怪談 ‐邪視事件‐
さあさあ、ちょいとお時間を拝借!
怪しい宗教にヤクザの娘。彼女が宿すは邪視の瞳!
舞台はとあるマンション。密室に呪殺?
世にも奇妙で、そして、とってもおぞましい事件。いったい真相はなんなのか。
今、解き明かしましょう!
***
現場はカルト宗教の信者たちが住むマンション。そこの305号室にて、住人が死亡しました。
哀れな子羊の名前は羊堂一敏。
一酸化炭素中毒による自殺……というのが警察の見解でした。
ドアには鍵がかかっていて、開ける方法はなかった。監視カメラの記録によると、3階に来た人もいない。完全な密室であると考えられました。
さらに、被害者は数日前から精神が不安定だった。遺書もあって……とはいえ本人が書いたとは思えないんだけど、自殺の線が濃厚だったのです。
彼の死はまさか、呪いの瞳によって引き起こされたのでしょうか?
すべての謎を解くためには、まず崇眼教会について説明しましょう。
この宗教にはある特徴的な習慣があります。それは毎朝6時に行う儀式です。
始めに、儀式を行う人は決められた時間、決められた部屋の場所で正座します。その後、目を隠し、額を床にくっつけるのです。
賛美歌を流し、アロマキャンドルを焚いて、目を瞑る。心の中で神様と目を合わせるとのことです。
彼らは皆、儀式によって気持ちが楽になると言います。
まさか、本当に神様と心を通わせられたというのでしょうか。信者たちを導いていると?
──とんでもない。これらはすべて、教祖である天巌魔希の計略によるものでした。
儀式の秘密は、マンションの空室にありました。このマンション、住人が居住する部屋が決められているのです。
奇数階は101、303と奇数番、偶数階は202、402と偶数番というように決められています。つまり、人が居住している部屋の上下左右は必ず空室なんですね。
儀式をすると心が安らぐ?
神様と目が合わせられる?
すべては、まやかし。
トリックの種は唾棄すべきものでした。
儀式の時間、天巌さんと護衛の方は空室に入り、薬物を炙り始めます。もちろん、違法の。
炙られて発生した気体は、天井を抜け、真上で床に顔をつけている信者のもとに届きます。
このとき、天井に滞留してしまいそうですが、そうならないために、仕掛けが施されていました。
それが、過去に行われた大規模な改築です。これにより、天井には微小な隙間が作られ、気体を上階の部屋に届けることができるのです。
目を隠すのは万が一にも隙間に気づかせないため。賛美歌は聴覚を、アロマキャンドルは嗅覚を阻害するためのようですね。
もっとも、このインチキ行為は、薬物使用経験がある人にはバレやすいという弱点を含んでいます。だから、被害者にも気づかれてしまいました。
そう。羊堂さんは口封じに殺されたのです。
このインチキと同じ方法で。
殺害の第一歩目。
犯人は羊堂さんを自室に招きます。それまでに薬物の件で衝突しあっていたようなので、彼はその話だと思ったのでしょう。
話し合いの詳細は分かりませんが、犯人は羊堂さんに睡眠薬を盛りました。途中で寝られても困るはずなので、効果はそれほど強くないものだと推察できます。
羊堂さんは眠気を感じながら、自分で部屋に帰りました。ドアは自分で施錠し、床に就いたはずです。
そして羊堂さんは眠りにつき、おそらく二度と目覚めることはなかった。
いよいよ犯人たちは犯行に及びます。羊堂さんの部屋の真下、205号室の鍵を事前に借りておき、午後11時頃に入室します。
そして薬物を炙るときと同じように、一酸化炭素を発生させます。
現場には石油ストーブがあったので、使われたのもストーブだと思われていました。でも誰にも見られず証拠も隠せるとしたら、煉炭とか、もっと効率の良いものを使用したかもしれませんね。
そして羊堂さんの部屋に一酸化炭素が充満し……死亡推定時刻の午前0時頃。羊堂さんは中毒死してしまいました。
精神を病んでいたのは邪視の呪いのせいなどではありません。単に、薬物を絶たれたことによる禁断症状が出ていただけです。
以上が顛末。
そしてマンションと薬物を使って、このインチキ殺人を企てたペテン師は……。
天巌魔希、もちろん、あなたですよ。




