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血溜まりチャチャチャ  作者: 海の字
第二章 ギルドクエスト編
32/38

32.仲良しの女の子

 ギルクエ世界の街並みは壮観だ、赤茶けた煉瓦造りの屋根屋根が、毛細血管のように市中を走っている。

 ひときわ目立つ心臓部、天をつく巨城へと目をやる。おそらくあそこが、『最後のプレイヤーたちが潜む戦地』だろう。


 デスゲームが始まって数週間、めっきりプレイヤーとの接触が減っていた。

 最後の戦闘からすでに三日が経過しているというのに、敵の影すら踏めていない。わざと目立つよう練り歩いてみたが、物音ひとつしないのだ。


 探索していない場所はもうあの城だけ。

 

 なぜ出てこない。

 レベルアップというシステムがある以上、隠密し漁夫の利を狙う戦法は弱い。考えられるとすれば——。


「はなから優勝するつもりがない?」

 

【このゲームの数少ない攻略法、それは『ゲーム自体に参加しない』ことさね】    


 全員が全員、好きこのんで殺し合いをしているわけではない。なかには温厚な者もいるだろう。

 最後の一人を決めず、あえて複数人で生き永らえ続ける。


『永遠にゲームを存続させる』という選択肢。


「まずいかもしれん」

 そのためには協力者が必須のはずだ。


「やっこさんはおれたちみたくパーティを組んどるかもしれん」


 なにせその選択を取るのなら、全ての殺人鬼を退けなければいけない。強者に対抗するため、和平主義者同士が徒党を組むのは絶対の要件だ。

 

 優勝を狙う強者は単独で行動しがちになる。

 仲間を見つけても、しまいには殺し合いになるからだ。   


 寝首をかかれるリスクを取るくらいなら、一人で生き抜いた方がよほど合理的だといえる。


 おれたちみたいな例は稀で、だからこそ勝ち抜いてこられた。

 それほど数の利はおおきい、厳しい戦いになるだろう。


「さて、どう堕としたものか」


 道具屋、装備屋で準備を整えるのは当然として、なんらかの策を講じる必要があるのかも。さすがに複数人を一度で相手取れる自信はないからだ。


「キナー、なんかある?」


 横をてこてこと歩く淑女、キナにおれは全幅の信頼を寄せている。知的で思慮深く、なによりもおれのことを思ってくれている。彼女だけがおれの生存を望んでいる。今では一番の理解者だ。


 コンコさんのことなんて忘れて、あなたと生きられたなら、どれだけ楽か。


【叶える気のない夢を語るな、そんなもの、誰も幸せにしせないさね。ふん、ワシから提言をするのなら、正面からねじ伏せればいい。お前はすでにワシの全盛と同じ高みにあるのだ、半端者どもに遅れをとるものか】


 文字通りの一心同体とはいえ、まだ出会って数週間、なぜそこまでよくしてくれるのか。


 当初から抱いていた疑問は思わぬ形で氷解した。

 レベルアップの影響を受け、血の理解が進むにつれ、彼女とのつながりもより強固なものになったからだ。

 いまではキナの抱く思いや、語られぬ過去ですら解析することができている。


 かつての神の壮絶な半生、地獄の記憶。

 だがそれはおいそれと足を踏み入れていい領域でない。


 前提としてキナは過去を忘れたがっている。

 なら、おれもその気持ちを尊重したい、わざわざ探る必要はないということだ。


 キナはキナだ。神でも呪いでもなく、おれと仲良しの女の子なのだ。


 長々と語ったが、彼女の深層心理に複雑な解はない。

 キナは至極真っ当に優しく、そしておれは愚かだということ。


【愛さずにはいられないくらいにの。生石、お前の刹那的な生き方は側から見ればひどく危うく、つい支えたくなってしまうさね】


「ときめくねぇ」


【だからどうか、死んでくれるなよ】


 言葉がこれより始まる激戦を指しているのか、おれの結末を案じているのか。どちらにせよやることに変わりはない。

 独りよがりの罪悪感を抱き締めながら、全霊で命を賭すだけだ。


 開門——。

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