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血溜まりチャチャチャ  作者: 海の字
第二章 ギルドクエスト編
22/38

22.あの子はコノコ

「あははは! あは、ハハハハ! っ! はぁ、はぁ、あー、くるし」


 コンコさんは爆笑した。

 ことの顛末を話したとたん、大声をあげて、息も忘れるくらい爆笑し始めた。


 それに驚けない自分が悲しい。


「私の赤ちゃんが私を殺すって? おもろ、どんな喜劇だよ」

「こんな悲劇だよ」


 あんたは笑うだろうよ。わざわざ産まれてきてまで、自分を殺したがっている奴がいる。退屈なんてさせやしない。コンコさんの倫理なら大歓迎さ。

 興奮で頬に紅葉を散らし、ヨガって、悶えて。


 ナナシを見てみろよ、絶望し、意気消沈している。


「ナナシ君のことは安心して。私の赤ちゃんは、ギルクエ世界にバトロワ要素を付け加えたに過ぎない。雑な仕事さ、テレシアが構築した職業システムはまだ生きているだろう。なら、私が『魔物使い』になって、ナナシ君を使役すればいい。『最後の一人』。この子は人間じゃないのだから、儀式のルールには抵触しない」


 戦士にとっての武器が剣斧なら、魔物使いの武器は魔物。武器を人とはカウントしないだろう。さすがだ、さらっと裏技見つけるんだから。


「それよりも愉快痛快、生石君、私の赤ちゃんってばどんな奴だったのさ」


「イケメンやったわ。あれは流石に敵わん。ツルツヤロン毛やったもん」

「安心したまえ。君のロン毛にそこまでのポテンシャルはない」


【……ワシは生石のほうが男らしくていいとおもうぞ】


 フォローなってへんねん。こちとらチンコないねんぞ。


「生石さま、外見の話ではないかと」

 わかっているよ。ただ、あいつを表現するのに難儀した。


「アレに内面なんてもんはない。中身は空っぽ、剥き出しの呪いや。言葉にしようとするだけで胸がつまる、人の形をしているだけの悪意そのもの。コンコさん、とんでもないもん産んでしもたな」

「代理出産だけれどね〜。やっぱ私手づから殺しておかなきゃいけなかったんだ」


【ワシ、こいつのこと嫌いだわ】


 当然だろう。キナとコンコさんはすこぶる相性が悪い。なにせ忌み子が存在してしまう理由そのものなのだから。いうなれば諸悪の根源である。


【嫌いだが、受け入れ難いわけではない。生石を通じて経緯はわかっているつもりさね。何も言わぬさ】

 不憫なのはあの呪いだよ。強姦のすえ孕まされて、母にすら見限られて。


【そう思える生石だから、ワシはついていくことにしたさね】


「生石君、どうせ君のことだから、あの子の名前妄想してたでしょ。敵の呼び名は統一しておきたい。教えて」

 

 我が子を一瞬で敵とまで呼べる切り替えの速さ。

 マジでそういうところが怖い。


「おう、ご懐妊を聞かされたときからずっと考えていたで。コンコの子供だから、『コノコ』」


 コノコくん、コノコちゃん。いい響きや。


「やっぱ頭悪いとキラキラよりになるんだろうなぁ」

「えぇ……」


 ナナシがドン引きしている。おれのネーミングセンスのなさにだよな? 名前を考えていたキショさにじゃないよな?


 どっちにしろあとでシバく。


【気持ち悪いのはコンコのほうさね。なぜ生石が犠牲になると言っているのに平然としていられる?】


 コンコさんは自分が魔物使いになるといった。

 つまりナナシを生かすために、自分が生き残ると。

 なんの躊躇いもみせず、悪びれもせず、礼すら言わず、当然と言わんばかりに。

 そういうところが好き。おれの愛を疑っていないかんじ。


【ワシはお前の味方であって、コンコの味方でないさね。最終的にどう動くか、ワシ自身でさえわからないぞ】

 コンコさんを討つこともやぶさかでないと。

 大丈夫。そうならいよう、死ぬ気で呪いを使いこなせて見せるよ。どうせ死ぬのだから問題ない。


「んじゃ、とりあえず名前はそれで決定。話を前へ進めたほうがいい。ここはもう甘美な死中なんだぜ」


 すでにゲームは開始された。いつ殺されてもおかしくない状況にある。


 場所は城下町の一角、メインストリートから外れた裏路地だ。念の為目立たない場所へ隠れたが、杞憂だったかもしれない。


 訪問者どころか、NPCの一人も見当たらないためだ。広大な無人の王国、おそらくコノコがルールを書き換えた影響だろう。


 これより、おれたち以外の人間は全員もれなく殺すべき敵とみなしていい。


「さっそく突っ込んだことを聞く。生石くん、なんの恨みもない人間を、君は殺せるの?」

「おう」


 抵抗感はある。

 ただ、おれも死ぬことが確定しているという免罪符が、なけなしの救いだった。  


「共存。という道はないのでしょうか。たとえ先へ進むことができなかったとしても、最後の一人にさえならなければ世界は永続する。生き残ってもどうせコノコさまに食されるのなら、そちらのほうがはるかに懸命だと思います」


「なし、それだけはない」

「やっとることダンビラ組とおなじやもん」


 停滞。それはコンコさんが一番忌み嫌うこと。


「私たちはべつにどうしても次の世界へ進みたいってわけじゃない。だからナナシ君の案にも一考の余地がある。でも、他の訪問者はどうだろうね? たった一人の人間だけでも欲をかいたら、とたん共存関係が終わるんだぜ。最悪私たち全員が死ぬ」


【この世界に何人の訪問者がいて、どれほどの実力を有するのかも未知数な今、下手に寄り添うのは危険さね】


 当たり前の話だが、この世界にいる人間は全員がキナの儀式を突破したやつらだ。十人の死体を用意できる力量と精神性を有しているとみて間違いない。一筋縄ではいかないだろうし、むしろ殺すのが一番簡単まである。


「あとね、私がコノコから逃げちゃダメでしょ。殺すにしろ、殺されるにしろ。そのくらいの責任は果たさなきゃ」


「不躾でした。ご無礼をお許しください」

「謝ったら許してもらえると思って、日に日に図々しくなっているナナシ君、私は好きよ」


 ナナシの頭を撫でる。彼に小さな手のひらを添えられる。


「おれのことは気にすんな。どうせ一度死んだ命や。好き勝手に使わせてくれ」

「生石さまはナナシのために献身なされたのです。誰が文句を言えましょうか……」

【よきなぁ〜。こう言うの見たかった】


 うずくまるナナシ。ちっこくて健気で少し可愛い。


「裏公団では生石君に頼り切りだったからねぇ。次は私が頑張らなくちゃ。ゲームは十八番。攻略はまっかせなさい!」

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