地球編・4 届く形④
地球編・4 届く形③の続きになります
※外伝の内容が少し含まれます。ご興味ある方は外伝も見ていただければ幸いです
※挿絵はAIイラストを使用しています
数日後。
キララは再び、リユース・リサイクルセンターを訪れた。
「また来てくれたんですね! ありがとうございます!」
佐藤さんが、嬉しそうに迎えてくれた。
「この間、勉強になったので‥‥‥もっと知りたいと思って」
キララは、少し照れながら答えた。
「それは嬉しいです。今日は、配布の現場も見てもらえますよ」
「配布‥‥‥?」
「はい。仕分けした服を、必要な方々に配る活動です」
佐藤さんの言葉に、キララの目が輝いた。
「見たいです!」
「じゃあ、午後から一緒に行きましょう。今日は地域のコミュニティセンターで配布会があるんです」
______________
その日の午後。
キララとピカルは、佐藤さんたちと一緒に、ワゴン車に荷物を積み込んだ。
段ボール箱には、昨日仕分けた服がきれいに畳まれて入っている。
「結構な量ですね」
ピカルが、箱を運びながら言った。
「そうなんです。今日は冬物中心で、約200着ほど持って行きます」
「200着‥‥‥」
キララは、その数に驚いた。
この間、自分が仕分けた服も、この中に入っているのかもしれない。
「さあ、出発しましょう!」
コミュニティセンターに着くと、すでに何人かの人が入口で待っていた。
「あ、始まるの2時からですよね?」
一人の女性が、不安そうに尋ねてきた。
「はい、2時からです。もう少しお待ちくださいね」
佐藤さんが優しく答える。
キララたちは、急いで会場の準備を始めた。
長テーブルを並べ、そこに服を種類ごとに並べていく。
「キララさん、この冬物コーナーをお願いできますか?」
「はい!」
キララは段ボールから服を出して、テーブルに並べ始めた。
セーター、コート、厚手のパーカー。
一つ一つ、丁寧に広げて、見やすいように配置する。
「あの‥‥‥もう入ってもいいですか?」
入口で待っていた人たちが、そわそわしている。
「すみません、もう少しだけお待ちください。準備が整ったらお声がけしますので」
スタッフが対応するが、人は増える一方だった。
「‥‥‥結構、来るんだね」
キララが、ピカルに小さく言った。
「そうだな‥‥‥」
ピカルも、少し緊張した顔で頷いた。
準備が整い、佐藤さんが入口に向かった。
「お待たせしました! これから配布を始めます。ルールを説明しますので、少しだけお聞きくださいね」
佐藤さんは、紙を掲げながら説明を始めた。
「一人5着までです。小さいお子さんがいる方は、子供服を追加で3着まで選べます。試着室は奥にありますので、ご利用ください。それでは、どうぞ!」
扉が開くと、人々が一斉に入ってきた。
最初は整然としていた。
でも。
「あ、このコート素敵!」
「私が先に見てたんですけど‥‥‥」
「でも、まだ手に取ってなかったですよね?」
「‥‥‥」
少しずつ、場が混雑し始めた。
キララは冬物コーナーで服を整理しながら、その様子を見ていた。
人々は、真剣に服を選んでいる。
でも同時に、テーブルの上はどんどん散らかっていく。
広げた服がぐちゃぐちゃに積まれ、床には落ちた服もある。
「すみません、これのサイズ違いはありますか?」
「あの、子供服はどこですか?」
「試着室、もう埋まってるんですけど‥‥‥」
質問が次々と飛んでくる。
キララは、一生懸命対応しようとした。
「あの、このコーナーは冬物なので、春物は向こうのテーブルに‥‥‥」
「これ春でも着られますよね?」
「それは‥‥‥そうですけど‥‥‥」
「じゃあ、ここにあってもいいじゃないですか」
「いえ、でも、ルールで‥‥‥」
キララが困っていると、佐藤さんが助けに入ってくれた。
「すみません。分かりにくくて申し訳ないんですが、このテーブルは冬物専用なんです。春物は向こうですので、よろしくお願いします」
「‥‥‥分かりました」
女性は、少し不満そうに別のテーブルへ向かった。
キララは、ほっと息をついた。
でも、次々と問題が起きる。
「5着まででお願いします」
スタッフが、7着持っている男性に声をかける。
「でも、子供の分も含めてですよ?」
