【夏のごちそう】
※挿絵はAIイラストを使用しています
「ほら見てお兄ちゃん!美味しそう!」
木漏れ日の下、キララが両手いっぱいに抱えていたのは、ふんわりと甘い香りを漂わせる夏のごちそうの『桃』。
頬を紅潮させながら差し出すその姿は、果実よりも瑞々しく輝いていた。
「ふふっ!なんか私のほっぺたみたいじゃない?」
そう言って、桃を自分の頬にくっつけたり離したり。
笑いながらぴとっと押し当てる仕草に、ピカルは木陰から視線を外せない。
夏の陽射しに透けるピンクの髪、眩しいほどの笑顔。
どんなデータよりも鮮やかだ。
「お兄ちゃんにも、あとで半分あげるねっ!」
「そう言って、いつも全部食べるじゃないか」
「え〜〜っ!ちゃんと今回はあげるよ!?」
木漏れ日の下で響く笑い声と、桃の甘い香り。
それは夏の風に乗って、森の奥深くまで広がっていった。
キララの声が風に揺れて届く。
「お兄ちゃんにも、あとで半分あげるねっ!」
(信じていいものか?)
ピカルは小さく笑って首を横に振ると、手元の端末をそっと閉じた。
調査データも記録用のノートも、今は必要ない。
目の前にある“日常”の方が、はるかに貴重に思えたからだ。
「ねえお兄ちゃん。桃ってさ、地球じゃ“長寿”とか“幸せ”の象徴なんだって!」
桃をぎゅっと抱え、得意げに振り返るキララ。
「つまりね、いっぱい食べたら、アルフィオスにもご利益あるかもってこと!」
「そういう理屈で、さっきから何個食べたんだ」
「う〜んと……(指折り数える)……えへへ!」
(答えになっていない……)
けれど。
枝に揺れる果実、白いワンピースに夏の光。
笑い声と甘い香り。
遠くで鳴くセミ、風が草をなでる音。
どれも記録の端に収めるには惜しすぎる光景だった。
「じゃあ、一個くらい譲ってもらおうかな」
ピカルが立ち上がると、キララはぱっと花のように笑った。
「やった!じゃあこの一番まるっこい子ね!これ、“幸せの桃”って名前にしよっ!」
両手で差し出された桃はほんのり温かく、夏の陽射しと同じ優しい匂いがした。
「幸せ、か。悪くないな」
「でしょでしょ〜?お兄ちゃんも、今日はいっぱい笑ってねっ!」
夏の午後。
果実よりも甘い時間が、そっと熟れていった。
参加者リクエスト:「キララと桃」
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