表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死ぬ程洒落にならない怖い事件簿  作者: 春山ルイ
八尺様殺人事件
8/53

九木狐十子の怪談 ‐八尺様殺人事件‐

『さあさあ、よってらっしゃい見てらっしゃい!


 とある寒村に現れた、背丈八尺ほどもある謎の女性。賑やかな祭りの裏で、怪異が闊歩する!


 しかし!


 不気味で身の毛もよだつ奇譚には、想像も絶する真相が隠されていたのでした……!』


  ***


 ──10年前、東北の村でとある事件が起きました。


 季節は春。しかし、まだまだ寒風が吹きすさび、小雨がしんしんと降っていて、厚着をしないと堪える日でした。



 神社では祭りが催されています。山の神に感謝を伝える祭り、だということです。参道には屋台が並び、村のあちこちから人が集まっていました。


 誰もが楽しい祭りに夢中……のはずでした。


 

 彼女──まだ17歳の少女、楢庭美夏は、どういうわけか1人、神社から離れて森に入っていきました。

 足元は悪く時間も夜なので森に入るのは危険。ですが彼女は、ひとけのない暗闇へ足を踏み入れてしまったのです。


 ガサリ……ガサリ。

 草葉を踏みしめ、森の中へ。


 彼女は漆黒に消えていきました──。

 


 少しして、美夏ちゃんの失踪に気づく人が現れ始めます。そして彼女の捜索も始まりました。

 ……これは推測ですが、彼らの脳裏にはさらに昔の出来事……美夏ちゃんの妹、蘭美ちゃんが亡くなった件がよぎったことでしょう。



 結局、彼女が発見されたのは翌朝になってからでした。神社とは反対の方角にある森の中で、頭から血を流して亡くなっていたのです。


 死は事故であるとされ、不幸な出来事と処理されたそうです。



 けど、真実は違った。

 


 美夏さんは突き飛ばされたのです。そして、そこにあった地蔵に頭を打ち付けました。


 地蔵の微笑みは砕かれて、澱んだ赤黒い血液が流れ出す。ヒタ、ヒタ、と。血溜まりが出来上がる……。


 

 さて、彼女を突き飛ばした犯人は狼狽し、どうするべきか必死に頭を働かせます。

 捜索隊がすぐにでも見つけると考えたことでしょう。実際、神社から近い場所なので、発覚するのは時間の問題でした。

 


 そこで、彼はその場しのぎの案を思いつきます。


 まず、地面に広がった血を土や葉などで隠します。次に、頭の砕けた地蔵と遺体をどこかに隠さなければなりません。


 

 遺体と地蔵を運ぶには工夫が必要です。


 地蔵は抱えるとして、さらに遺体も運ぼうとすると問題が。彼女の脚は事故により、膝が固定されて曲がらないのです。


 

 そこで彼は考えました。


 単純かつ突飛な発想──遺体を()()したのです!

 

 遺体を肩に乗せてから、それから地蔵を腕に抱えました。破片を落とさないように丁寧に。レインコートのおかげで、流れ落ちる血が体に付く心配もありません。


 相当に大変だったでしょうが、見つかるわけにはいきません。死に物狂いで運搬したのです。


 ただ、一つの誤算がありました。



 祭りを風邪で休み、家にいた挙げ句、偶然にも外を見ていた少年がいたのです。


 無垢で優しかった少年は驚き、恐怖に震えてしまったことでしょう。

 高い塀の上に、女性の頭があったからです。八尺ほどもあり、帽子を被り、俯いて揺らめく。まさに、怪異でした。


 ネット上で伝わりし都市伝説、八尺様を見た……と勘違いしてしまったのです。


 

 しかし実際は違います。

 帽子は頭の血を抑えるため。背が高く、俯いて揺れていたのは遺体が肩車されているから。


 少年が遭遇した存在は「ぽぽぽ……ぽぽぽ……」と、鳴いたりしませんでしたしね。


 八尺様だと思われた女性は、亡くなった美夏ちゃんが運ばれていただけだったのです。 


 これは怪異譚などではありません。



 さあ。これにてすべての真実が姿を現しました。


 そして、あえて犯人と呼びましょう。

 美夏ちゃんを押したのか、ただ運んだだけなのか。判然としませんが、罪には変わりありませんね。


 犯人は、少年がおじさんと呼び、慕っていた。親代わりのような存在だった。



 松矢田辻雄さん──彼だったのです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