「お子さんの分は、子供服コーナーから別枠で選べますので‥‥‥」
「なら、これは子供服ってことでいいですか?」
男性が手に持っているのは、明らかに大人用のSサイズだった。
「‥‥‥それは大人用なので‥‥‥」
やりとりが続く。
キララは、だんだんと疲れてきた。
ルールがある。
しかしそれを守ってもらうのは、こんなにも大変なのか。
______________
配布会が終わったのは、2時間後だった。
会場には、選ばれなかった服と、散らかったテーブルが残されていた。
「お疲れ様でした‥‥‥」
佐藤さんが、疲れた声で言った。
キララは、片付けを手伝いながら、考えていた。
服を配るのは、ただ並べるだけじゃない。
人が来る、選ぶ、質問する、不満を言う。
そして——ルールを守ってもらう必要がある。
「佐藤さん」
キララが、恐る恐る尋ねた。
「配布会って‥‥‥いつもこんな感じなんですか?」
「そうですね‥‥‥今日は特に混んでましたけど、いつも大変は大変です」
佐藤さんは、少し苦笑した。
「でも、必要としている人に届けられるから、やりがいはありますよ」
「‥‥‥でも、もっと、上手くできる方法はないんですか? 例えば‥‥‥整理券を配るとか、時間で区切るとか‥‥‥」
「うーん、それも考えたんですけどね」
佐藤さんは、テーブルを拭きながら答えた。
「でも、整理券を配ると、来られない人が出るんです。急に時間ができた人とか、情報を知るのが遅れた人とか」
「‥‥‥そうなんですね」
「時間で区切るのも試したんですけど、そうすると最後の時間帯には服が残ってなくて、不公平だって言われて‥‥‥」
「難しいんですね‥‥‥」
佐藤さんは、少し疲れた顔で微笑んだ。
「そうなんです。どんな方法にも、メリットとデメリットがあって。だから、今はこのやり方が一番マシかなって」
キララは、黙って片付けを続けた。
頭の中で、いろんなことが渦巻いていた。
回収・仕分け・配布。
どの段階にも、ルールがあって、基準があって、そして運用の難しさがある。
「‥‥‥運用」
キララが、小さく呟いた。
「ん?何か言った?」
ピカルが尋ねる。
「ううん‥‥‥ちょっと、考えてた」
「何を?」
「運用のこと」
キララは、会場を見回した。
「仕組みがあっても、それを回すのって、すごく大変なんだなって」
「そうだな」
ピカルは頷いた。
「環境を作るのも大事だけど、それを『どう使うか』『どう管理するか』も同じくらい大事なんだ」
「うん‥‥‥」
キララは、何かが胸の中で繋がっていくのを感じた。
昨日学んだこと。
今日見たこと。
――そしてアルフィオスで起こるかもしれないこと。
「‥‥‥お兄ちゃん」
「ん?」
「アルフィオスでも、これから資源のある場所へ、人が移動する可能性があるんだよね」
「‥‥‥そうだ」
ピカルの声が、少し重くなった。
「人が移動するってことは‥‥‥その人達に『配ることがある』ってことだよね。食べ物とか、水とか、場所とか」
「うん」
「でも、ただ配るだけじゃダメなんだ」
キララは、今日見た配布会を思い出した。
「列ができて、押し合いになって、ルールを守らない人が出て、不満が出て‥‥‥」
「‥‥‥」
「それに、アルフィオスだともっと大変だよね。違う地区から来た人たちが、急に一緒になるんだから」
キララは、真剣な顔で続けた。
「知らない人同士が集まって、新しい集団になる。そのとき、何も決まってなかったら——誰が優先か、誰の言うことを聞くか、全部分からなくなる」
「うん」
「だから、《《運用》》が必要なんだ。どこに並ぶか、誰が先か、どうやって配るか、最初から全部決めておかないと」
ピカルは、妹の横顔を見つめた。
キララは、本当に成長している。
「そうだよ」
ピカルは、静かに言った。
「環境だけじゃ、人は守れない。運用があって初めて、システムが機能する」
「そっか‥‥‥難しいね」
「うん、難しい」
二人は、しばらく黙って片付けを続けた。
______________
拠点に戻ると、連絡用端末が光っていた。
「あ、アルフィオスから定期連絡が来てるよ」
コーギーちゃんが、尻尾を振りながら言った。
ピカルは、データパッドを開いた。
画面には、アルフィオスの状況報告が表示されている。
