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死ぬ程洒落にならない怖い事件簿  作者: 春山ルイ
嘘に包まれた駅
14/53

証言 ‐燕田‐

 駅から車で──なんとパトカーに乗って──10分ほど走らせた場所に燕田の家はあった。九木はおおよその位置しか覚えていなかったが、鴉原が警察のツテを使って発見した。


 燕田は寝ていたが、警察がやって来たと知ると慌てて玄関に出てきた。上半身はタンクトップで、下はトランクス丸出しという、悲惨な格好だ。


「あの……ズボンは履いてもいいっすかね……?」



 燕田が最低限度の服を纏ってる間、九木と話し合う。


「あいつが、なにかやった可能性はないのか?」


 憚られて曖昧な言い方をしてしまう。


「どうして?」


「鳩中はあいつと会いたいから、昨日の会を主催したんだろ。あいつと会って、なにかあったから自殺したって考えられないか」


「別れ話を切り出されちゃったとか? それで絶望して線路に飛び降り。まああの子、メンタル弱そうだしなぁ」



 思い出した。


 昨日、鳩中のことを、聞いてもないのに説明してきた男がいたが、その中に引っかかるものがあった。


「来週、鳩中とあいつは……なんだっけか。『ペスティーランド』に行く予定だったらしい」


「え。なんで君が知ってんの?」

「僕がというか……変なやつから聞いた」


「確かに、来週デートに行こうって人が、自殺するって変だね。よっぽどキツイ別れ話をされたか、もしくは……」


「もしくは?」


「んん……」



「すんません……も、もういいっすよ……」


 燕田がのそのそと出てきた。ぱっとしない風貌だ。僕が言えたことではないが。


「燕田さん、突然ですが、鳩中さんのことは聞きましたか?」鴉原は事務的だ。


「鳩中? 夢依のこと? 聞いたって……な、なにが……?」


 不穏な空気を感じ取ったのだろう。燕田は青ざめる。


「その前に一つ。昨晩、あなたは鳩中さんと会ってますよね? そのときのことを聞かせてほしいのですが……」


 燕田は目を泳がせた。瞳が僕と九木を捉える。明らかに警察ではない僕たちを、彼はどう思っているのだろうか。


「燕田さん?」


「え、えーっとその……会ってないです」


「え?」


 僕も小さく「え?」と言っていた。


「確かに、会う約束だったんですよ。待ち合わせ場所に、時間通り車で向かったんだけど、いなかったんです」


「い、いや、そんな……」


「ずっと待ったし、探しもしました。『JuINE(ジュイン)』にメッセージも送ったんすけど……既読もつかないし……」


 ジュインって、あのトークアプリか。ほとんど使わないから、聞き馴染みがない。


「それで、あなたは帰った?」


「酷いって言われるかもしれないけど……いつまでも待ってるわけにはいかないし。帰りました」



 それから、燕田は核心に触れる。


「あの……無依は……」


「……今朝、ホームから飛び降りて、亡くなりました」


「は……はあ!?」


 近隣の都合もお構いなしに、燕田は叫んだ。


「おい」僕は九木に耳打ちする。「あれ、演技か?」

「そうは見えないね。なにか隠してるにしても、変な嘘だし」



 鴉原は滞りなく聴取していく。待ち合わせ場所や約束の時間を詳しく訊ねる。燕田も協力を惜しまなかった。

 ただ、JuINEのメッセージ履歴を見せろと言われたときは、少し躊躇っていた。


「履歴、消したりしてないよね?」


「消しても『メッセージが取り消されました』みたいな表記が出るので、意味ないですよ」


 燕田の言う通り、深夜2時のちょっと前に送信された《今どこ?》というメッセージから、鳩中は未読のようだった。それ以前は既読で、逐一返信もしていたのに。


 他に気になるところといえば、23時頃に彼らは不思議な連絡を取り合っていたようだ。


《準備できたよ》と鳩中。

《1時に待ち合わせでいいんだよな?》と燕田だ。

《ん!

 5分前に出てきて》


 オッケー、という燕田のスタンプ。その後、彼は続ける。


《じゃあ始めちゃって!》


 23時に彼らは、なにか始めようとしていた?

