地球編・4 届く形③
※挿絵はAIイラストを使用しています
地球編・4②の続きになります。
昼休憩の時間。
キララは、ピカルとコーギーちゃんと一緒に、休憩室で座っていた。
「‥‥‥疲れた」
キララが、テーブルに突っ伏した。
「お疲れ様」
ピカルが、ペットボトルのお茶を差し出す。
「ありがとう‥‥‥」
キララは、お茶を一口飲んで、ため息をついた。
「どうだった?作業は」
「‥‥‥難しかった」
キララは、正直に答えた。
「私、全然分かってなかった」
「何が?」
「手放すこと」
キララは、自分の手を見つめた。
「私、『いらない服を寄付すればいい』って思ってた。それで、誰かの役に立つって」
「うん」
「でも、違った」
キララは、ゆっくりと言葉を続けた。
「寄付するにも、ルールがあるの。季節とか、汚れとか、状態とか。全部、基準があって。その基準に合わないものは、リサイクルになっちゃう」
「そうだね」
「私が持ってきた服も‥‥‥いくつかは、リサイクルになると思う」
キララは、バッグの中の服を思い出した。
タグ付きの綺麗な服もあれば、少し毛玉のある服もある。
色あせた服もある。
「それに‥‥‥」
キララは、午前中の出来事を思い出した。
「私、仕分けも全然できなかった。何度も間違えて、スタッフさんに迷惑かけた」
「最初だから仕方ないよ」
「でも‥‥‥」
キララは、唇を噛んだ。
「善意だけじゃダメなんだって、言われた」
「誰に?」
「ボランティアの人。『善意だけじゃ、回らない』って」
ピカルは、少し考えてから口を開いた。
「‥‥‥その人の言う通りかもしれないね」
「お兄ちゃんも、そう思う?」
「うん」
ピカルは頷いた。
「善意は大切だよ。でも、善意だけで物事は回らない。ルールがあって、基準があって、それを守る人がいるから、ちゃんと循環する」
「‥‥‥」
「キララが間違えたのは、そのルールをまだ知らなかったから。でも、これから覚えればいい」
「覚えられるかな‥‥‥」
「覚えられるよ」
ピカルは、優しく言った。
「キララは、ちゃんと学べる子だから。迷ったら止めて聞けばいい。それだけで、だいぶ違うよ」
その言葉に、キララは少しだけ救われた気がした。
「お兄ちゃん‥‥‥私、午後もがんばる」
「うん」
「今度は、ちゃんとルールを覚えて、迷惑かけないようにする」
「頑張れ」
ピカルは、キララの頭をそっと撫でた。
コーギーちゃんも、尻尾を振って応援してくれる。
「キララなら大丈夫だよ! ボクも見ててあげるからね!」
「ありがとう、コーギーちゃん」
キララは、少しだけ笑顔を取り戻した。
午後の作業。
キララは、今度は慎重に、一つ一つ確認しながら仕分けを進めた。
「これは‥‥‥色あせてる。リサイクル」
「これは綺麗。そのまま使える」
「これは毛玉が多い。リサイクル」
「これはボタンが取れてる。修繕が必要」
少しずつ、基準が分かってきた。
「キララさん、いい感じですね!」
ベテランボランティアが、笑顔で声をかけてくれた。
「ありがとうございます!」
キララも、嬉しくなって作業を続けた。
でもそのとき、キララの手がある服で止まった。
淡いブルーのニット――自分が持ってきた、あのニットだ。
タグも値札もついている新品同様の服。
「‥‥‥」
キララは、そのニットをじっと見つめた。
買った記憶がない服。
クローゼットの奥で眠っていた服。
でも、誰かが作って、誰かが売って、自分が買った服。
「これは‥‥‥そのまま使える」
キララは、そっと「リユース」の箱に入れた。
そして、次の服を手に取る。
3日前、セールで買ったカーディガン。
まだ袋に入ったままだったもの。
「‥‥‥これも」