キララも、隣から覗き込んだ。
そして二人の顔が、同時に強張った。
『第7地区にて、資源枯渇による人民移動が開始。
約500名が第3地区への移住を開始した。
受け入れ体制の不備により、混乱発生中』
「――やっぱり、はじまったか」
ピカルが、顔をゆがめながら低い声で呟いた。
「500人‥‥‥」
キララの声が震えた。
画面には、簡潔な状況報告だけが並んでいる。
食料不足。
住居不足。
衛生問題。
小規模な衝突。
「‥‥‥間に合ってない」
キララが、震える声で言った。
「私たち、ここで勉強してるけど‥‥‥間に合ってない」
「キララ‥‥‥」
「500人が故郷を無くして、混乱してる。私たちは、ここで配り方を見てただけで‥‥‥」
キララの目から、涙が溢れそうになった。
「意味はあるのに‥‥‥全然、間に合ってない‥‥‥!」
その悲痛な言葉が、静かに部屋に響いた。
ピカルは、否定できず言葉を飲み拳を握った。
確かに、間に合っていない。
地球で学んでいる間にも、アルフィオスでは状況が悪化している。
しかし――
「キララ」
ピカルは、静かに妹の名を呼んだ。
「‥‥‥なに」
涙声で、キララが答える。
「今日、佐藤さんが言ってたこと、覚えてるか? 『どんな方法にも、メリットとデメリットがある』って」
「‥‥‥うん」
「それは、僕たちの活動にも言えることなんだ」
ピカルはデータパッドを置いて、キララの方を向いた。
「確かに、今すぐアルフィオスに戻れたとしても、僕たちだけでできることには限りがある」
「‥‥‥」
「焦って戻っても、目の前の混乱を力ずくで止めることはできない」
ピカルの声は、静かだが、確かな重みがあった。
「この先、1000人、2000人と移動が起きたとき、僕たちが何の知識も持たずに戻っても、また同じ混乱が起きる」
「‥‥‥」
「でも、今ここで学べば——」
ピカルは、キララの目をまっすぐ見た。
「次の移動のとき、混乱を減らせる。運用を整えられる。より多くの人を、より安全に守れる」
「‥‥‥でも」
「届くかどうかじゃない」
ピカルの声が、少し強くなった。
その口調は——どこか、ノヴァに似ていた。
「届く形にすることが、僕たちの仕事だ」
「――!」
キララは、はっとした。
それは、昨日自分が言った言葉だった。
「手放すことも、配ることも、移動することも——全部、『届く形』にしないと意味がない」
ピカルは、キララの肩に手を置いた。
「キララが今日見たこと、考えたこと。それを形にすれば、次の500人を救える。その次の1000人も救える」
「‥‥‥」
「だから、今は焦るな。ちゃんと学んで、ちゃんと形にしよう」
「‥‥‥うん」
キララは、涙を拭った。
ピカルの言葉は、現実的で厳しかった。
でも、それは——優しさだった。
目の前の感情に流されず、本当に必要なことを見据える。
それが、ピカルの優しさなのだと、キララは理解した。
「‥‥‥お兄ちゃん」
「ん?」
「その言い方、ノヴァ様みたいだね」
「え‥‥‥?」
思いもよらない人物の名前に、ピカルは一瞬困った顔をした。
「似てる?」
「うん。すごく似てた」
キララは、少しだけ笑った。
「でも、ノヴァ様よりちょっと優しい」
「‥‥‥そうか」
ピカルは、少し照れたように視線を逸らした。
コーギーちゃんが、二人の様子を見て、尻尾を振った。
「キララ、大丈夫?」
「うん‥‥‥」
キララは、深呼吸をした。
「私、ちゃんと学ぶ。今日見たこと、全部覚えて、形にする。そして——」
データパッドに映る故郷の報告を見つめた。
「次の人たちを、ちゃんと守れるようにする」
その瞳には、もう涙はなかった。
代わりにあったのは、強い決意だった。
そしてふと、この前自分たちの元を訪れた、アルデンが自分に言った言葉を思い出した。
『お前が架け橋になるんだ』
地球で学んだこと。
アルフィオスで必要なこと。
その間を繋ぐのが——私の役目。
「私が‥‥‥架け橋になる」
キララは、静かに誓った。
地球編・4 届く形⑤に続きます
お読みくださりありがとうございます!
ブックマーク、評価、コメントを頂けると大変嬉しいです!!
リクエスト企画の方は不定期で参加者様を募集してます。
Xで最新情報を投稿してますので、よかったらご覧ください。