 その頃はとっくにオフ会も終わって、僕たちに至ってはネカフェを探し回っていた時間だ。


「あのぉ……他に聞きたいことはあります……?」

「そうですねぇ……」


 重要なことは聞き終え、聴取も終わろうかという間際。鴉原の前に、九木が割って入った。


「あ、1ついいです?」

「え? あの、あなたたちは誰……」



「燕田さん、鳩中さんと()()()()()()()とかってしてました?」


 時が凍った。


「……あ……え?」

「は?」


 みんなそれぞれ、空気が漏れるような声を出す。


「あー、アレです。()()()プレイとか。やってたりします? 最近……」



 僕がこいつの首を絞めてやろうか、と思ったが、なんとか耐えた。耐えたが、後頭部を殴るのは抑えきれなかった。パシン、と軽い音がした。


「この……イカレ女がっ……!」

「ちょっ……星太郎くん!? 痛い! 待って! 誤解だから!」

「どう誤解する余地があるってんだよ!」

「別に好奇心とかじゃなくて……!」

「なんだろうとヤバいだろうが!」


 燕田は目を白黒させて、というか一瞬、完全な白目になっていた。


「し……したことないっす……」


「あ、なるほどオッケー!」


 九木はにこやかに手を振った。

 なにもオッケーじゃない。なにも。


 強制的に退場させる。彼女の肩を引っ掴んで、この場から逃げ出すかのように、僕たちは燕田家を後にした。


   ***


 パトカーの中で、九木と鴉原は意見を交わす。僕は疲労で、このまま眠ってしまいたいと思っていた。


「やっぱり待ち合わせ場所は調べておいた方がいいと思います」

「でも、なにを調べろって?」


「んー。なんか!」

「なんかって……?」


「たとえばですけど、待ち合わせ場所に誰かと争った形跡でもあれば、燕田さんが鳩中さんと会ってないっていうのは怪しくなるでしょ。2人がそこで争ったかもってことだから。

 場所は路上みたいだから……痕跡は見つかるか分かんないけど」



「でもまあ……被害者は自殺だろうね」鴉原は残念そうだ。「燕田が自殺させたとかだったら大事件で、わたしにも異動のチャンスができたんだけど」


「鴉原さん、不謹慎ー」


「警察は気にしなくていーんだよ。そんなこと」


「いいわけないだろ……」僕の呟きはスルーされる。



「それにしても。あんた、なんであんな質問したの。空気めちゃくちゃ冷えたじゃん」

「首絞め?」


「被害者の首にあったアレのこと気にしてるの?」


 知らない情報に、僕は反応してしまう。


「鳩中の首に、なにかあったのか?」


「星太郎くんは遺体を見てないもんね」

「ああ……」


 警察の鴉原はともかく、九木が平然と遺体を確認できているのは謎だ。普通は少しくらい拒否反応が出るものだろうに。


「鳩中さんの首には包帯が巻いてあったんだよ。ぐるぐる、2、3回巻いてあった」


 昨日、鳩中の首に包帯なんかなかった。もし巻いてあったら印象に残っているはずだ。


「包帯の下に痕があるかもしれないって? だとしても、あの質問はないだろ……」

「まわりくどいの面倒!」


「でも包帯って、昨日の夜から今朝までの間に巻かれたってことになるぞ。でも燕田は鳩中と会ってない。嘘じゃなければ」

「誰が包帯を巻いたのかな? 鳩中さん自身?」



 僕も燕田が演じているとは思っていない。彼の発言をすべて信じるつもりはないが、疑ってかかるのも良くない。


「九木、お前はなにか分かってるのか?」


「わたしは探偵じゃないんだよ? そんないろいろ分かってないって」


 なにも掴んでいない奴が、首の痕などに違和感を持つだろうか。



「とにかく、きさらぎ駅だよ。鴉原さん、約束通り、スマホを借りてきてくださいよ!」


「分かったよ……でも、それ見てどうすんの」

「投稿を見たいんです」


「例の、駅がどうとかって? そんなの、自分らのアカウントから見れば?」


「本人のスマホから見たいんですよー」


 鴉原はため息を吐いた。


「くだらないなぁ。都市伝説とか……関係ない自殺だって……」


「いーや! 鬼はいます! きさらぎ駅もきっと実在します!」


 狭い車内で激しい争いが始まった。飛び火しないことを祈るばかりだ。



 ダウンロードした、鳩中が投稿した写真を見返す。

 九木はああ言ったが、怪異や都市伝説が人を自殺に追い込むなんてあり得るのだろうか?


 しかも、()()()()……。


「星太郎くんもなんとか言ってやってよー! この分からず屋警官にさー!」


「……あ?」


 飛び火した。


「怪異はいるの! 絶対にー!」


「……」

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