表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/8

2章:魔剣への憧れと現実のギャップ

「……っていう夢を見たのは、もう何日前のことだったか」


 薄暗い石造りの建物の中、俺は壁に背を預け、深々とため息をつく。


 ここは王都リベルタスにある冒険者ギルド。

 転生してから数日、俺は日銭を稼ぐためにここに登録しに来たわけだが……現実は甘くなかった。

 

 あの女神との出会いが、まるで遠い昔のことのように感じる。

 まあ、実際には数日前なんだけど、この世界の理不尽さを知るには十分すぎる時間だった。


(みんな、いかにもファンタジーな剣持ってるなあ……キラキラ光ってるやつとか、炎まとってるっぽいやつとか。あれが魔剣か。かっけえ……)


 ギルドの中は、朝から晩まで、いかにも「冒険者です!」って感じの、屈強な男女でごった返している。

 彼らの腰や背中には、思い思いの魔剣が装備されていて、それがまた俺の劣等感をチクチクと刺激するのだ。

 

 錆びついた剣を腰に差しているヤツなんて一人もいやしない。

 みんな、自分の魔剣を誇らしげに手入れしたり、仲間と見せ合ったりしている。


 俺にあるのは、女神からもらった【負けん】の能力。


 いや、能力自体は、まあ、うん、悪くないと思う。

 今のところ、どんな効果があるのか具体的には分かってないけど、「絶対に負けない」んだから、たぶんすごいんだろう。

 そう思いたい。


 でも、でもだ!

 やっぱり、魔剣への憧れは捨てきれないんだよなあ……。


 あの、金属の重み、手に馴染むグリップ、そして何より、所有者に力を与えてくれるっていう、あの圧倒的な存在感!


「あら、レンさん。今日も依頼ですか?  また下水道のネズミ駆除か、スライム退治あたりかしら?」


 カウンターの向こうから、ギルドの受付嬢のお姉さんが、若干冷ややかな視線とともに声をかけてくる。

 栗色の髪をポニーテールにした、快活そうな美人だけど、魔剣なしの俺にはちょっと当たりが強い気がする。


 まあ、仕方ないか。

 この世界、魔剣のランクで身分まで決まる魔剣階級社会「エルギウス王国」だからな。


 十二歳で行われる「覚醒の儀式」でどんな魔剣を持てるかのランクが発現し、そしてそのランクで人生のほぼ全てが決まる。

 Sランクなんてのは王族とか最高位貴族で、人口の0.1%。

 

 Aランク、Bランク、Cランクと続いて、魔剣を持てない者「魔剣なし」と呼ばれる者たちは、人口の約8割を占める平民か貧民。

 つまり最下層民扱いだ。

 魔剣は高額商品として流通していはいるが、ランク外の者たちは、魔剣を持ったとしても魔剣の力を使うことはできないのだ。

 

 俺みたいな転生者は、儀式を受けてないから必然的に「魔剣なし」扱いになる。


「はい、まあ、そんなところです……」


 情けない返事をしていると、隣のカウンターで、やけにガタイのいい冒険者の一団が、これ見よがしに自分たちの魔剣を見せびらかしながら騒いでいる。

 獣皮の鎧を着こんだ大男が、自慢げに腰の炎をまとった長剣を抜き放った。


「見ろよ、俺の新しい相棒、【轟炎剣(ごうえんけん)イグニス】! こいつのおかげで、昨日のフォレストウルフの群れも楽勝だったぜ!」

「へっ、俺の【斬鉄双刃(ざんてつそうじん)】だって負けてねえぞ! あの硬いロックゴーレムの装甲も豆腐みてえに斬れたからな!」


 軽装鎧の男が、背負った二本の曲刀をカチャリと鳴らす。


 いいなあ……俺も、本当はあんな魔剣を握って、でかいモンスターとかと戦ってみたかった……。


 【負けん】の能力も、きっといつか役に立つ日が来るんだろうけど……やっぱり、こう、見た目のカッコよさっていうか、冒険者としてのロマンっていうか……あの、金属と魔力が混じり合う独特の匂いとか、手に伝わる確かな重みとか、そういうのが欲しいんだよなあ……。


「よぉ、そこの魔剣なしの兄ちゃん!」


 不意に、別の冒険者グループの、やけに態度のデカい、金髪でピアスジャラジャラの男に声をかけられる。

 

 なんだよ、絡みか?

 朝から勘弁してほしいぜ。


「お前、なんでも『負けん』とかいう変な能力持ってるんだって?  そんなもんで、俺たちのこのピッカピカの魔剣に勝てると思ってんのか?」

 

 ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる男たち。

 完全に馬鹿にされてる。

 取り巻き連中もゲラゲラ笑いやがる。


「……いえ、魔剣に勝てるなんて、そんな大それたことは……考えてませんよ」


 口ではそう言いながらも、心の奥底では、いつかこの【負けん】の力で、あいつらを見返してやりたい、なんて思っている自分もいる。

 いつか、どんな魔剣使いだろうと打ち負かして、「どうだ、見たか!」って言ってやりたい。


 魔剣への尽きせぬ憧れと、この中途半端な能力への不満。

 そして、理不尽な扱いへの反骨心。

 

 そんな複雑な感情を抱えながら、俺の異世界ライフは、なんともパッとしないスタートを切ったのだった。

 今日も今日とて、日銭を稼ぐために、誰もやりたがらないギルドの雑用依頼を受けるしかない。


 俺の異世界ドリームは、どこにあるんだろうな、全く。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