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血溜まりチャチャチャ  作者: 海の字
第一章 裏公団編
13/38

13.キラキラなビー玉

 裏公団の門番である『キナ』を、おれたちはただ呆然と眺めていた。あいつを見ていると、なんだか妙な胸騒ぎがするのだ。


「あ」

 正体に気づく。

 

 嵐に混ぜ返された大海の荒波、あるいは轢かれて朽ちた道端の野干(やかん)を見たときに抱く——。


 ささやかな絶望だ。


 決して助けてやることができない。

 あそこまで堕ちた人間を救うことは誰にも。


 彼岸との距離、おれたちは残酷なまでの差を見ている。


「同じなんや」

 既視感。


 ブランコが揺れる。ブランコが揺れる。

 生きたまま燃やされた祖父も、あんな顔をしていた。


「うぅ」

 啜り泣く声。


「ナナシ、なんで泣いとん」

「わかりません、ただ辛いのです」


 言葉に感応してしまった。おれも同じ気持ちだ。叫び出したくなる虚無感を共有しているのだ。

 らしくないのに、彼の肩を引き寄せて。ナナシはおれの袖口に縋り付いて泣いた。

 

 自分で言うのもなんだけれど、おれたちはわりかし不幸だ。


 非行、虐待、ネグレクト、強姦、殺人、堕胎、隷属。宝物みたいに大切にしている不幸を並べて。

 

 でもおれたちはちょっとだけ幸せ者だ。


 好きな人がいるという幸せ、好奇心という幸せ、生存欲求という幸せ。


 ビー玉ごしに見上げたお天道みたいな、綺麗で、かすかに感動する、なけなしの希望があるから人は生きていられる。


 あいつは何一つない。憎しみだけが世界なら、おれはアレを人と呼べない。


 救えない、わからない、なぜだか無性に泣けてくる。


「おいおいおい、なにさこの展開。なんでいきなりシットリしちゃってんの?」


 センチな気分になっていると、ろくでなしが声を荒げた。


「あー、そう言うことね。ハイハイわかったわかった」


 そして勝手に自己解決。いつものことだ。


「ナナシ君、君は少し性急すぎだ。私、気づいちゃった。思えば今朝から違和感満載だったんだよね。なぜ私たちの目標設定にいきなり口を挟んできた? しょせん荷物持ちの分際で。なぜ儀式を受けろと示唆してきた? 人にも神にもなるつもりないくせに。たはーっ。無欲なフリして、とんだ業突く張りじゃないか」


 口調にトゲはあったが、反して笑みは聖母のように穏やかだった。


「お前、自分の願望のために生石君を利用したな?」


 しゃがんで目線の高さを合わせるコンコさん。

 意味がわからなかった。ナナシの願望?


「お前は生石君の優しさに漬け込んだわけだ。こいつは不幸な女がフェチだから、きっとキナにも同情し、哀れに思うだろう」


 喉笛を鷲掴みにされたような、本能的な身震いが走る。見開かれるコンコさんの瞳、そのギラツキは捕食者の嬉々だ。


「本来儀式を終えれば、私たちは先へ進むことができる。キナともそこまでだ。だがお前はそんなこと望んでいない」

 

 意図が見えない。コンコさん何にキレている?


「お前は生石君に、キナを救ってもらいたいんだろ」

 言葉を反芻して、すぐに否定する。


「買い被りすぎや。確かにちょびっと憐れに思ったが、おれにキナを救う甲斐性なんてない。全人類ないやろ」


「わかっていないやつは話しかけてくんなー? 生石てめぇ、私の男みくびんなよ? 君なら必ずキナを救ってみせられる。アレを救う唯一の方法。それは——」


 ドサッ。

 音を立ててナナシが額を地面に擦り付けた。


「無礼なナナシめは好きにしていただいてかまいません。だからどうか、キナ様を殺してあげてください!」


 鬼を救う唯一の方法、それは殺してあげることだけ。


「腹が立つのはソコ! 生石君は私のものなのです。そして彼の優しさにつけ込むのも私のやり方だ。こすい真似すんな。友達なんだぜ? なら初めからハッキリと言えばいいじゃん。『可哀想だから助けてあげて!』って」


「……友達?」

「ナナシ、どうやらおれたちはすでに友達らしい」


 なら、やることは初めから変わらない。


 コンコさんのために父を殺そうと思った。

 次はナナシのためにキナを殺そう。


「ナナシ、おれにキナのことを教えろ。ちゃんと殺せるように。ちゃんとあいつを知りたい」


「ううううう」

 ナナシはギャン泣きし始めた。


「かあい〜」

 コンコさんは悦に浸っていた。

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