Ep.3 loop 冷たい朝と分岐点
すべてフィクションです。
目覚めはいつも突然で、今日もまた同じだった。重たい瞼をこじ開けると、まず耳に飛び込んできたのは、地面を叩きつけるような激しい雨音。カーテンの隙間から覗く世界は、厚い雲に覆われ、まるで深い海の底にいるようだった。窓ガラスを滑り落ちる無数の水滴が、ぼやけた視界の中で歪んだ世界を描き出す。
「雨か……」
独りごちた声は、雨音にかき消されそうになるほど微かだった。シーツから這い出し、ひんやりとした床に足をつける。肌を刺すような冷気が、眠気を一気に吹き飛ばした。着慣れた制服に袖を通し、鏡に映る自分を見つめる。そこに映るのは、いつもと変わらない、冴えない顔だ。
朝食は喉を通らず、ただぼんやりと箸を動かす。食卓に並んだ料理が、鉛のように重く感じられた。時計の針は無情にも進み、家を出る時間が迫っている。重い足取りで玄関へ向かい、靴を履いた。そして、ふと、あるものが目に留まる。
台所のシンクに立てかけられた、銀色の光。それは、昨日使ったばかりの、よく研がれた包丁だった。柄を握ると、ひんやりとした感触が手のひらに伝わる。ずしりとした重みが、妙に心地よかった。
なぜだか分からない。でもただ、この冷たい刃が、今の自分には必要だと感じた。リュックの奥底にそれを忍ばせ、ずぶ濡れになる覚悟で玄関のドアを開ける。灰色の空の下、雨は容赦なく降り注ぐ。アスファルトを叩く雨音が、まるで世界中の悲しみを一身に背負っているかのように響き渡っていた。
そして、その冷たい刃を携え、僕は雨の中、学校へと向かった。
その夜の夢は、いつもと違っていた
小学校一年生の頃だっただろうか。夢の中に、あの優しい父と母の顔が見えた。暖かく、俺を包み込む笑顔。それが、次の瞬間、地獄へと変わった。二人は、川で小さな女の子を助けようとして、そのまま深みに沈んでいった。必死に手を伸ばすも、届かない。水面が、ゆっくりと二人の姿を飲み込んでいく。
あの女の顔は、月島咲……いや、違う。西野花だ。あの憎たらしい顔が、鮮明に脳裏に焼き付いた。
その瞬間、はっと目を開けた。悪夢から覚めたはずなのに、現実はさらに絶望的だった。すべてを悟った。あの女は、名前を変えた。あいつは、俺の両親を殺した犯罪者だ。この手が震えるほどの憎悪が、全身を駆け巡る。
「殺す」と…………。
学校に着くといつものように教室は談笑とざわめきで響いていた。またいつものように俺(藤井郁弥)は授業を終え放課後になった。
廊下にあいつらがいた
「こんにちわ 二人とも昨日はごめんねほんと…に」
俺は月島咲良を刺した。
包丁の冷たい柄を握り、目の前の女に切っ先を向けた。刃の輝きは、まるで吸い込まれるように肉の表面に吸い寄せられていく。躊躇うことなく、わずかに力を込めて包丁を押し込んだ。
「シュッ」
と、乾いた空気を裂くような微かな音がした。それは、肉の表面を覆う薄い膜が、すっと切り開かれる音だ。指先に伝わるのは、ごくわずかな抵抗感。柔らかく弾力のある膜を破ると、次は肉の内部へと刃が進む。
その瞬間俺はこの違和感を全て理解できた。
こいつは犯罪者だ俺は何も悪くないそう何も悪くない
「――ッ! ちが、ちがう! 俺は…! 悪くねえっ、悪くねえってんだろがぁあッ!」
そして自分の喉を掻っ切った
廊下の窓から見える空は、鉛色に重く垂れ込め、途切れることなく雨が降り注いでいた。その冷たい雨粒が窓ガラスを打ち付ける音は、どこか遠い場所で鳴り響く不協和音のようで、廊下の隅々にまでひっそりと染み渡る。暖房の効かないこの場所では、外の冷気がそのまま肌を刺すように感じられ、吐く息は微かに白く曇る。
湿気を帯びた空気は、ただでさえ重い心をさらに沈ませるようだ。足音は、しっとりとした床に吸い込まれるように鈍く響き、やけに自身の存在だけが浮き上がって感じる。この廊下は、まるで感情の通り道のようだ。喜びも悲しみも、希望も絶望も、全てがこの空間で曖昧に溶け合い、そして再び、それぞれの場所へと流れていく。雨音が紡ぎ出す静寂の中で、行き場のない感情だけが、ただひたすらに、奥深くへと沈んでいくのを感じる。あぁこれで、…
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