32.仲良しの女の子
ギルクエ世界の街並みは壮観だ、赤茶けた煉瓦造りの屋根屋根が、毛細血管のように市中を走っている。
ひときわ目立つ心臓部、天をつく巨城へと目をやる。おそらくあそこが、『最後のプレイヤーたちが潜む戦地』だろう。
デスゲームが始まって数週間、めっきりプレイヤーとの接触が減っていた。
最後の戦闘からすでに三日が経過しているというのに、敵の影すら踏めていない。わざと目立つよう練り歩いてみたが、物音ひとつしないのだ。
探索していない場所はもうあの城だけ。
なぜ出てこない。
レベルアップというシステムがある以上、隠密し漁夫の利を狙う戦法は弱い。考えられるとすれば——。
「はなから優勝するつもりがない?」
【このゲームの数少ない攻略法、それは『ゲーム自体に参加しない』ことさね】
全員が全員、好きこのんで殺し合いをしているわけではない。なかには温厚な者もいるだろう。
最後の一人を決めず、あえて複数人で生き永らえ続ける。
『永遠にゲームを存続させる』という選択肢。
「まずいかもしれん」
そのためには協力者が必須のはずだ。
「やっこさんはおれたちみたくパーティを組んどるかもしれん」
なにせその選択を取るのなら、全ての殺人鬼を退けなければいけない。強者に対抗するため、和平主義者同士が徒党を組むのは絶対の要件だ。
優勝を狙う強者は単独で行動しがちになる。
仲間を見つけても、しまいには殺し合いになるからだ。
寝首をかかれるリスクを取るくらいなら、一人で生き抜いた方がよほど合理的だといえる。
おれたちみたいな例は稀で、だからこそ勝ち抜いてこられた。
それほど数の利はおおきい、厳しい戦いになるだろう。
「さて、どう堕としたものか」
道具屋、装備屋で準備を整えるのは当然として、なんらかの策を講じる必要があるのかも。さすがに複数人を一度で相手取れる自信はないからだ。
「キナー、なんかある?」
横をてこてこと歩く淑女、キナにおれは全幅の信頼を寄せている。知的で思慮深く、なによりもおれのことを思ってくれている。彼女だけがおれの生存を望んでいる。今では一番の理解者だ。
コンコさんのことなんて忘れて、あなたと生きられたなら、どれだけ楽か。
【叶える気のない夢を語るな、そんなもの、誰も幸せにしせないさね。ふん、ワシから提言をするのなら、正面からねじ伏せればいい。お前はすでにワシの全盛と同じ高みにあるのだ、半端者どもに遅れをとるものか】
文字通りの一心同体とはいえ、まだ出会って数週間、なぜそこまでよくしてくれるのか。
当初から抱いていた疑問は思わぬ形で氷解した。
レベルアップの影響を受け、血の理解が進むにつれ、彼女とのつながりもより強固なものになったからだ。
いまではキナの抱く思いや、語られぬ過去ですら解析することができている。
かつての神の壮絶な半生、地獄の記憶。
だがそれはおいそれと足を踏み入れていい領域でない。
前提としてキナは過去を忘れたがっている。
なら、おれもその気持ちを尊重したい、わざわざ探る必要はないということだ。
キナはキナだ。神でも呪いでもなく、おれと仲良しの女の子なのだ。
長々と語ったが、彼女の深層心理に複雑な解はない。
キナは至極真っ当に優しく、そしておれは愚かだということ。
【愛さずにはいられないくらいにの。生石、お前の刹那的な生き方は側から見ればひどく危うく、つい支えたくなってしまうさね】
「ときめくねぇ」
【だからどうか、死んでくれるなよ】
言葉がこれより始まる激戦を指しているのか、おれの結末を案じているのか。どちらにせよやることに変わりはない。
独りよがりの罪悪感を抱き締めながら、全霊で命を賭すだけだ。
開門——。




