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死ぬ程洒落にならない怖い事件簿  作者: 春山ルイ
嘘に包まれた駅
11/53

事件発生

 故郷での事件が解決して、2ヶ月が経った。それ以来、大学で僕たちはよく会う……なんてことはなく。

 そもそも僕は九木と遭遇しないように警戒している。


 だから、3日前に突然、校門で待ち伏せされたときは心臓を握られた気分だった。


 そして故郷の借りをダシに、僕はまんまとオフ会に参加させられた。

 


 ──その結果、まるで飛来した隕石に追突されるような、酷い不幸に見舞われるのだった。


 事件はオフ会の翌朝に起きた。


 再び怪異の臭いを漂わせて。


  ***


「おい……走れ!」

「ちょっと待ってよー」


 僕たちは走る。

 青春の倒錯でも、健康志向でもない。


 電車に乗り遅れまいとしているだけだ。


 駅の方角には霧が立ち込めていた。なんだか異界に向かっているようだ。


「電車逃したら……次、何時だって?」

「えっと……ほぼ1時間後って感じかな」

「……僕の故郷よりは早いな……」


 そもそも、オフ会が終わって直帰すればこんな目には遭わなかった。


 九木が昨夜、「せっかくだから近くの神社に行こうよ! 有名なんだから!」とか言い出し、終電を逃したせいだ。


 もちろん僕は逃げようとした。が、あのイカレた女はそれを許さない。


 ネカフェに泊まって、一夜が明けた。まったく災難だ。



「くそっ……早く帰らないと1限に間に合わない……」


 日課の早朝ランニングのおかげで疲労はない。ただ眠い。ネカフェは寝心地が悪かった。


「うーむ……んー……?」


 不自然なくらい後方で、九木のうめき声が聞こえた。振り返ると、九木は完全に立ち止まってスマホを操作していた。


「なにしてんだ!?」


 間に合いたくないのか?


「あ、いや……ちょっと、変な投稿が……」

「投稿? いやSNS見てる場合か?」


「んー……同好会の人から連絡があって、これ見てみろって、送られてきてさ……」


 ぶつくさ言っているが、知ったことではない。

 このまま急がないつもりなら、もう一人で帰ろう。



 そう思った矢先、知らない声に呼び止められた。


「ちょっとそこの2人ー!」


「なんだ……って……!?」


 声の方を見れば、思わず背筋が凍った。

 パトカーだ。助手席に座る女性警官が、僕たちに声を飛ばしてきたのだ。


「なにしてんの。こんな場所で、こーんな朝っぱらに。怪しいなぁ」


「は……? あ、怪しい? そこの女ならともかく、僕まで?」


「や。そっちの子は言うまでもなく。

 あんたもほら。なんか前髪が野暮ったいし。目つき鋭いし。怪しいよ」


「初対面の相手に言うことか?」


 酷い非難だ。許されていいのか。


「え!? 星太郎くんはともかく、わたしまで怪しい!?」

「お前、客観的に自分を見れないのか?」

「こんな美少女を捕まえて怪しいなんて!」

「客観視した結果がそのナルシシズムかよ……」


「どっちも怪しいっつーの」


「ぐぬ……」


 女性警官は窓から半身を乗り出してなじる。


「……夜中に()()()()()()()()()()()()がいんだよ。あんたらじゃないでしょーね?」


「知らねーよ」


 パトカーの運転席では、うんざりした顔の男性警官がハンドルを握りしめている。


「つーか、それどころじゃない。早く行かないと電車に間に合わない……」


 いやもう、時間的に間に合わないことが確定している。


「一応、クスリとかやってないか調べさせてよ」

「あぁ!? やってるわけねぇだろ!」


「あれ。もしかしてわたしたち、職質されてる?」


 九木は呑気なことを言っている。


「おい……」と、ついに運転席の男性警官が声を発した。「もう放っておいてやれよ、鴉原(からすばら)……」


 女性警官は鴉原というらしい。彼女は振り返って怒る。


「もし本当にクスリとかやってたら、あんた、犯罪者を見逃すの!? 鵜ノ井(うのい)、あんたはそれでいいの!?」


「お前がそんな殊勝な考え持ってるわけないだろ! 徹夜の憂さ晴らししたくなっただけだろ!?」


「──へへっ、バレた?」


 本当に警察官か? と疑いたくなるような言動だ。コスプレをした不良の方が納得できる。



 付き合ってられない。職質は任意だ。電車に間に合わなかろうが関係ない。駅まで逃げよう。


「あ、コラ! なに逃げようと……」


 

 そのとき、甲高い音が、進行方向から響いた。電車の警笛のようだ。

 ほんの少し遅れて、金属が擦れるような不快な音が轟く。



「なんだ……? 電車が……急停車でもしたのか?」


 ポロッと口から出た言葉だったが、正解だったのかもしれない。想像上の光景と、聞こえた音が結びつく。


「まさか、事故……?」


 そう言いながら鴉原はパトカーから降りる。


「あっ鴉原……」

「鵜ノ井! あんたはどっかパトカー停めてきて!」


「星太郎くん、見に行ってみる?」九木は冷静だ。

「見に行ってどうするんだ?」

「んー。なんとなく」

「ちっ……」


 九木が駆け出し、僕は遅れて駅の方へつま先を向けた。

 アドレナリンが分泌されているのか、さっきよりも速く走れている。


 霧の中に、僕たちは突き進んだ。



「……って、あんたらは来んなよ!」


 鴉原が遅れて怒鳴る。


「なんで?」九木は止まらない。

「もし事故だったら、一般人が来ていいわけないでしょ!?」


「なるほど。確かにねー……」

「とか言いながら走り続けんのやめろ!」


 ごちゃごちゃ言いつつ、鴉原は僕たちを止めない。口だけだ。事故を優先してるなら警官らしい心構えだが、さっきの問答で、ただ面倒臭がっているだけな気がしてしまう。



 ついに九木と鴉原が、同時に駅に到着する。駅は閑散としていた。無人駅のようだ。駅員の姿はない。


「うっ……!」


 ホームについた鴉原が、息を呑む。

 

「星太郎くん」


 九木は僕を手で制した。


「君はそこで待ってて」


 九木もわずかに顔をしかめている。僕は改札を抜けたところで立ちすくむ。

 線路は見えないが、なにが起こったのか、容易に理解できた。


 人身事故だ。


「これ……」


 九木がなにか呟く。


 鴉原はスマホを取り出し、どこかに、おそらく警察署に連絡を始めた。


 僕は線路を見ていないからというのもあって、たった今起こったことを飲み込みきれずにいた。

 わずか数メートル先に死体がある。分かっていても、テレビの画面を隔ててニュースを聞いているような気分だった。


 しかし、九木が側に寄り、僕を渦中へと引きずり込むのだった。



「死体……()()()()()()()()を着てる。女子だよ」


「は……? だから……なんだよ……」


「それだけじゃない。他にも特徴が一致する」


 ピンクのブラウス。そんな目立つ服を着ている女。つい昨日、身近で見たばかりだ。


「死んだの、鳩中夢依さんだよ。オフ会の主催者……」


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