地球編・2 灯りをつなぐものたち①
※挿絵はAIイラストを使用しています
「ねぇねぇお兄ちゃん、なんか楽しそうな音しない? ほら、あっちから!」
キララがうきうきした様子で、ピカルの袖を引っ張る。
春の風に舞う花びらのなか、ふたりは買い出しの途中で足を止めていた。
ピカルが耳をすませると、広場のほうから太鼓のリズムが、心地よく響いてきた。
「あれは祭りの準備かな? にぎやかだな」
キララはそわそわと落ち着かない様子で、ちらりとピカルを見上げた。
「‥‥‥行ってみてもいい?」
ピカルは穏やかに微笑んだ。
「そう言うと思ってた。行こう」
キララはぱっと顔を輝かせて、小さく跳ねるように駆け出した。
ピカルもあきれながら、その後をゆっくりと追いかける。
商店街の先には、カラフルな飾りと屋台、にこやかに働く人たちの姿が広がっていた。
笑い声、風にそよぐ旗、焼きたての香り。
それはまるで、生きている文化の風景そのものだった。
「すごい! すごい! まるで夢の中みたい!」
キララは目を輝かせながら、飾り布の間を跳ねるように歩いていく。
屋台の甘い匂い、太鼓のリズム、笑顔が交わされるあたたかい空気。
彼女はそのすべてに目を見張り、まるで心ごと吸い込まれていくようだった。
「文化って‥‥‥こんなに人を元気にするものなんだな」
ピカルはその様子を見つめながら、静かに言葉をこぼした。
アルフィオスでは、このような派手な祭りは遠い昔の記録にしか残っていない。
資源が枯渇し、星が衰退していく中で人々は生きることに精一杯だった。
かつては季節ごとに祭りがあり、音楽や踊りで溢れていたはずなのに今では誰もがただ静かに、必要最低限の日々を送っている。
文化を楽しむことを忘れたように。
いや、忘れざるを得なかったのだ。
祭りの色彩、人々の笑い声、太鼓の響き。
それらすべてが、ピカルの心に鮮烈に刻まれていく。
彼にとってもまた、これは記録ではなく『体感』としての感銘だった。
そして同時に、アルフィオスが失ってしまったものの大きさを、改めて思い知らされる瞬間でもあった。
_____________________
ピカルは少し離れた場所から、それを静かに見つめていた。
キララはすでに人々に混じって飾りを結ぶ手伝いをしている。
「‥‥‥あの子はすぐに馴染むな」
ピカルは小さく笑いながら、近くにあった案内板へと目を向けた。
そこにはこの祭りの由来と、歴史が簡単に紹介されていた。
ふと、説明文の下に描かれた、古い図柄に視線が釘付けになる。
幾何学的な円と、線が組み合わさった模様。
中心から放射状に伸びる七本の線、それを囲む二重の円環。
「これは‥‥‥」
ピカルの心臓が高鳴った。
その文様は、アルフィオスで500年前の祭儀に使われていた『調和の紋章』にそっくりだったのだ。
七つの領域を結ぶ線、星全体の循環を表す円環——構造まで一致している。
偶然だろうか? それとも――
記録係としての好奇心が疼く。
ピカルは、祭り会場から少し歩いたところにある、小さな資料館へと足を運んだ。
木造の建物に差し込む午後の光の中、彼は祭りに関する展示コーナーを丁寧に見て回った。
そして、壁際のガラスケースに収められた古文書の前で、再び足を止めた。
そこには案内板で見たものより、はるかに複雑で精緻な文様が記されていていた。
「この構造‥‥‥まるで星の記録網と同じ‥‥‥」
文様の周囲には古い文字で説明が添えられている。
ピカルは息を呑みながら、その内容を読み進めた。
『この文様は村々を結ぶ守りの印。祭りの音は風に乗り、遠く離れた人々の心をひとつに結ぶ』
『音は人の心を揺らし、時間を越えて伝わる』
「音が‥‥‥記憶をつなぐ‥‥‥」
ピカルは胸の奥に何か灯る感覚を覚えた。
文化とは、ただの娯楽ではない。
それは人と人、時代と時代を結ぶ"記憶の糸"なのだ。
そして、アルフィオスが失ったのは、まさにこの糸だったのかもしれない。
__________________
一方その頃、キララは地域の年配の女性たちと一緒に、飾りの一部である紙細工を折っていた。
「これ、すっごく可愛い! アルフィオスでも飾ったら絶対楽しいよねっ」
「アルフィオスって、どこの国だい?」
「えっ‥‥‥あ‥‥‥えっと、遠くの星、かな?」
アハハと笑ってごまかすキララに、周囲は疑いなく笑顔で返してくれる。
そのぬくもりに、彼女は少しだけ眩しそうに目を細めた。
「こういうお祭りって昔からあったの?」
「ええ、あったよ。ずっと昔からね。季節の節目には、みんなで集まって、笑って、歌って……そうやって、町も人も元気をもらってきたのさ」
年配の女性が手を動かしながら、やさしく語る。
その目には、懐かしさと誇りがにじんでいた。
その眼差しを見つめていたキララの胸に、温かいものがじんわりと広がった。
祭りは、ただ楽しいだけじゃない。
昔の人から今の人へ、そして未来の人へと、想いがずっとつながっていく。
笑顔も、歌も、飾りも——すべてが大切な何かを運んでいるんだ。
キララはそれを"心の灯り"と呼びたくなった。
消えそうになっても、誰かが受け継いでくれる。
そうやって、ずっと光り続けている灯り。
「アルフィオスにも‥‥‥この灯り、届けたいな」
小さくつぶやいたキララの言葉を、春の風が優しく運んでいった。
地球編・2 灯りをつなぐものたち② に続きます。
お読みくださりありがとうございます!
ブックマーク、評価、コメントを頂けると大変嬉しいです!!
リクエスト企画の方は不定期で参加者様を募集してます。
Xで最新情報を投稿してますので、よかったらご覧ください。




