【紫陽花と雨の記憶】
※挿絵はAIイラストを使用しています
雨音がやわらかく響く夕暮れ。
ふたりは一つの傘を差し、肩を並べて歩いていた。
「ねぇお兄ちゃん、見て見て!」
キララが小走りで足を止め、指さしたのは道端に咲く紫陽花。
しっとりと濡れた花弁が、薄暗い雨の中で鮮やかに浮かんでいた。
「この紫陽花、わたしの髪とおそろいみたいじゃない?」
瞳を輝かせて笑うキララに、ピカルも思わず口元を和らげる。
隣に咲いていた水色の花に目をやりながら、静かに言った。
「……じゃあ、こっちは僕の色かな」
ふたりの視線が重なり、同時に笑みがこぼれる。
「やっぱり、このお祭りに来てよかったねっ」
「ああ……紫陽花も、梅雨も。悪くない」
雨に濡れた花々が提灯の明かりを受け、ふたりの髪と同じように、そっと風に揺れた。
ふと風が強まったのを感じて、ピカルは傘を少し傾ける。
妹の肩が濡れないように、手首で角度を微調整した。
「風が出てきた。ほら、もう少し寄れ」
「えへへ、ありがとう、お兄ちゃん」
キララは嬉しそうに傘の中でピカルの袖を軽くつかむ。
そのまま周囲をきょろきょろと見回して、目を輝かせた。
「見て、提灯がふわふわしてる。風でゆらゆらして……まるで生きてるみたいだね」
「そうだな。雨で光が滲んでるから、輪郭が柔らかく見えるんだ」
説明するピカルの横顔に、キララは小さく笑った。
「お兄ちゃんってさ、なんでも説明できちゃうけど……今日みたいな日は、説明いらない気もする」
ピカルは一瞬、目を丸くした後、ふっと笑う。
「……そうだな。感じるだけでもいいな」
その言葉にキララは嬉しそうに頷き、透明な傘を見上げた。
ポツポツと雨粒が傘を叩く音。
提灯の灯りに揺れる紫陽花。
静かで優しい時間が、ふたりをやわらかく包み込んでいく。
そして、キララがぽつりと呟いた。
「この時間、ずっと覚えておきたいな」
その声を聞いたピカルは、小さく返事をした。
雨音に混じるその言葉を胸の奥に、深く刻み込むように。
参加者リクエスト:「二人で紫陽花祭り体験」
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