95.それぞれの日常 04
――― 帝都ザークスランド・冒険者ギルド
「だからな!ユリシアは最強であって最カワなんだ!世界ナンバーワンと言って間違いない!分かるだろ?あの強さも美貌も兼ね備えた彼女には誰であっても敵わないのだ!もうS級冒険者になっていてもおかしくはないんだからな!」
目の前の酔っ払いは先ほどから同じようなことを繰り返している。
「分かったから。俺は朝食を食べに来ただけだ。もう行くからな。いい加減放してくれ!」
「いーやまだ足りれない!お前は彼女と一緒に依頼をこなすのだろう?彼女の魅力をもっと知っておいて損はないだろ?だがこれだけは覚えておけ!彼女に邪な思いを抱くんじゃない!もし彼女に変なことしたら、俺のあらゆる力を駆使して必ずぶっ殺すからなっ!」
目を血走らせた酔っ払いが食事を終えた俺の腕を掴んで離さない。
見かけによらず意外と力が強いが、冒険者崩れという奴だろうか?
「いいか?最重要なことを伝える!彼女に手を出したら天罰が下るだろう!これだけは忘れ―――」
俺に掴みかかる勢いでそう言っていた酔っ払いは、目にもとまらぬ速さでロビーの隅に設置されているソファの陰に隠れてしまった。
「何なんだまったく……」
ため息をついた俺は酔っ払いから早々に逃げ、遠巻きに見ていた仲間達の元へと足を進めた。
「蘭堂、災難だったな」
「くっそ、余計な時間を食っちまった!」
ニヤニヤしながら俺を向かい入れた直樹達の顔を見て少し苛立った。
「蘭堂、待たせたか?」
目の前には先ほど酔っ払いが言っていた女性冒険者ユリシアが立っていた。同じく彼女の仲間の2人もすでに到着していた。
「いや、待ってはいないが少し厄介な酔っ払いに絡まれてさ」
そう言いながら酔っ払いが隠れた場所を見るがその姿は見えない。まだ隠れているのかどこかに逃げたのか。ユリシアを絶対的に崇拝しているようだが、直視ができない程の重症なのだろうか?
「んじゃ、行くか?」
「ああ。今日はよろしく頼む」
「任せとけ!」
俺はそう返し、ユリシア達がギルドを出るのに合わせ後を追った。
王国から帰ってきて1週間と少し経っただろうか?俺は初めて盗賊団の討伐依頼というものを受けることになった。帝都西にある廃坑に住みついてしまった盗賊団の討伐依頼。
数日前の朝、依頼用の掲示板に張り出されたこの依頼を見て、対人などの経験も必要だろうと5人で話し合い受けることにした依頼だ。
依頼内容には廃墟内に貯めこんであるであろうお宝の所有権は討伐者にあるということも記載されており、もしかしたらダンジョン産のレアな魔道具があるかもしれないと思って受けようと思ったのもある。
依頼表を確保した直後に話しかけてきたのが、このユリシアを含む『緋眼の戦士』というBランク冒険者パーティの3人であった。
彼女達は報酬が良い盗賊討伐を数多く受けているということで、今回の依頼も譲ってほしいと話しかけてきた。彼女らが盗賊討伐を行う理由はお金だけではないようだが。
こちらはお金より魔道具目的で良い魔道具があったら譲ってほしいんだ。彼女達にそう提案し、彼女達もそれならと合同で依頼を受けることになった。ベテランのやり方を学ぶためにも良い機会を得ることができた。
俺達はすぐに出発をと思っていたが、準備があるという彼女達からの提案で3日後に出発となった。そして今日がその3日目、いよいよ初めての盗賊団の討伐へ出発となった。
廃坑まで送ってくれるよう手配されているという荷馬車に、俺は少しだけ緊張しながらも乗り込んだ。
「なあ、準備に時間がかかったようだが、後学の為にどのような準備だったか教えてくれるか?」
「ん?ああ、いいぞ」
俺はリーダーでもあるユリシアにそう尋ねると、彼女は固そうなパンをかじりながら説明してくれた。
ユリシアはパーティ名にもなった赤い瞳が魅力的な女性だ。いわゆるビキニアーマーを装備したセクシーなその姿にドキドキしてしまう。身に着けている真っ赤なビキニアーマーは守護の力が働くダンジョン産の装備で、全身の物理防御を大幅に高めてくれるらしい。
クラスは重剣士で魔法はあまり得意ではないようだ。背中には大剣とはいかないまでも大きな剣を背負っている。
他の2人は斥候師と魔術師だという。こちらの2人も綺麗な顔立ちをしていて冒険者界隈ではアイドル的な存在であるらしい。
他のパーティと一緒に依頼をこなすことは滅多にないようで、一緒に依頼を受けると決まった日から、俺達は他の冒険者連中に睨まれたり絡まれたりする事体となっていた。
