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死ぬ程洒落にならない怖い事件簿  作者: 春山ルイ
嘘に包まれた駅
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九木狐十子の怪談 ‐きさらぎ駅偽装事件‐

『今日はお客様がたくさん! 張り切っていきましょうー!



 始まりはとある投稿! 深夜、奇妙な無人駅に迷い込んでしまった一人の女性!


 それはまるで、昔有名になった都市伝説、きさらぎ駅を彷彿とさせます。彼女もまた、かつての投稿者のように行方不明になってしまうのでしょうか……?


 しかし、思いも寄らない展開が!


 まさかまさか……女性は駅のホームから飛び降りて、自殺してしまったのです……。


 鬼の仕業? この地に縛り付けられた怨霊?


 なんということでしょう!

 この事件の裏側には、悪意が渦巻く真相が秘められていたのです──』

 

   ***


 被害者である鳩中さんは、深夜1時頃、一連の投稿を開始します。


《気のせいかもしれないけど……

 電車止まんない……》


 かの有名な都市伝説、『きさらぎ駅』の再現でした。


 太鼓と鈴の音が聞こえる、片足の男がいる、トンネルが見つかる……。なにもかもが同じです。


 鳩中さんはきさらぎ駅に迷い込んでしまったのです。そしてこのままでは、トンネルを抜けた先で消息を断つ。



《トンネル》



 しかし、この投稿からすべてが一変します。


 これ以降、きさらぎ駅と関連した投稿はされなくなり、空白の時間を経て……午前3時頃、ある投稿が。


《ごめんなさい。これ以上は無理です。》



《疲れました。さようなら。》



 この投稿を最後に、鳩中さんはホームから飛び降りてしまいました。


  

 鳩中さんに自殺する理由はありませんでした。であれば、なぜ飛び込みなど? きさらぎ駅の魔に魅入られた?



 ──いや、違う。



 このきさらぎ駅の投稿は、鳩中さんの()()()()だったのだから。


 証拠のために撮影され、添付された写真は加工されたもの。文章は過去の体験談のオマージュ。


 鳩中さんの目的は闇の中です。ただ確かなことは、彼女は自殺しようとこんな自演をしたわけではないということです。



 ああ、無念。


 彼女の哀しみが、怒りが聞こえてくるようです。地の底から、絶望の嘆きが轟いています。




 鳩中さんは殺されたのです。




 悪夢の始まりは、トンネルを抜けた鳩中さんが、続きの投稿をしようとスマホを操作しているときでした。


 街灯の少ない夜道。

 スマホに集中している彼女。


 小石を跳ね飛ばし、轍を生む車輪。


 ……ドンッ──と、歪む車体。弾む身体。



 鳩中さんは、車に轢かれました。



 フロントバンパーに衝突し、ボンネットに転がるように乗り上げ……血液を飛び散らせながら、鳩中さんは路面に倒れ伏します。


 このとき、暗がり故に彼女のスマホカバーが砕けて散らばったことに、運転手は気づきませんでした。



 不注意と不運が重なった事故です。

 きっと、運転手だけを責める者はいないでしょう。ある種、彼だって被害者だった。



 しかし彼は、自らの足で、越えてはならない一線を越えた。破滅の道に踏み入れてしまったのです。


 今の地位を守るため?

 自分の不運を認めたくないから? 

 はたまた、ミスは覆い隠さねばならないという、昔からの悪癖?


 なんであれ、彼はもう戻れません。

 罪悪の道を歩きだしました。



 まず、鳩中さんが開いていたスマホの画面を見ました。SNSに投稿しようとした、きさらぎ駅の文面があったはずです。


 おそらく、《トンネル》という半端な文は、犯人のミスです。


 犯人は鳩中さんとは違い、SNSを使いこなしているようには見えませんから。


 鳩中さんが途中まで打った文を、うっかりそのまま投稿してしまったのでしょう。


 しかし、それまでの投稿文を確認すれば、鳩中さんが奇妙なことをしていると気づくはず。このミスを演出に利用しようと決めたのではないでしょうか。


 それから、彼は考えました。


「この女はなにか恐ろしい目に遭った。そして自殺するんだ!」


 ……などと、考えたかどうかは、わたしの想像ですが。



 犯人は鳩中さんを自殺に見せかける計画を始めました。時間はたっぷりある。必要な道具は用意できます。



 最初に、被害者の体に細工をします。


 首に包帯を巻き、目立つ痕が残らないようにしてから、ワイヤーも巻きつけます。


 人が見ていないことを確認し、駅のホームへ侵入。柱に接着剤を塗ったら、鳩中さんの遺体を、まるで柱に寄りかかっているように貼り付けました。


 後は線路の上にワイヤーを渡し、ホームの反対側の、斜面下にある道まで垂らしておく……。



 次に、犯人は駅の前にある看板に向かいました。支柱にノコギリのような刃物で切れ込みを入れ、ワイヤーを巻きつけます。


 これは、後のための布石でした。

 車を前に停め、人が見ていない隙を狙い、看板を倒す。すると、看板が車を押しつぶして、人を轢いた痕跡を誤魔化してくれる……。


 小さな痕跡は、大きな痕跡で上塗りする……。犯人の思考の癖がよく出てますね?



 鳩中さんのスマホのロック認証は顔認証でした。遺体の顔を映すことで簡単に解除できます。


 犯人は遺書の投稿を捏造し、遺体のポケットあたりに入れておきました。

 充電はその後に切れたようですね。


 遺書の投稿と飛び込みに時差があったのは、やはり飛び込み前に投稿しようとすると慌ててしまうので、時間に余裕が欲しかったからでしょうか?



 そして、引き返せる最後の一線。



 始発の電車がやって来る頃合いを見計らい、犯人はワイヤーを引っ張りました。


 ぐんっ……と引きずり込まれるように、鳩中さんは線路に飛び込んだのです。

 

 運転手からは、柱から身を起こし、線路へ身を投げ出すように見えたことでしょう。


 鳩中さんの遺体は……ああ、ぐしゃぐしゃになってしまった──。


 一方で犯人は胸をなでおろしたはずです。

 詳しい検死を行うならともかく、運転手の証言もあるため、簡易的なもので済まされ、自殺として処理されるだろう、と。


 いざとなれば、自分が出ていって、自殺だと促せばいい。


 彼は、捜査に介入できる立場なのだから。


 

 さて。いかがだったでしょうか?



 証拠が欲しいのなら、皆さんでお探しくださいね。いざ探すとなると、いくらでも見つかるはずですから。


 遺体の死亡推定時刻、電車のものではない打撲痕、首の包帯には、うっすらとワイヤーの痕もあるのでは?


 もちろん、彼の車を調べれば手っ取り早いかと思いますよ。フロント部分に、被害者の痕跡があるでしょうね。


 

 我が身可愛さに遺体を弄び、立場故の高慢さから犯行が暴かれた、哀れな男──。



 そうですよね?



 日鷺警部。


2話同時投稿です。

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