウィンっていうお祭りは、こんな格好するんだって!やってみて!」
「……は?」
突然スマホを見せてきたキララに、ピカルは白けた表情を返す。
画面に映っていたのは、黒いケープに鋭い牙、そして不自然なほど白い肌のいかにもな『ドラキュラ』だった。
赤いベストに蝙蝠の意匠、そして大仰なまでのハイカラー。
どこからどう見ても、典型的な吸血鬼コスチュームである。
「ドラキュラさんってさ、太陽が苦手なんだって!」
「ふーん」
興味なさげに相槌を打つピカル。
だが、キララの目は既に輝いている。
これはとても嫌な予感がする。
「ほら!お兄ちゃんも寝不足だと、朝いつもブツブツ言ってるでしょ? 似てるよね!」
「……そこまでじゃない」
ピカルは思わず反論しかけた。
確かに、記録作業で徹夜した翌朝は多少機嫌が悪くなるが、それとドラキュラは全く別の話だ。
そう言いかけたピカルの返答を遮るように、キララは満面の笑みで衣装を差し出す。
「いいから、いいから!これ着てみて!バッチリ準備してきたから!」
両手に抱えられた黒いケープ、白いシャツ、赤いベスト、付け牙まで。
そしてカメラまで用意されていて、もはや逃げ場はない。
「いつの間に……」
「えへへ〜、昨日ネットで注文しといたの!サイズもバッチリだよ!」
いつものように、気づけばピカルは言われるがまま衣装を着せられ、ポーズを取らされていた。
黒いケープが肩から流れ、付け牙が口元から覗く。
白いファンデーションまで塗られて、鏡に映る自分の姿は確かに"それっぽく"は見える。
(これもどうせ、キララの例の『コレクション』のフォルダ行きだな……)
心の中でそう呟きながら、ピカルはため息をついた。
キララのスマホには、既に『お兄ちゃん変身コレクション』という謎のフォルダが存在している。
今回もまた、その犠牲者になるのだろう。
「はい!じゃあ演技して!ドラキュラっぽく!」
「……何を言えばいいんだ」
「えっとね〜、太陽が眩しくて困ってるって感じで!窓に近づいて!」
キャラになりきるよう指示されたピカルは、渋々と窓際へ移動した。
そして演出どおり、窓から差し込む太陽の光に向かって低く唸る。
「……この忌まわしき太陽め……我が夜の民の眼を焼き尽くす気か……!」
片手で光を遮るようなポーズをとりながら、わざとらしく顔を背ける。
「おぉ〜〜っ!いいね!それっぽい!」
キララの声に背中を押され、ピカルは渋々と、グローブで光を遮りながら続けた。
「しかしこれは、あれだな。記録室で徹夜した朝、カーテンを開けた瞬間の感覚だ……。間違いない。全身の細胞が光に焼かれていくような……視界が白く染まり、意識が遠のき……」
「あはは! お兄ちゃん、めっちゃ実感こもってる!」
「そりゃそうだ。体験済みだからな……」
ピカルは本気で呟いた。
実際、アルフィオスでの記録作業は夜通し行われることが多く、朝日を浴びた瞬間の眩しさと疲労感は、まさに『吸血鬼が太陽を浴びる』感覚に近かった。
「ほらねっ!めっちゃ似合ってるじゃん、キャラにピッタリ!」
キララはパシャパシャと連写しながら、嬉しそうに笑っている。
「……やれやれだ」
相変わらずの妹の無茶ぶりに肩をすくめるピカル。
だがその口元には、ほんの少しだけ笑みが浮かんでいた。
「次は私も魔女の格好するから、一緒に撮ろうね!」
「……もう勘弁してくれ」
「え〜、だってハロウィンだよ?お祭りは楽しまなきゃ!」
キララの笑顔に、ピカルは観念したようだ。
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その日の夜。
コーギーちゃんがリビングに現れたとき
「ボク、今日お出かけしてたけど……ピカル、その格好どうしたの?」
「……聞くな」
黒いケープをまだ着たままのピカルが、疲れた表情で答えた。
「あ、コーギーちゃん! 見て見て、お兄ちゃんドラキュラ似合うでしょ!」
キララが嬉しそうにスマホの写真を見せる。
「わぁ、すごい! ボクも一緒に撮りたかったな〜!」
「……お前もか」
ピカルは深く、深くため息をついた。
地球での生活は、予想以上に賑やかなようだ。
リクエスト:ドラキュラのモノマネをするピカル
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