5章:共通点と違いの発見
「――というわけで、レン。あなたをわたくしの専属護衛として雇い入れますわ」
場所は変わって、王都でも指折りの高級カフェ。
夕暮れのオレンジ色の光が差し込むテラス席で、俺とセレスティアお嬢様は、優雅にお茶をしばいていた。
いや、俺はしばかれてる側か。
さっきの騒動の後、気絶した強盗どもを衛兵に引き渡し、なぜか俺はこの変態令嬢にカフェに拉致られたのだ。
目の前には、さっきまでの魔剣に対する変態ぶりや、暴漢を一瞬でなぎ倒した超人ぶりが嘘のように、完璧な淑女然とした態度で紅茶を飲むセレスティア嬢。
しかし、時折チラリと俺に向ける視線には、まだ納得いかないという感情と、未知の珍獣でも観察するかのような底知れない好奇心が混じっている。
居心地が悪いことこの上ない。
「はあ……それはまた、どうして俺なんかを? 俺、魔剣も持ってないし、見ての通りの貧乏人ですけど」
「決まっていますでしょう? あなた、魔剣に並々ならぬ興味をお持ちのようですから。それに、わたくしの攻撃が全く効かない人間なんて、貴重なサンプル……いえ、護衛としてこれほど頼もしい存在はいませんわ」
セレスティア嬢の、まるで全てを見透かしたような言葉に、俺は思わず飲んでいた紅茶を噴き出しそうになる。
「ゲホッ……な、なんでそれを……? 俺が魔剣に興味あるって、分かりました?」
「先ほど、わたくしが強盗たちの魔剣を愛でておりました時……あなたの視線、それはそれは熱っぽく、羨望と憧憬に満ちたものでしたわよ? まるで、ショーウィンドウに飾られた最高級の骨付き肉を見つめる飢えた子犬のようでしたわ」
うわ、マジか。
そんなにあからさまだったか、俺。
というか子犬って。
的確な例えだけど、なんかちょっとムカつく。
「あー……ははは、バレてましたか。お恥ずかしい。実は俺、転生する前から魔剣っていうのにめちゃくちゃ憧れてまして。男のロマンじゃないですか、魔剣って。でも、女神様の勘違いで、【負けん】なんていうよく分からない能力になっちゃいましてね……本当は、俺だってカッコいい魔剣をブン回して、冒険者として名を馳せたかったんですけど」
「まあ、それはお気の毒に。あのユフィーナ様、たまにそういうそそっかしいところがおありですものね。わたくしも以前、献上品の最高級魔鉱石をただの綺麗な石ころと勘違いされて、危うく文鎮にされそうになったことがありますわ」
セレスティア嬢は、なぜか女神ユフィーナのことを知っているようだった。
しかも「様」付け。
まあ、これだけ高貴な(そして変態な)お嬢様なら、女神の一人や二人、知り合いでもおかしくないのかもしれない。
それにしても、あのポンコツ女神、やっぱり色々やらかしてるんだな。
「でも、わたくしと同じように魔剣を愛でることができるのでしたら、話が早いですわ。それに、あなた、面白いじゃありませんか。わたくしの渾身の一撃が全く効かない人間なんて、生まれて初めてですもの」
「あの……お嬢様の魔剣への興味っていうか、愛で方っていうか……それは、俺のとはちょっと、いや、かなり違うような気がするんですけど……。俺は純粋に、その造形美とか強さとかに憧れてるだけで、別に魔剣に頬ずりしたり、匂いを嗅いだり、ましてや体を震わせたりは……」
「あら、何が違うというのかしら? 魔剣のあの美しいフォルム、秘められた強大な魔力、そして何より、所有者と共に歴史を刻むというロマン! 素晴らしいじゃありませんか! それを全身全霊で感じ取り、五感全てで味わい尽くすのが、真の魔剣愛好家の嗜みというものですわ!」
セレスティア嬢は、またしても頬を赤らめ、目をキラキラさせながら力説する。
うん、言ってることの半分くらいは分からんでもない。
魔剣がカッコいいのは事実だ。
でも、この人の場合、その情熱の方向性が、やっぱりなんかこう、うん、アレなんだよな……。
完全に一線どころか、二線も三線も越えちゃってる。
「まあ、細かいことはよろしくてよ。あなたのような『絶対に負けない』護衛がいれば、わたくしも心置きなく魔剣コレクションの充実に励めますし、面倒な輩に絡まれることも減るでしょう。報酬も弾みますし、住む場所も提供いたしますわ。悪い話ではないと思いますが?」
「はあ……まあ、貧民街のボロアパート暮らしよりは、マシかもしれませんけど……」
こうして、俺は半ば強引に、このエルドリッジ家の変態……もとい、謎多き令嬢セレスティア様の専属護衛として雇われることになった。
魔剣への想いは、共通しているようで、やっぱりどこか致命的にすれ違っている気がするけど……まあ、いっか。
少なくとも、これで日々の食事に困ることはなくなりそうだ。
それだけでも、大きな進歩と言えるだろう。
俺の異世界ライフ、一体どうなっちまうんだか。




