地球編・4 届く形②
地球編4 ①の続きになります
※挿絵はAIイラストを使用しています
回収センターは、駅から少し離れた場所にあった。
古い倉庫を改装した建物で、入口には『リユース・リサイクルセンター』という看板が掲げられている。
「ここだよ!」
コーギーちゃんが元気よく尻尾を振りながら、建物の前で立ち止まった。
「うわぁ、思ったより‥‥‥大きいね」
キララが、バッグを抱えたまま建物を見上げた。
中からは、人の声や、何かを運ぶ音が聞こえてくる。
「じゃあ、入ろうか」
ピカルが促すと、キララは深呼吸をして頷いた。
扉を開けると、そこには想像以上に活気のある空間が広がっていた。
テーブルがいくつも並び、そこでは数十人のスタッフやボランティアが、服を仕分けている。
「あ、お願いした方ですね! ようこそ!」
明るい声とともに、30代くらいの女性スタッフが近づいてきた。
名札には「佐藤」と書かれている。
「初めまして。今日はよろしくお願いします」
ピカルが丁寧に頭を下げた。
「こちらこそ! えっと、今日は‥‥‥」
「体験参加で来ました。服の寄付と、作業のお手伝いができればと」
「ありがとうございます! じゃあ、まずは簡単に説明しますね」
佐藤さんは、施設の中を案内しながら説明を始めた。
「ここでは寄付された服を仕分けて、状態の良いものはリユース、傷んでいるものはリサイクルに回します。それぞれに基準があるので、最初はちょっと難しく感じるかもしれませんが、慣れれば大丈夫ですよ」
キララは熱心に頷きながら、施設の様子を見回した。
テーブルごとに、「夏物」「冬物」「子供服」といった札が立てられている。
「まずは、寄付された服の受付からお願いできますか?」
「はい!」
キララは元気よく返事をした。
「じゃあ、こちらへどうぞ」
佐藤さんに案内されて、受付カウンターの横に立つ。
「ここに持ち込まれた服を、まず『受け取る』『袋から出して確認』『大まかに仕分ける』という流れでお願いします。仕分けは、あちらの札を参考にしてください」
「分かりました!」
キララは張り切って作業を始めた。
最初のうちは順調だった。
持ち込まれた服を受け取り、袋から出して、冬物は冬物のテーブルへ、夏物は夏物のテーブルへ。
ピカルは少し離れた場所で、データパッドに施設の様子を記録していた。
しかし、30分ほど経ったころ、別のスタッフが、困った顔でキララに声をかけた。
「あの‥‥‥すみません」
「はい?」
「これ、冬物のテーブルに置かれてたんですけど‥‥‥薄手のカーディガンなので、春秋物なんです」
「え? でも、冬に着られますよね?」
「着られますけど、仕分けの基準では『主に着る季節』で分けるんです。薄手は春秋、厚手は冬って」
「そうなんですね‥‥‥ごめんなさい」
キララは慌てて謝った。
「大丈夫ですよ。最初はみんなそうですから」
スタッフは優しく笑って、カーディガンを持って行った。
キララは少し落ち込んだが、気を取り直して作業を続けた。
でも、また別のスタッフが声をかけてくる。
「あの、これ‥‥‥ちょっと汚れがあるんですけど、リユースのほうに入ってて‥‥‥」
「え、でも洗えば落ちそうな汚れですよ?」
「そうなんですけど、うちでは『そのまま着られる状態』じゃないと、リユースには回せないんです。洗濯が必要なものは、リサイクルか、状態によっては処分になります」
「処分‥‥‥」
キララの声が小さくなった。
「せっかく持ってきてくれたのに、もったいないですよね。でも、衛生基準があるので‥‥‥」
「‥‥‥分かりました」
キララは、その服をリサイクルの箱に入れた。
気づけば、1時間で何度も間違いを指摘されていた。
季節の仕分け。
汚れの基準。
子供服のサイズ分け。
ボタンが取れたものの扱い。
「‥‥‥難しい」
キララは、テーブルの前でため息をついた。
そのとき「キララさん、ちょっといいですか?」と佐藤さんが声をかけてきた。
「はい‥‥‥」
「えっとね、今日はたくさん持ち込みがあって、ちょっと混雑してるんです。だから受付よりも、奥の仕分け作業を手伝ってもらえますか?」
「分かりました!」
キララは、少しホッとした。受付での失敗続きから解放されると思ったのだ。
奥の作業スペースには、大きなテーブルがいくつもあり、山積みの服が置かれていた。
「ここでは、もっと細かく仕分けをします。『そのまま使える』『修繕が必要』『リサイクル』『処分』の4つに分けてください」
「はい!」
キララは、新たな気持ちで作業を始めた。
でも。
「これは‥‥‥そのまま使えるよね」
キララが手に取ったのは、少し色あせた子供用のTシャツだった。
「あ、それは色あせが目立つので、リサイクルですね」
隣で作業していたベテランのボランティアが教えてくれた。
「でも、まだ着られますよ?」
「着られるけど、『もらって嬉しい状態』かどうかが基準なんです。色あせたものをもらっても、嬉しくないでしょ?」
「‥‥‥」
キララは黙り込んだ。
確かに、自分がもらう立場だったら「色あせた服より、綺麗な服のほうが嬉しい」。
でも、実際にはまだ使えるのに。
「あと、これもリサイクルですね。毛玉が多いから」
「これも?ちょっと毛玉取れば‥‥‥」
「毛玉取りの時間まで含めると、作業が回らないんですよ。ここは、あくまで『そのまま使える状態』のものを選別する場所なんです」
キララは、少しずつ胸の中にモヤモヤが溜まっていくのを感じた。
せっかく持ってきた服。
せっかく寄付しようと思った服。
でも、基準に合わないものは、リサイクルや処分になってしまう。
「もったいない‥‥‥」
キララが小さく呟いた。
「そうですよね。でも、これが現実なんです」
ベテランボランティアは、淡々と作業を続けながら言った。
「善意だけじゃ、循環は回らないんですよ」
その言葉が、キララの胸に刺さった。
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