外伝 第1話 懐かしき笑顔
単独でも読めますが、「地球編3」の続きとして読んでいただけると、よりわかりやすくなっているかと思います。
外伝は全5話です。
※挿絵はAIイラストを使用しています
地球での生活を始めてから半年ほどが過ぎた。
ピカルとキララが拠点にしている、人通りの少ない建物は今夜も静けさに包まれていた。
窓の外では街灯の淡い光が瞬き、カーテンの隙間からわずかな夜気が差し込んでいる。
「お兄ちゃん、見て!ホットケーキ、やっと上手に焼けたんだ!」
弾む声とともにキララがテーブルに近づいてきた。
手にしたトレイには山盛りのホットケーキ。
地球で覚えたばかりのレシピに挑戦したらしい。
形はいびつで焼き色もまばらだが、そこにはキララが懸命に挑戦した証が刻まれていた。
「ありがとう、キララ。ただし食べ過ぎないようにな」
ピカルはペンを置き、苦笑を浮かべた。
テーブルの上にはアルフィオスの現状報告と、地球で学んだ知識をまとめた資料が整然と並んでいる。
相変わらずの几帳面さだ。
妹の努力を嬉しく思いながらも、体調を気遣う言葉を忘れないあたりがピカルらしい。
「ワンッ!」
部屋の隅では、コーギーちゃんが尻尾を振っていた。
普段は犬らしく振る舞っているが、その瞳には知性の光が宿っている。
最近では守冠を介さなくても不思議と会話できるようになったものの、近所の目を考えればただの犬を演じ続けるしかないのだった。
そんな平和な夜を破るように、玄関のチャイムが鳴り響いた。
「え?誰だろう?」
キララが首をかしげる。
訪ねてくる知人など数えるほどしかいない。
ピカルは慎重に立ち上がり、ドアスコープを覗いた。
その瞬間、視界に飛び込んできた赤い髪。
がっしりとした体格に、人懐っこそうな笑顔。
「まさか……」
「お兄ちゃん、誰?」
「アルデンだ」
ピカルの声に、キララの顔がぱっと輝いた。
「アル!?え、本当に!?」
急いでドアを開けると、そこには懐かしい人物が立っていた。
「よう、久しぶりだな。元気にしてたか?」
赤髪をくしゃりとかきながら笑う男――アルデン・セリオス。
肩に白いコートを羽織り、AURORAの調査員の装備を身につけているが、いつもの飄々とした雰囲気は変わらない。
「アルデン!どうしてここに?」
「任務の合間に寄ったんだ。この星域を調査していてな。せっかくだから顔を見に来た」
彼が室内へ足を踏み入れると、コーギーちゃんが小走りで近づいてきた。
尻尾を振りながらも、その表情はどこか不機嫌そうだ。
「よぉ、今回は随分と可愛い姿になったな」
アルデンがしゃがんでコーギーちゃんを見下ろすと、一瞬だけ人間らしい表情を見せた。
二人はAURORAの同僚として長く顔を合わせてきた間柄でもある。
だからこそ、軽口を叩ける気安さがあった。
「外見に触れるのは規定違反だぞ!」
周囲に他の人がいないことを確認してから、ようやく本性を現した。
低い声でプルプル震えながらぼそっと抗議するその姿に、アルデンは腹を抱えて笑いながら、コーギーちゃんを撫でまわした。
「ははっ、相変わらず堅物だな。そんな可愛い姿じゃ説得力ないぞ」
「ボクは真面目にやってるんだ!」
必死に声を張り上げるコーギーちゃん。
そんなやりとりにキララが慌てて割って入る。
「アル!」
その時、キララが嬉しそうに飛び跳ねながらアルデンに向かって走ってきた。
「おっと!」
アルデンは咄嗟に腕を広げて、キララを受け止めた。
15歳になった今でも、彼女の中では昔助けてくれた特別な存在として、アルデンは変わらず輝いて見えるのだった。
「会いたかった!元気だった?」
「ああ、俺は元気だ。お前の方はどうだ、地球の暮らしは?」
「楽しいよ!人も優しいし、美味しいものもいっぱいあるんだよ!」
無邪気に笑うキララに、アルデンの表情も和らいだ。
しかし、その光景を見つめるピカルの顔は僅かに険しい。
「アルデン、キララから離れてくれ」
「分かった分かった」
アルデンは苦笑いしながら、キララから少し距離を取った。
そして振り返ると、ピカルを茶化すように言った。
「お前は昔から変わらないなあ、ピカル。過保護すぎるんじゃないか?」
「妹を守るのは当然のことだ」
「キララはもう15歳だぞ?そろそろ自立も考えさせてやれよ」
「それは……」
「お兄ちゃんは心配しすぎなの」
キララが笑って口を挟んだ。
「でも、それが優しいところだから好きだよ」
その一言に、ピカルの表情も少し緩んだ。
「まあ、とりあえず立ち話もなんだし座って話そう」
コーギーちゃんがソファを指し示すように尻尾を振る。
「そうだよ!アル、お茶でも飲みながらお話しよう!」
キララが嬉しそうに台所へ向かう。
相変わらず元気いっぱいの妹を見て、ピカルも小さくため息をついた。
「全く、昔から変わらないな」
「それはお互い様だ」
アルデンが豪快に笑うと、部屋に賑やかな空気が広がった。
地球での日常に、故郷の匂いがふと混ざった瞬間だった。
AURORA調査員として各地を巡る彼が、わざわざ地球まで足を運んでくれたこと。
それは兄妹にとって、故郷・アルフィオスの温かさを感じられる貴重な時間の始まりでもあった。
「それで、調査の方はどうなんだ?」
ピカルが真面目な表情で尋ねると、アルデンの顔も少し引き締まった。
「まあ、それについては……ゆっくり話そう」
コーギーちゃんも神妙な顔で頷く。
どうやら、単なる挨拶以上の話があるようだった。
しかし今は、久しぶりの再会を楽しむ時間。
難しい話は後に回して、まずはキララが作ってくれるお茶を待つことにした。
台所では彼女が張り切って、先ほど作りあげたホットケーキを大皿に積み上げ並べている。
料理が得意ではないことを知っているアルデンも、その光景に感心したように声を漏らした。
「こんなのも作れるようになったのか。大したものだな」
「へへっ!キララもちゃんと成長してますから!」
キララは得意げに胸を張り、お茶と一緒にごちそうしようと準備を続ける。
「アルー!砂糖はいくつ?」
台所から明るい声が響く。
「俺はピカル程甘党じゃないから、一つで十分だ」
「はーい!」
夜の静けさの中、淡い光が小さな部屋をやわらかく照らしていた。
外伝のPV動画(youtube)にございます。
https://youtu.be/i-ovccDfyew?si=UjOiZMOHUMt6O6ng
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