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血溜まりチャチャチャ  作者: 海の字
第一章 裏公団編
3/38

3.この世界だと息が吸えない

「裏公団。忌み物たちが住まう土地。そこでは現実のあらゆる法則が通用せず、常世のしがらみも断ち切れよう。ならば産まれ変わりの儀式だ」


 長々とどうも。


 裏公団。例の裏世界という認識であっているのだろうか。

 こことは違う場所。新しい人生を送る場所。マジで言ってんの?


「その儀式ってのが、私の赤ちゃんと、生石くんのアソコを捧げることなの?」


 うなずくスッポン坊主。

 奴の様相は恐怖以外の何者でもなく、よく平然と話せるものだとコンコさんに感心する。


「おれ、そんな場所に行くつもり毛頭あらへんで」


 仮に裏公団なるものが実在したとして。そこが現実よりも素晴らしい場所だとさらに仮定して。


 おれの局部を差し出す理由にはならない。


「ねぇおじさん。儀式っていうのは痛いものなの?」

 一方コンコさんは興味津々だ。なぜ?


「痛みを伴わない産まれ変わりなどあろうものか」

 どんどん行かない理由が増えていく。


「ふーん。ところで生石くんはさ、私のことが好きなんだよね」

「え、まぁ」


「私、行ってみたいな。一緒についてきてくれたなら、キスよりもすごいこと、したげるけど」


 はぁ。


 揺らがなかったと言えば嘘になる。おれだって男だ。好きな人にそんな誘われ方をすれば、意思も傾く。


 だが二の句はでてこない。それ以上に怖かったからだ。儀式や目の前の怪物、なによりコンコさんの底なしの好奇心が。


「私はこの世界だと息が吸えない」


 おれの両頬を手で引き寄せて、血走った目で訴えかけてくる。見つめていると吸い込まれそうになる。


「どう足掻いても、周りの全てが私を否定してくる。苦しい。苦しい。ここではないどこかへ行きたい。ねぇお願い、私と逃げてよ!」


 鉄を切るような高い叫びも。悲壮に染まりきった表情も。おれを誘惑するのに有効だと、きっとわかってやっている。この人はそういう女だ。


「生石くんは人を殺してんだよ。いまさら普通に生きようなんてするなよ。資格がないんだから」


 あんたも共犯だろうが。思わず叫びそうになる。

 この人は容易く他人に責任をなすりつける。


「赤ちゃん、取られても平気なん?」

「ふふ、どーせ産んでも私が殺してた」


 震えた。心底楽しそうな笑みに晒され、動悸がした。この人は破綻している。


 思えば好きになったキッカケもイカれていた。


 いつかの冬、その日は氷点下近くまで気温が落ち込んでいて。だが母は半グレ連中と寝るためにおれを家から追い出した。


 公園のベンチ、低体温症で死にかけていたところを、コンコさんは条件付きで拾ってくれたのだ。


『腕を舐めてくれたら、家の中に入れてあげる』


 このままでは死んでしまう。おれは提案に乗らざるを得なかった。


 父親が仕事で留守にしていた狐塚宅は、暖房器具などありはしなかったが、それでも外よりはうん倍もマシで。


 一晩中、リスカ跡まみれの腕を舐めた。


『ズキズキって痛むのがね、気持ちいいの。生きているって自覚できる』


 おれは怪物の慰めものにされた。

 コンコさんの蕩けたまなこに射抜かれた。

 こうして小学生の性癖は壊されたわけです。


「私、生石くんのモノになってもいいよ」


 はい、おしまい。

 

 その後の儀式は筆舌に尽くしがたいものだった。

 言葉になる手前の呪詛をボソボソと吐くスッポン坊主。

 するとだんだん、局部から灼熱が込み上げてきて。かけがえの無い大切な部分を奪われたのだとわからされた。


 血と苦痛に悶え、意識は暗転。


 目が覚めたときにはすでに、世界がぐるりと裏返っていた。

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