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血溜まりチャチャチャ  作者: 海の字
第一章 裏公団編
10/38

10.厨二病のお仕事

 裏公団の夜は深い。月明かりはなく、街灯も皆無なため、真の闇が辺りを支配していた。

 

 宿を取り、お世辞にも綺麗とは言い難い一室のベッドで、ナナシとコンコさんはスヤスヤと眠っている。

 だがおれだけは全神経を逆立てて、その時を待つ。


 チャプ、チャプ、チャプ。


「来た——」


 ドア越しから聞こえてくる、水たまりの上を歩くような微かな足音。消え入るほど小さいが、数人がこちらへ真っ直ぐ向かっていることがわかった。

 

 なぜ部屋の場所を知っている? どうせ店主あたりが金で情報を売ったのだろう。


 昼間つけられていた時点で、こうなることは概ね予想がついていた。

 ダンビラ組は夜間の暴力を禁止していない。つまり寝込みを襲うぶんには何も咎められない。

 力なき忌み子が、無防備な人間を狙うのは理にかなっている。無論危険だが、それだけおれたちの肉に価値があると言うことだろう。


 運が悪かったのは相手がおれだったということ。公団で暮らしていると、あとをつけられたり、監視されたりする経験が増える。おのずと他者の視線にも敏感になる。


 ナナシのときはここへ来たばかりで気が動転していたが、今はしゃんと引き締めた。

 すぐに気づいたおれは対策を講じた。ナナシは先日男の死体を解体したが、そのさい出た血液も使い道があるようで、ポリタンクに入れて保管してあった。


 今回は大胆に活用させてもらった。廊下にまき、事前に血溜まりを作っておいたのだ。足音が際立つ以外にも、油分が多い血液の上では滑りやすくなるだろう。他にもメリットはあるが、今はいい。敵は間も無く到達する。思考をより集中させる。


 扉が開く。先頭の男は懐中電灯を持っていたので、刺すべき場所がよくわかった。


 先日の男から奪った刃物を喉元へ一閃。すぐさま引き抜きもう一度差し込む。確実に死ねるように。けれど後悔の念をしっかりと味わえるように。


「グルガァ!?」

 異変に気づいたのだろう、後列が驚きの声を上げた。だがもう遅い。


 取りこぼされた懐中電灯を蹴り、光を宙に放つ。

「いち、に、さん——」


 照らされた数は4。電灯は敵の反対側を向いたが問題ない。配置は全て覚えた。


 駆け出す。まずは正面。膝下にタックルをいれ、体制を崩す。すかさず脇腹と大腿に刃物を叩き込む。戦場は事前に頭へ叩きこんでおいた。ここの廊下は狭い。乱戦になり得ない。数を用意しようと順繰り殺せば数の利はうまれない。 


 次の敵は鈍器を構えていた。雑に当たるだけで致命傷になりかねない、あまり近づきたくない。


「もういらんか」

 ブンブンと振り回す風切音。そちら目掛けて刃物を投擲する。期待はしていなかったが運良く命中したようだ、呻き声が上がった。


 すかさず駆け寄り、頭を掴んで幾度も壁へ打ち付ける。気を失ったのかダラリと倒れ伏した。あとで〆ればいい。


「なんやおまえ、喧嘩自信あるんか」

「コロス」


 忌み子にしてはかなりの偉丈夫だ。165センチはあるだろう。暗闇でも臆さずおれと向き合っている。


「ステゴロじゃあ!」


 瞬間、頬に強烈なのをもらったが、首を逸らすことで衝撃を和らげる。脇腹に渾身の一振りをカマすも、あちらの体幹は揺るがない。上等。敵の後頭部に両手を回し、引き寄せ、ジャンプと同時に顔面に膝鉄を打ち込む。


「ガァ!?」

 有効打。怯んだところへ袖と襟を掴み、引き寄せ、足を引っ掛け大外刈り——。


「バタンとな!!」

 血の上ではすべりやすく、倒れたところへすかさず腕十字を極める。


「バキリとな!!」

 骨をへし折る。激痛でパニックになっているのだろう、地面を転げ回っている。


「よくできました」

 余裕を持って起き上がり、あたりをつけて首根っこを踏み砕く。

「快感!」

 脊椎が折れたのだろう、動かなくなる。


「さて、最後のは?」

 殿(しんがり)は見るからにチビの意気地なしだった。ナナシと同じ荷物持ちだろう。


 武器もなかったためあまり警戒していなかったが、どうやらおれの暴れっぷりを見て逃げだしたようだ。


 ここにきて血を撒いておいた布石が役に立つ。血は赤く目立つので、単純に足跡が残る。懐中電灯をひろい、先を追うと物陰に潜んでいた。


「アアアア」

 ライトに照らされた相貌は見るからに怯えていた。


「きしょいのお。死ぬ覚悟ないならしょーもないことすんなや」

 眺めていたら殺気も萎えた。


「ええわ、見逃したる。ほんで仲間につたえろ、おれ達を狙うなら容赦なくブチ殺すってな」


 言葉が通じているのかはわからない。チビは震えているばかり。


「早よいね!!」

 叫ぶと脱兎の如く逃げだしていった。

 騒ぎを聞きつけナナシとコンコさんが起きてきたようだ。


「生石さま、これは!?」

「うべぇぇ、二日酔い〜」

 のんきなもんだ。


「ナナシ、そいつらの処理頼むわ。コンコさん、次はあんたが見張りしてくれ。おれはもう疲れた。ちょいと寝るわ」

「わ、わかりました!」

「こいつら売ったら結構な金になるよね。でかした生石くん!」


 早速金勘定を始めるコンコさん。現金なやつ。


「明日はご馳走だね♪」

「やれやれ……」

 人の気苦労も知らないで。


 まぁ、あなたの笑顔を見られただけでプライスレスだ。そのためならなんだってできるし、誰だって殺してやれる。


「痛てて」

 今夜は多少無茶をした。さすがに無傷というわけにはいかなかった。なぜだろう、格好をつけたかったのかもしれない。

 ヒロインが眠っている間に、人知れず全てを終わらせておく仕事人。うん、素敵だ。


 今はこの痛みすらも愛おしかった。

 おやすみなさい。


生石はかなり強いです。ブラジリアン柔術、キッズクラス緑帯相当の実力です。これはアダルトクラスの紫帯に相当します。地元の同世代では負けなしでした。


本人のポテンシャルはもちろんありますが、薬物乱用で追放された元総合格闘技選手(黒帯相当)の半グレに、毎日稽古という名の虐待を受けていたのが大きいです。


複雑な技は扱えませんが、その分実践向けの技術が高いです。そして厨二病です。

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