そんなことを考えながらユリシアが話す準備についての大まかな説明を聞いていた。
装備品の手入れや回復薬、捕縛用魔道具はもちろんのこと、周りの現時点での地形や盗賊団の規模の自身での調査をしていたという。依頼書には30人程度と記載されていたが、実際はもっと多かったりということも多々あるようだ。
俺は「なるほどな」と頷きながら、同行できた幸運に感謝した。俺はどうなろうと構わないしそこらの盗賊なんぞに負ける気はしないが、不測の事態に4人に何かあれば他の奴らに顔向けができない。
俺達はいずれ日本に戻り、それぞれの道を歩まなければならない。治癒魔法があるとはいえ、失った命は戻っては来ないのだから。
俺は脳裏に死んだ仲間を思い出し、思わず顔を歪めてしまった。
「どうした?分からない部分でもあったか?」
「あ、いや大丈夫だ。それで、作戦はどうする?」
俺の顔を覗き込むように見てきたユリシアにそう返す。考えたとところで今更過去は変えられないのだから。
「作戦は、そうだなー、正面からぶっ飛ばす?」
「なんだよそれ」
「いやな?調査の結果、恐らくだが人数は30名程というのは間違いない。それに今は人質はいないようだ。攫われていた女達はつい最近、全員が売りに出されていたことも分かっている。正面突破で何とかなるだろ?お前達も強いようだし」
ユリシアの言葉に改めて俺の考えが甘いのだと感じた。
確かに攫われた人達を盾にされてしまえば、恐らくだが俺達は攻撃を躊躇するだろう。自分の判断により目の前の人の命が奪われるなんてことを想像すらできていなかった。それにしても全員が売られてなんて……
そう思ってまた眉間に力が籠もる。
「安心しろ。すでにその奴隷商は押さえてある。攫った者を奴隷化するのは違法行為だからな。すでに全員の無事を確認しているよ」
心打ちが見透かされたようで恥ずかしくなるが、「そうか」と一声返し安堵する。確かにあの酔っ払いが言っていたように優秀なのだろう。それともこの世界でBランクの冒険者というのはこのぐらいは当たり前なのか?
「んじゃ、今度はそっちの戦い方も教えてくれるか?言える範囲で良いからな?」
「分かった。まずは俺は聖剣士、剣技と共に雷撃での攻撃や回復も使える。それなりに鍛えているつもりなのでそこらの奴らには負けないと思う」
俺の言葉に驚く3人。少しだけホッとした。
――――――
蘭堂勇司 / 人族 / クラス [聖剣士]
力 B / 知 D / 耐 D
<スキル>
[聖なる剣] 剣に聖なる魔力を籠めて邪を払う力
[聖なる一撃] 光のように早い一撃を放つ力
[聖なる外装] 邪を弾く障壁を纏う力
[聖なる癒し] 自身の傷を癒す回復の力
[聖なる捌き] 神の裁きにより悪を断じる力
[聖なる雷] 天から雷を落とす神の力
[聖なる願い] 対象の者の能力を大幅に向上させる力
[聖なる施し] 一時的に他者に対し常時回復を付与する力
――――――
俺は当り障りのない部分を伝える。今の俺は飯田に匹敵する程の力を持っていると思う。もちろん[瞬間移動]などを使われれば厳しいが、常にダンジョンに籠もり剣技も磨いてきた。
試練で得た[聖なる雷][聖なる願い][聖なる施し]の3つのスキルはどれも強力だが、今回は特に必要ないだろうと思っている。
「こっちの直樹は武神。とにかく肉弾戦には強いよ。壁役にもなるし」
「なるほどな。んじゃ、私達を守ってくれるのは直樹君ということで」
「あ、ああ。任せてくれ」
直樹はユリシアの言葉に照れているようだ。
――――――
遠藤直樹 / 人族 / クラス [武神/攻撃力の向上]
力 B / 知 F+ / 耐 D+
<スキル>
[肉体強化] 身体能力を向上させる力
[正拳突き] 強烈な一撃を放つ力
[二段蹴り] 高く飛び振り下ろす蹴りを放つ力
[掌底] 掌に魔力を籠め叩きつける力
[鋼の体] 一次的に耐久力を大幅に引き上げる力
[狂乱の宴] 短時間だが限界を超える力
――――――
直樹は肉弾戦には滅法強い。特に試練で[鋼の体]を得てからはダンジョンでも無双している。[狂乱の宴]については使ったことはに無いが、いざと言う時には起死回生の力となるだろう。
武神にクラスアップしてさらに攻撃力に磨きがかかっているので、肉弾戦なら勝てる気がしない。あっちの世界では同じサッカー部だったし今も昔も頼もしい相棒だ。
俺はユリシアに胸板を触られ戸惑っている直樹を見て笑っていた。
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