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血溜まりチャチャチャ  作者: 海の字
第二章 ギルドクエスト編
21/38

21.限りなく死に近い呪詛

 奴はボロボロの袈裟を裸体に巻いていた。その衣服には見覚えがあった。スッポン坊主のものだ。


【あやつは本当にコンコの子なのか?】

 間違いない。コンコさんと親父さんの子供が、どんな顔になるのかずっと妄想していた。


 おれが育てる予定だったのだ。見間違えるはずがない。


業深い(キショい)のう】


 やつの外観はコンコさんにそっくりな美人だ。細い目筋と鼻筋、テレシアの血で紅を刺す潤んだ唇。すべてが艶かしい。


 笑っている。だが瞳の奥に光はなく、ドス黒いモノが渦巻いている。喜びも怒りも、憎しみすらない虚構、人として有すべき最低限が欠損しているのだと一目でわかる。


 キナを鬼と表現した。

 あれは違う。あれは限りなく死に近い呪詛だ。

 呪いそのものだ。


「あんたを食うつもりはない。降参のポーズ」

「へぇ、産まれたばかりなのにそんなもん知っとるんか」


「うん、知識は今食べたから」


 だから産まれたばかりなのに言葉を話せるし、人も殺せる。奴はテレシアの死体に近づき、お残しも食べ始めた。


「行儀がなってへんなぁ」

「あんたが女だったら一緒に食べてあげれたんだけれどね」


「なんで女限定なん」

「目に映る女は全員殺すことにしたんだ」


 粟立つ。なんて無邪気にものを言う。


『白線の上を歩くことにした』、それと同じ背丈じゃないか。


「すべての女を殺したなら、いつかママも殺せるでしょ。ボクを捨てた人なんだ。殺さなくちゃいけない」


 不謹慎だがテレシアの人見知りには助けられた。さすがに自分と瓜二つの女がいれば、母親だと気づいてしまってもおかしくはない。


「知らんけど、捨てたんも理由があったからかもしれへんで?」

「どうでもいいよ。ママがどんなやつなのかは興味ない」


 ムシャムシャ。


「なぜ?」

「ボクがそういう呪いだから」

【生石、説得は無駄さね。奴は呪いの擬人化。言葉が通じているのも奇跡に近い。精神体でなければ、ワシでも足がすくんでいただろう】


 ムシャムシャ。


「なぜ母親だけなんや? それを言うなら父親だって同じ罪やろ。むしろもっと罪深い。無理やり孕ませた可能性が捨てきれへんねんから」

「そんなことを言われても仕方がないよ。そういうふうに出来ているってだけ」

【やめろ】


 ムシャムシャ。


「つか、なんでおれが男って断言しとんねん。みせたろか? なんもはえとらんかもしれへんで」

「わかるよ。男は食べる気が起きないんだ」

【やめてくれ】


 ムシャムシャ。


 この煽りにはまったく意味がない。やつの気まぐれ一つで死んでしまえる立場にあるからだ。黙っておくのが得策だと、頭では理解している。


 キナが怯えている、奴の呪いの深度は君以上なのか。


 生かされている幸運を噛み締めるべきだ。

 だともおれは知りたい。


 世界で一番大好きな人の子供なんだ。

 大好きな人が捨てた子供なんだ。

 なら、その罪と罰がどれほどのものなのか、おれは知りたいし。背負いたい。


 ムシャムシャ、ごくん。


「あれ? そういえばボクを産んだ肉も男だったな。じゃあ、別にママが女だとも限らないわけだ。思いついた! 男も殺そう!」


 なんていい笑顔をする。せめて拭えよ、口元の血肉くらい。

 幼子の笑みで、おぞましい悪腫を見せつけるな。


「でも男にかまっていられるほど、ボクは暇じゃない、お腹ぺこぺこなの。だから代わりに、《《世界》》で殺そう」


【生石、お前は大うつけさね。今のきゃつはなぜか神の権能すら喰らい尽くせた。世界の根本を書き変えることが可能さね】


「最後の一人になるまで殺し合い、生き残った奴だけが次へ進める。そうすれば、男も女も勝手に死んでくれるし、ボクは残った一人だけを食べればいい。あれれ、ボク天才なのかも♪」


 食事を終えた奴は立ち上がる。足元には骨とドレスとメガネだけが転がっていた。


「んじゃ、ボクは次の世界を食べに行くね。ばいばい。もしもまた会えたのなら、そのときは好き嫌いしないって、約束したげる」


 手を振って、奴は消えた。


『最後の一人になるまで殺しあえ』


 世界のルールを書き換えられた。コンテニューなどと言う無粋なものは遺棄された、つまりは殺人の強要だ。


【案外冷静なのだな。状況をわかっているのか? 新しき(のり)において、生き残るのは一人だけだ。つまりお前とナナシ、それにコンコは殺し合わなければいけないんだぞ】


 古典的なバトルロワイヤル。むしろわかりやすくていい。コンコさん好みの展開じゃないか。


「わかっとる。ちゃんとことの責任は果たす」


 おれのせいでこうなった。

 なら簡単なことだ。生き残るのはコンコさんだけでいい。おれは死んでもかまわない。


 コンコさん以外の全員を殺して、おれは彼女の贄となろう。それがおれにできる責任の取り方だ。


 ナナシのことは心配していない。コンコさんがどうにかしてくれるハズだ。あの人はゲームの裏技を見つけるのが得意だから。


 もし無理なら、それも含めて全部背負って死んでやる。


 おれはそれができる男だ。

 本当か? 

 大丈夫。やれる。確信がある。

 おれは自分の『好き』を疑わない。

 ちゃんとできる。

 でも今は一人だから。


「キナ、形だけでもいい。震えが止まらないんだ。抱きしめてほしい」

【甘えた奴め】


 今だけは怯えることを自分に許す。

 血がほのかに暖かい。


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