キララは、タグを確認して、「リユース」の箱に入れた。
一つ、また一つ。
自分が持ってきた服が、仕分けられていく。
そのまま使えるもの。
修繕が必要なもの。
リサイクルになるもの。
「‥‥‥ごめんね」
キララはリサイクルの箱に入れた服に、小さく謝った。
「でも、ちゃんと次に繋がるから」
リサイクルされた服は、工業用の布や、別の製品に生まれ変わる。
捨てられるわけじゃない。
形を変えて、また誰かの役に立つ。
「‥‥‥そうだよね」
キララは、少しだけ胸のモヤモヤが晴れた気がした。
______________
作業が終わったのは、夕方だった。
「今日は本当にお疲れ様でした!」
佐藤さんが、笑顔で声をかけてくれた。
「こちらこそ、ありがとうございました」
キララとピカルは、深く頭を下げた。
「最初は大変だったと思いますけど、午後はとても丁寧に作業してくれて、助かりました」
「いえ‥‥‥午前中は、ご迷惑をおかけしました」
キララが申し訳なさそうに言うと、佐藤さんは首を振った。
「最初はみんなそうですよ。大事なのは、そこから学ぶことです」
「‥‥‥はい」
「それにキララさんは、ちゃんと服を大切に思ってくれてる。それが伝わってきました」
「本当ですか?」
「はい。リサイクルの箱に入れるとき、『ごめんね』って言ってたでしょ?」
「‥‥‥聞こえてました?」
「ええ」
佐藤さんは、優しく微笑んだ。
「その気持ちがあれば、きっと大丈夫です」
キララは、少しだけ救われた気がした。
「ありがとうございます」
「また、よかったら来てくださいね」
「はい!」
キララは、元気よく返事をした。
施設を出ると、外はもう薄暗くなっていた。
「お疲れ様、キララ!」
コーギーちゃんが、尻尾を振りながら言った。
「うん‥‥‥疲れたけど、勉強になった」
キララは、夕空を見上げた。
「手放すって、ただ渡すだけじゃないんだね」
「どういうこと?」
ピカルが尋ねた。
「届く形にすることが大事なんだって」
キララは、ゆっくりと言葉を続けた。
「綺麗な状態で、使いやすい状態で、受け取る人が嬉しいと思える状態で渡す。それが、本当の『手放す』なんだって」
「‥‥‥そうか」
ピカルは、静かに頷いた。
「私、今まで『いらないものを渡せばいい』って思ってた。でも、違った」
キララは、自分の手を見つめた。
「ちゃんと考えて、準備してキチンと届ける。それができて初めて『循環』するんだ」
「そうだね」
「‥‥‥アルフィオスでも、同じだよね」
キララは、故郷を思い出した。
「これから人が移動するとき、きっと『手放す』ことがたくさんある。でも、ただ捨てるんじゃなくて、ちゃんと次に繋げないと」
「うん」
「そのためには、ルールと基準が必要で、それを守る人が必要なんだ」
キララの言葉に、ピカルは少し驚いた表情を見せた。
妹が、ここまで深く考えているとは思わなかった。
「‥‥‥成長したな、キララ」
「え?」
「いや、なんでもない」
ピカルは、少し照れたように視線を逸らした。
「帰ろうか」
「うん!」
キララは、元気よく頷いた。
三人は、夕暮れの街を歩き始めた。
キララの心の中で、何かが少しずつ形を変え始めていた。
「手放す」ことの意味。
それは、ただ「いらないものを捨てる」ことではない。
「届く形にして、次に繋げる」こと。
そのためには、善意だけでなく、ルールと基準、そして——現場で回る仕組みが必要なのだ。
キララは、まだ気づいていなかった。
この気づきが、やがて「アルフィオスの未来を変える」大きな一歩になることを。
地球編・4 ④に続きます。
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