【地球の猫という生き物は油断ならない】
※挿絵はAIイラストを使用しています
地球での体験学習、今回の舞台は『猫カフェ』。
本来は「情報収集」のつもりで訪れたピカルだったが……。
「わっ……ちょっと、近い……!というか、乗りすぎ!」
膝の上に二匹、肩に一匹、腕に一匹、そして読んでいた本の上にもドドンと鎮座。
視界の端がふわふわの毛で埋まり、身動きひとつまともに取れない。
眼鏡を押し上げようとした手に、するりと小さな体重がのしかかる。
「ち、ちょっと!メモはいじらないでくれ!」
持ってきた調査用メモまで前足で押さえ込まれ、猫じゃらし代わりにされてしまった。
結果、この日の《静かな調査記録》は、ふわふわの生き物たちにより完全に中断される。
後に彼のメモには、こう残されていた。
『猫は……思考の隙間に入り込む、不思議な力を持つ生き物である』
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猫カフェを出た帰り道。
ピカルはメモ帳を見つめ、少し疲れたようにため息をついた。
「やれやれ、思ったより長居してしまったな」
ページの端には、猫に噛まれた小さな跡。
その不格好な形を見て、彼は不意に小さく笑みを漏らす。
ちょうどそのとき、ポケットの通信端末が鳴った。
画面越しに弾んだ声が響く。
『お兄ちゃんー!猫カフェどうだったどうだった!?』
どうやら帰りが遅いのを心配していたらしい。
「ああ。興味深い体験だった」
『興味深いって、楽しかったってことだよね!?』
「まぁ……定義による」
『フフッ!にやけ声になってるよ、お兄ちゃん』
「……気のせいだよ」
苦々しく返しながらも、ピカルはポケットのメモ帳を軽く叩いた。
あの柔らかい毛並みと、膝に伝わった小さな体温。
まだ身体のどこかに残っている気がした。
「地球の生き物は、油断ならないな」
そう呟いたメモの最後には、後で書き足された文字がある。
『観察対象に心を許すことは、悪いことではない』
雨上がりの街を歩きながら、ピカルは眼鏡を押し上げた。
その表情は、どこか優しく緩んでいた。
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帰宅後。
玄関を開けた瞬間、キララがぱっと顔を輝かせて飛び出してきた。
「おかえりお兄ちゃん!ね、ね、どうだった!?猫ちゃんいっぱいだったでしょ!?」
矢継ぎ早の質問に、ピカルは靴を脱ぎながら軽く肩をすくめる。
「いっぱいという表現では足りないな。集中攻撃だった」
「ぶはっ……!なにそれ!猫ちゃんにやられたの!?」
お腹を抱えて笑うキララに、ピカルは真顔でメモ帳を差し出した。
噛み跡の残るページを見て、彼女の目がさらに丸くなる。
「わ、ほんとに跡ついてる!かわいすぎる……!ねえねえ、その子連れて帰ってくればよかったのに!」
「それはダメだろう。それに、観察対象は観察対象だ」
「でもちょっと名残惜しかったでしょ?」
にやにやと覗き込む妹に、ピカルは小さく咳払いをして視線を逸らす。
「気のせいだ……」
「出たー!気のせい!絶対嬉しかったやつでしょ!」
キララは得意げに指をさし、勝ち誇った笑みを浮かべた。
そんな妹の様子を見ながら、ピカルはわずかに口元を緩める。
「まあ、悪くはなかった」
「じゃあ今度は一緒に行こ!私も猫まみれになりたーい!」
「それはまた計画が狂いそうだな」
苦笑しつつも、その声色にはどこか楽しげな響きが混じっていた。
窓の外では、雨上がりの夕空に柔らかな光が差し込み始めていた。
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