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陰陽師、魔獣使いに転ず  作者: 御歳 逢生
はしがき 白狐を従えし者、月下に消ゆ
2/4

第二節 月下の密談


「帝の御前に参れとの仰せだ。陰陽頭たる者、我を差し置いて語るなとは申すまいな?」


その声に、晴明は静かに扇を閉じ、目を細めた。

目の前に立つのは、摂政 藤原道長。

時の権勢をほしいままにする男である。


「道長殿。御所の星は今日、まことに鈍く曇って見えました。されど、天の流れは貴殿に味方しておりまする。」


道長は口の端を歪め、笑みとも嘲りともつかぬ表情で言った。


「星の言葉とやらは便利よな。吉とも凶とも、読み手の心次第で変わる。されど……貴殿の告げる星の理は、いつも忌まわしきほどに的を射ておる。」


「それが役目ゆえ。」


二人は人払いされた殿舎にて、酒も酌まずに対した。

帳の外では夏虫が鳴くが、空気は凍てつくように冷たい。


道長はしばし沈黙し、懐より一通の文を取り出した。

破られた封蝋、血で汚れた紙面。

そこに記されたのは、京の北方にて再び鬼が出たという報。


「また、か。」


晴明の表情がわずかに曇る。

封じたはずの穢れが、また目覚めたのか。


「帝はこれを隠せと申されておる。が、そなたならば……この因果の先を、読めよう?」


「鬼の出所は、いにしえの壺であろう。かの地に封じし禍霊の残滓。完全には祓えぬ。星の道筋には、再び開かれる兆があった。」


道長は小さく呻いた。


「そなたが星を見て動くなら、我は人を見て動かねばならぬ。」


晴明は静かに首を振る。


「貴殿もまた、星の下に生まれたる者。ならば、抗うことなく、備えるべし。」


しばしの沈黙の後、道長が小さく呟く。


「この国は、滅びるのか。」


「いいえ。」


晴明は、扇を再び開いた。


「まだ、星は沈んでおりませぬ。」


その言葉の裏に込められた決意を、道長は読み取ったようだった。


「そなたの命、いつまで持つかはわからぬが……。いずれ、後の世にも陰陽は必要となろう。儂は、そなたの残すものを守ろう。」


それが二人の最後の対話となった。

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