地球編・2 灯りをつなぐものたち②
※挿絵はAIイラストを使用しています
地球編・2 灯りをつなぐものたち① の続きになります。
その夜。
祭りの中心に設えられた大きな焚き火の前で、ふたりは静かに今日の体験を語り合っていた。
炎はゆらゆらと音もなく揺れながら、広場をほんのり照らしている。
「ねえ、お兄ちゃん」
キララが焚き火を見つめたまま、ぽつりと口を開いた。
「お祭りってね、ただ楽しいだけじゃないんだって気づいたの。おばあちゃんたちの目、すごくキラキラしてた。昔のこと思い出して、それを私たちに教えてくれて‥‥‥なんだか、バトンを渡してもらった気がしたんだ」
「バトン、か」
ピカルは静かに繰り返した。
「僕が資料館で見た古い文様にも、同じことが書いてあった。『音は人の心を揺らし、時間を越えて伝わる』って。地球の人たちは、祭りや文化を通じて、過去と未来をつないできたんだ」
「うん‥‥‥!」
キララは大きく頷いた。
「文化って、目に見えるものより、心でつながってるんだよね。ずっとこれからも」
ピカルは妹の言葉を受け止めるように、ゆっくりと頷いた。
「‥‥‥ああ。文化とは、記憶の形なんだと思う。それをたどることは、人々との繋がりを思い出すこと。そして——」
ピカルはノートを開き、ペンを走らせた。
「アルフィオスが失ったのも、取り戻すべきものも、きっとこれなんだ」
『文化=灯り。忘れられたものではなく、心にともる記憶』
炎の光に照らされたその文字は、まるでふたりの決意が形になったかのように、ノートの上で静かに輝いていた。
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そのころ、アルフィオス。
いつものように、風ひとつない静寂の夜。
荒廃した街並みに、月の光だけがぼんやりと降り注いでいる。
ひび割れた建物が作る影は、まるで星の傷跡のように地面に伸びていた。
その時だった。
街の中心にそびえる空気循環塔——もう何十年も動いていなかった古い施設の頂上部分が、小さく光った。
ピカッ。
一瞬の光。
そして、また消える。
ピカッ。
今度は少し長く。
まるで何かが目覚めようとするように、不規則な点滅を繰り返し始めた。 淡い青白い光が、夜空に浮かび上がる。
それは、星が息をしているかのようであり 、 長い長い眠りからゆっくりと目を覚まそうとしているかのような——。
そんな小さく、けれど確かな変化だった。
同じ夜。
アルフィオス、中央統治塔の最上階。
ノヴァは大きなモニターの前に座り、環境研究施設から送られてきた最新データを見つめていた。
静まり返った制御室。
彼の指先が画面を操作する音だけが、かすかに響いている。
「これは‥‥‥」
表情は相変わらず冷静だ。
だがその赤い瞳の奥には焦りと、そして小さな希望の光が複雑に揺れていた。
画面に並ぶ数値。
風の流れがわずかに変わった。
気温がほんの少しだけ安定してきた。
枯れ果てていた土壌から、湿度が戻り始めている。
どれも小さな変化だ。
でも、確実に星が回復し始めている。
「再生兆候が、またひとつ‥‥‥」
ノヴァは低く呟いた。
「やはり、彼らの影響なのか?」
視線を横に移す。
卓上には、かつてリアナス家が記した未完の地図が広げられていた。
その隣には、ピカルとキララが地球から送ってきた文化報告の資料が、山のように積まれている。
紙細工の折り方を説明した図解。
地域祭りで使われていた飾り付けの配色パターン。
太鼓のリズムを記した楽譜と歌詞。
古い民家の美しい意匠をスケッチした図面。
どれも、一見すると星の再生には関係のなさそうなものばかり。
でも。
これらの情報は、すでにアルフィオスの文化保存局に共有されていた。
そして今、各地の集落で小さな変化が起き始めている。
廃材を使って祭りの飾りを作る人たち。
忘れかけていた民謡を、子どもたちに教え始めた老人たち。
特に人気なのは、地球から届いた紙細工だ。
子どもたちが夢中になって折った星型の飾りは、いつしか「光の花」と呼ばれるようになり、今では村中を彩っている。
「文化か‥‥‥」
ノヴァは深く息を吐き、背もたれに身を預けた。
「本当に‥‥‥変わり始めているのか? この星が」
独り言のように漏れた声は、かすかに震えていた。
希望を否定することに慣れていた。
効率と現実だけを見て、感傷を捨ててきた。
それが統治者としての自分の役割だと、ずっとそう思ってきた。
でも今その冷たい心に温かい何かが、少しずつ触れ始めている。
ふと、視線が卓上の端に置かれた古びた端末に向いた。
そこには、古い映像が流れている。
色あせた画面の中で、人々が笑っている。
歌い、踊り、祭りを楽しんでいる。
リアナス家とエルグラン家が、まだ対立していなかった頃。
協力して祭を執り行い、星全体が一つになっていた輝いていた時代の記録。
「‥‥‥もう一度」
ノヴァの声に、これまでにない強さが宿る。
「もう一度、あの光景をこの星に取り戻せるのか」
胸の奥に、小さな決意が芽生えていた。
画面の向こうの地球で、ピカルとキララは今日も何かを学んでいるのだろう。
笑って、驚いて、体験して、その全てを記録してアルフィオスに送ってくれている。
「お前たちの旅が‥‥‥」
ノヴァは静かに目を閉じた。
「本当に意味を持ち始めているなら——俺も、動かなければならないな」
夜風が、塔の窓を優しく撫でた。
遠い星で灯った小さな希望の火が、今、確かにアルフィオスに届き始めていた。
遠い空の下で始まった小さな文化体験は、やがて星の記憶と心を結ぶ灯火となっていた。
それはデータには収まりきらない、人々の内に宿る『希望』という名の再生エネルギーを、静かに星へ届けていた。
星レベル5に達成したため、本編が解放。
読者投票により、衣食住・環境・文化の中から「文化」が補強されたストーリーになりました。
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