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死ぬ程洒落にならない怖い事件簿  作者: 春山ルイ
番外編 -巨大‐
39/53

大きな……

おや? なんだか雰囲気が違うな。

 ふと気がつくと、わたしは草原を歩いていた。


 つい最近、似たような景色を見た。

 星太郎くんの故郷に行ったとき、道中がこんな感じだった。


 何故こんな場所にいるのか、恐ろしいことに皆目見当がつかない。ひょっとして、記憶喪失にでもなったのか。


「……なにぼーっとしてんだ、九木」

「え?」


 わたしはどうやら、彼の背中を追いかけていたようだ。


 鬼灯星太郎くん。ぶっきらぼうで、他人を寄せ付けない冷徹な空気を発している。長めの前髪から覗く鋭い目も相まって、だ。

 しかし内面はとても優しいことを知っている。



 しかし妙だ。

 確かにわたしは彼と一緒に田舎町を歩いたことがある。怪異探しのために連れ出すのだ。


 けれど、くねくねの噂を聞いて山に向かってからは、彼を誘ったことはない。



「あ、あの、星太郎くん……」


 わたしは彼を呼び止め、現状を確認しようとした、のだが……。


「着いたぞ」

「へっ? 着いたって……」


「なに呆けてるんだ。お前が言い出したんだろうが」


 なんてことだ。まったく覚えがない。

 まさか、酔っ払ってた? いや、そもそも星太郎くんと酒の席に着いたことは一度もない。



 それから、古ぼけた看板が立っているのを発見した。金属製で酷く錆びている。文字のインクはかすれ気味だ。


 それでも解読していくと、こう書かれているのが分かった。


『巨頭オ』


「……これって」


 間違いなく、あの怪異だ。


   ***


 ──巨頭オ。


「以前行ったあの村に行こう」と、その話の投稿者は思った。


 けれど、記憶を頼りに車を走らせてみると、覚えていた景色はどこにもない。廃村があるだけだ。


 廃村になってしまうほどの時は経っていないはずだが、建物に草が巻きついているし、道と呼べるものもなくなっている。


 そのとき、前方の草陰から人影が。


 いや、人のようだが、明らかに異なる。

 頭が異常に大きいのだ。


 その巨頭を左右に揺らし、両手を脚にぴったりくっつけたまま、こちらに向かってくる。


 不気味でおぞましい光景に、投稿者は慌てて車をバックさせ、来た道を引き返すのだった。


 記憶の中の村はどこに行ったのか。巨頭オとはなんなのか、あの化け物がそうなのか。あいつらに追いつかれたらどうなっていたのか。


 なにもかも分からない。身の毛もよだつ体験だったのは確かだ。


   ***


 話のとおり、草が巻きついた廃屋が散見される。当然、誰かが住んでいる様子はない。ここは廃村のようだ。


 まさに、例の体験談と同じだ。つまり次に起こる出来事は? なんて期待を抱いてしまうが……。


「おい、出てくるぞ」

「え?」


 出てくるってなにが?


 まるで予見していたように星太郎くんは言う。それにしても、なんだか率先して怪異を探してくれているようだ。彼はもっと、嫌がりながらわたしについてくるのに。


 そう思っていると、前方の草むらから、人影がぬっと現れた。


「えぇ?」


 人のようだが、明らかに人ではない。

 この流れに相応しくも、信じがたい姿だ。


 人のものより倍くらいの大きさを持つ頭。ぴったり脚にくっつけた両手。左右にくねくね動き、こちらに向かっている。


 なにを考えているのか、表情からはなにも察せない。薄笑いを浮かべているようにも、怒っているようにも見えるのだ。


 そして、全身に体毛が一切ない。服は着ていないが、人間の裸とは異なるものに思えた。


「あれ……もしかして」

「巨頭オ、だろうな」



 ついに、ついにだ。

 初めて、本物の怪異と出会えた!


 希望と歓喜が、全身を駆け巡るようだ。喝采を上げたい気分だった。




「──あの……いいですか?」



「……ん?」



 今、訊ねたのは誰だろう。もちろんわたしでも、星太郎くんでもない。


 声がする方角は、前からだったが……。


「お客様ですよね? あの、ちょっとお願いしたいことが……」


 思わず、わたしは星太郎くんを見やり、心を落ち着けようとした。


「……あれ……喋ってる?」


「あれって、巨頭オのことか?」


「喋る……のはともかく、丁寧に、お願いしてない? 気のせい?」



「──気のせいじゃありませんよ……」


 怪異が、巨頭オが。


「喋ってる!?」


 巨頭オは立ち止まる。しかし頭を振るのはやめない。よく見れば、口……と思わしき部位を動かしていた。


「あ、喋ります。すいません」


「応対した!?」


「あ、応対します。すいません」



 いまいち状況を飲み込みきれていないが、このままでは話が進まない。


「えっと、あなたは巨頭オさんですか……?」


 推定、巨頭オは話を続ける。


「はい、巨頭は……」


「ちょっと待ってください? もしかして一人称、巨頭?」

「巨頭、巨頭です」


「……続けてください」


「巨頭、巨頭マサキと言います」

「もしかして苗字、巨頭?」

「巨頭、巨頭です」

「名前は?」

「マサキです」


 頭がおかしくなりそうだ。いや、もうなってる?


「巨頭、先ほど発見してしまったのです。ほら、あそこ……」


 と言っても、指は差さないし、目線もどこを向いているのか分からない。

 代わりに星太郎くんがなにやら見つけたようで、気怠げに指し示してくれた。


「……ん?」


 草陰に隠れて見えなかったが、地面に人が倒れていた。

 間違いなく、普通の人間だ。


 と、安心したのも束の間。頭部付近に赤い水たまりのようなものが広がっているのが確認できて、ため息が出そうになる。


 また、人間の死体だ。


「あの方、この村のお客様です」

「村……」


「ですが、数時間目を離した間に、あのような状態になっているのを巨頭、発見しました」


「それで……わたしたちに、なにを?」



 巨頭マサキは、判然としない感情のままわたしたちに向かって言った。


「この方が誰に殺されたのか、暴いてください」


「いや……とはいっても……」


 すると、ガサガサと音がした。かと思うと、周囲の草むらから、次々と影が出てきた。



 ──巨頭オの集団だ。


「どうか、犯人を……」


「ぎゃあーっ!?」


 何人かは頭を前後に振っている。メタルバンドのヘッドバンギングのようだ。


「見つけてください」


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