2章:魔剣への憧れと現実のギャップ
「……っていう夢を見たのは、もう何日前のことだったか」
薄暗い石造りの建物の中、俺は壁に背を預け、深々とため息をつく。
ここは王都リベルタスにある冒険者ギルド。
転生してから数日、俺は日銭を稼ぐためにここに登録しに来たわけだが……現実は甘くなかった。
あの女神との出会いが、まるで遠い昔のことのように感じる。
まあ、実際には数日前なんだけど、この世界の理不尽さを知るには十分すぎる時間だった。
(みんな、いかにもファンタジーな剣持ってるなあ……キラキラ光ってるやつとか、炎まとってるっぽいやつとか。あれが魔剣か。かっけえ……)
ギルドの中は、朝から晩まで、いかにも「冒険者です!」って感じの、屈強な男女でごった返している。
彼らの腰や背中には、思い思いの魔剣が装備されていて、それがまた俺の劣等感をチクチクと刺激するのだ。
錆びついた剣を腰に差しているヤツなんて一人もいやしない。
みんな、自分の魔剣を誇らしげに手入れしたり、仲間と見せ合ったりしている。
俺にあるのは、女神からもらった【負けん】の能力。
いや、能力自体は、まあ、うん、悪くないと思う。
今のところ、どんな効果があるのか具体的には分かってないけど、「絶対に負けない」んだから、たぶんすごいんだろう。
そう思いたい。
でも、でもだ!
やっぱり、魔剣への憧れは捨てきれないんだよなあ……。
あの、金属の重み、手に馴染むグリップ、そして何より、所有者に力を与えてくれるっていう、あの圧倒的な存在感!
「あら、レンさん。今日も依頼ですか? また下水道のネズミ駆除か、スライム退治あたりかしら?」
カウンターの向こうから、ギルドの受付嬢のお姉さんが、若干冷ややかな視線とともに声をかけてくる。
栗色の髪をポニーテールにした、快活そうな美人だけど、魔剣なしの俺にはちょっと当たりが強い気がする。
まあ、仕方ないか。
この世界、魔剣のランクで身分まで決まる魔剣階級社会「エルギウス王国」だからな。
十二歳で行われる「覚醒の儀式」でどんな魔剣を持てるかのランクが発現し、そしてそのランクで人生のほぼ全てが決まる。
Sランクなんてのは王族とか最高位貴族で、人口の0.1%。
Aランク、Bランク、Cランクと続いて、魔剣を持てない者「魔剣なし」と呼ばれる者たちは、人口の約8割を占める平民か貧民。
つまり最下層民扱いだ。
魔剣は高額商品として流通していはいるが、ランク外の者たちは、魔剣を持ったとしても魔剣の力を使うことはできないのだ。
俺みたいな転生者は、儀式を受けてないから必然的に「魔剣なし」扱いになる。
「はい、まあ、そんなところです……」
情けない返事をしていると、隣のカウンターで、やけにガタイのいい冒険者の一団が、これ見よがしに自分たちの魔剣を見せびらかしながら騒いでいる。
獣皮の鎧を着こんだ大男が、自慢げに腰の炎をまとった長剣を抜き放った。
「見ろよ、俺の新しい相棒、【轟炎剣イグニス】! こいつのおかげで、昨日のフォレストウルフの群れも楽勝だったぜ!」
「へっ、俺の【斬鉄双刃】だって負けてねえぞ! あの硬いロックゴーレムの装甲も豆腐みてえに斬れたからな!」
軽装鎧の男が、背負った二本の曲刀をカチャリと鳴らす。
いいなあ……俺も、本当はあんな魔剣を握って、でかいモンスターとかと戦ってみたかった……。
【負けん】の能力も、きっといつか役に立つ日が来るんだろうけど……やっぱり、こう、見た目のカッコよさっていうか、冒険者としてのロマンっていうか……あの、金属と魔力が混じり合う独特の匂いとか、手に伝わる確かな重みとか、そういうのが欲しいんだよなあ……。
「よぉ、そこの魔剣なしの兄ちゃん!」
不意に、別の冒険者グループの、やけに態度のデカい、金髪でピアスジャラジャラの男に声をかけられる。
なんだよ、絡みか?
朝から勘弁してほしいぜ。
「お前、なんでも『負けん』とかいう変な能力持ってるんだって? そんなもんで、俺たちのこのピッカピカの魔剣に勝てると思ってんのか?」
ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる男たち。
完全に馬鹿にされてる。
取り巻き連中もゲラゲラ笑いやがる。
「……いえ、魔剣に勝てるなんて、そんな大それたことは……考えてませんよ」
口ではそう言いながらも、心の奥底では、いつかこの【負けん】の力で、あいつらを見返してやりたい、なんて思っている自分もいる。
いつか、どんな魔剣使いだろうと打ち負かして、「どうだ、見たか!」って言ってやりたい。
魔剣への尽きせぬ憧れと、この中途半端な能力への不満。
そして、理不尽な扱いへの反骨心。
そんな複雑な感情を抱えながら、俺の異世界ライフは、なんともパッとしないスタートを切ったのだった。
今日も今日とて、日銭を稼ぐために、誰もやりたがらないギルドの雑用依頼を受けるしかない。
俺の異世界ドリームは、どこにあるんだろうな、全く。




