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血溜まりチャチャチャ  作者: 海の字
第二章 ギルドクエスト編
23/38

23.咬犬直一

 武闘家ギルドの拠点は教会の半地下にあった。『聖廟(せいびょう)を隠れ蓑に、バトルジャンキーたちが夜な夜なファイトクラブを開いている』的な設定が、ギルクエ内であったような気がする。


 位置はゲームコマンドの『地図』から簡単に割り出すことができた。コマンドは指で空を叩くと出現するのだが、操作方法はギルクエと同様のためすぐに慣れた。


 魔物使いギルドへは先ほど出向き、コンコさんは無事ナナシを支配下に置いた。懸念点が減り胸を撫で下ろす。

 

 クリア条件はコノコに書き換えられてしまったが、依然ギルドへ入会するメリットは大きい。


 第一にレベルアップの解放。ギルクエにおいては魔物や悪人を討伐することで、経験値を貯めることができる。戦闘終了後、経験値が一定の割合に達するとレベルが上がる仕組みだ。


 ギルクエにはパーティ機能があって、仲間を設定しておくことで得られる経験値の共有が可能。


 レベルが上がるとステータス向上のほか、職業に応じたスキルや魔法を習得することができるってなわけだ。


 他には支給武具、ようは初期装備の配布がある。裏世界へ来てからはやひと月以上、まともな衣服は学校の制服くらいしかなかった。流石に目に見えて汚れや劣化が蓄積していたので、新たな衣装を確保できたのは大きかった。


 コンコさんはタイトな皮の軽鎧に、朱色のマント。腰には取り回しに容易い大型ナイフをぶら下げている。

 ナナシは小綺麗な外套と、大容量のバックパックという簡素なもの。

 おれは武闘家らしく道着に額当て、拳には丈夫な皮布を巻きつけた。他には鉄ゴテや脛当てなど、動作の邪魔にならない最低限の防具だ。初期装備とはいえ、どれも質が良くずっしりと重い。


『武闘家へ転職しますか?』


 YESだ。


「一気に異世界らしくなったね」

「おん。正直ワクワクする」


 武闘家ギルドのアジト内で小休憩をとる。

 ナナシは装備品の整理を行い、おれは人を模した木偶でトレーニング、コンコさんは気になるルールがあるようで、ゲームの詳細をしきりに眺めている。


 半日のサイクルは身体の回復でなく、裏世界へやってきた時点までの巻き戻し。つまりかたや学校帰りの学生と、かたや父親と乱闘になったあとの少女だ。


 なので方針はこうなる。

『サイクルが始まってからの六時間は休息し、残り六時間で索敵を行う』

 逃げ隠れするつもりはない。見つけ次第事を済ます。


「生石様、ナナシ共は地図を見てここへきました。なら……」


 あぁ、他のプレイヤーもここへ来られるだろう。


 安全をとるのなら魔物使いギルドにとどまればよかった。なにせいまだ魔物を観測できていないのだから、ナナシというイレギュラーを省けば魅力は少なく、人が寄り付く可能性は低い。


「アジトをここにしたのには理由がある。ギルドへ加入しにきた、おれたちみたいなプレイヤーを待ちぶせるためや」


「なるほど、つまり……」

 わかっている。来るならくればいい。


「殺してやるよ」


 葛藤はまだある。 

 殺す。強い言葉をつかって、けれど心情はちぐはぐだ。おれは人を殺めたことがない。

  

 狐塚のオヤジさんは自殺した。忌み子は人間でないと定義した。キナには敗北した。


 覚悟ばかりが先行して、疑念の余地は広がって。

 本当に殺れるのか?


「何を迷うことがある」

 おれがやらなきゃコンコさんが死ぬ。シンプルなルールだ。

 彼女のためならなんだってやれる。女子供にだって容赦しないさ。

 もう何度目になるだろう、不安と決意を繰り返す。


【思い悩むのは若者の特権だが、どうやら世界はそれを待ってくれない。生石、来たぞ】


 だが、思案は著しく無意味だった。


「は、はは」


 神は残酷だ。ひとかけの覚悟を無碍(むげ)にし、おれがつまらない人間であると提起する。


「はははは!」


 想い人のために罪を犯す。

 褒められたことではない、だが信念に殉じられる。

 人間の所業ではない、だが畏れ高い鬼であれる。


「どこまでいっても、おれはしょせんクソなんやな」

 

 おれは鬼ですらなかった。

 肥溜めに群がるゴミ虫以下の(けが)れだ。


「おう、生石のセガレ。ひさしぶりやないか」

咬犬直一(こうがみ なおかず)!!」


 なぜなら純度100%の私的理由で。

 おれはおれだけのために、今からこいつを殺さなければいけない。


 むしろ良かったのかもしれない。

 奴を殺すことにたいし、おれは一切のためらいを持たない。


 奴は母親のセフレであり。

 認めたくはないが、おれの師であった。


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