84.異世界人と王国の貴族 03
飯田達が50階層の試練に挑んで数分後、通信具から連絡が入る。
『出現したのは黒い騎士が3体、1体は大きいが動きが鈍い。2体は素早いが軽い。特に問題は無いが念のため蘭堂達に行かせて欲しい』
「分かった」
恐らく飯田達には余裕がある相手だったが、念のため蘭堂達で様子を見たいといったところだろう。
「ご指名があったので行くとするか」
「ああ、頼む」
蘭堂達はリラックスした様子で扉をくぐって行く。
それから待つこと数分。問題はなさそうだが一応気を付けてと連絡があり30階層の時と同じメンバーで挑む。
今回も飯田達の報告通りのボスが登場した。
やはり内容が変化する森のダンジョンは特別なのだろう。
動きの速い黒騎士は暗黒騎士、大きな奴は地獄の騎士というようだ。
「土の精霊よ!我が鉄壁により鋼の如き強さで身を守る鎧として力の片鱗を見せてくれ!」
教官から提供された書を片手に、必死で知恵を絞り考えた詠唱を高らかに叫ぶ。ちょっと恥ずかしいい。
俺と杉浦さん達の周りに白く輝く網状の鎧が体から数センチ離れた距離でまとわりつく。動きに合わせて動く優れものだ。多少の攻撃ならはじき返すが、攻撃を受けるのはかなり怖いのでなるべく避けたいものだ。
そんなことを考えている間に4人は攻撃を始めている。
池田さんは[強制執行]を使い黒騎士達の動きを鈍らせる。杉浦さんは[魔矢]を使い確実にダメージを負わせている。河野さんは[連撃]や[一閃]を使い暗黒騎士の1体を撃破する。
奥に控えていた地獄の騎士には古川さんが[魔力砲]を叩きつけ粉砕していた。
3人の攻撃をすり抜け、池田さんの号令にも負けず接近してきた暗黒騎士の剣を追加で生成した鉄壁の盾で受け止める。
動きはかなり早いのだが、飯田達と訓練している成果もありなんとか受け流すことができていた。鋼の鉄壁を纏っている安心感もあってか冷静に体が動く。多分だがそれが無ければ恐怖で動けていないかもしれない。
「止まれよバカー!」
「煌めきの一閃!」
「ぶちかませ!」
俺が攻撃を弾き返した暗黒騎士を、池田さんが[強制執行]で動きを鈍らせ、河野さんの[一閃]と杉浦さんの[魔矢]で倒し切る。その体はいつものように塵となって消えた。
「はー緊張した……」
「勝基君、怪我ない?」
「ああ、大丈夫だ。ありがとう」
緊張が解け座り込む俺に池田さんが駆け寄り気遣ってくれる。池田さんには情けない姿ばかり見られている気がする。だがそれは池田さんにだけではないが。男として威厳を保ちたいところだが。
「みんな待ってるだろうし、早く出よう?」
「そうそう」
杉浦さん達にそう言われ、出現した出口を見る。
「やった!剣ドロップしてる!」
ドロップ品の回収をしていた古川さんの喜ぶ声を聞き俺も立ち上がる。
「黒剣?」
「ああ、そのようだな」
簡易鑑定持ちの池田さんが呟く通り、ドロップしたのは黒い剣、黒剣という名の真っ黒な長剣であった。
「攻撃力はA判定、魔力融合率の高い魔剣……魔剣ゲットだぜ?」
俺は黒剣を受け取り[偵察]で確認すると、かなり良い剣がドロップしたことに驚きつつその剣を河野さんに渡す。
「いいの?」
「とりあえずな。飯田とも話し合うが、ドロップしたのは俺らだしな」
「やった!」
剣を掲げ喜ぶ河野さん。他の3人も異論はなさそうだ。
俺達が扉を抜け部屋へと出ると、待ち構えていた未波やフランが俺に心配の声をかける。相変わらずの心配性だ。
その後、全員が無事クリアできたことに安堵する。
城へと戻る時にはチラホラと新たに得たスキルについて話を聞いていた。さすが50階層の試練、かなり便利なスキルを得たようだ。未波達にスキルの事を聞かれたが、俺はまだ見ないと行って部屋まで戻った。夕食後には教えると約束させられたが。
部屋に鍵をかけ深呼吸をした後ステータスを開く。
――――――
佐田勝基 / 人族 / クラス [自宅警備員] 範囲内スキル向上
力 D+ / 知 E+ / 耐 F+
<スキル>
[拠点防衛] 自分の陣地を認識しその範囲を防衛拠点とする力
[偵察] 人知れず相手のステータスを確認する力
[城壁] 拠点内に石造りの壁を作り出す力
[鼓舞] 味方の能力を引き上げる力
[強制退去] 突風により敵対者を陣地から退ける力
[防壁] 目の前に鉄の壁を出現させる力
[格納庫] 物を大量に保管する空間を所持する力
[肉体改造] 一時的に力を倍増させる力※反動あり
――――――
「肉体改造?」
俺は目の前に開かれたステータスに追加された新たなスキルを見つめる。
反動あり?これは……一度使ってみなくてはならないな。夕食まではまだ時間があるし、検証しておく必要があるだろう。そう思ってスキルを発動させる。
[強制退去]に継ぐ直接攻撃の手段が手に入ったのだ。いざと言う時の為に有用なスキルは使いこなせるようになっておきたい。
俺は[格納庫]に収納しておいた森で得た魔物素材を取り出してみる。
木材とアラクネ糸で作った台座ごと取り出したのは、大量の鹿肉の塊である。どのぐらいの重さかは分からないが普通ならとても持ち上げれそうにはない。
……が、両手に力を籠めると限界ギリギリではあるが、なんとか浮かす程度には持ち上げることができてしまった。
「後は、持続時間か……」
歯を食いしばりながら腕に力を入れ足を踏ん張ってキープする。地味につらい……腰にくる姿勢を続ける俺は、ぎっくり腰とかになったら治癒は効くのだろうか?など余計なことを考えていた。
部屋の時計に目を向けつつキープすること5分程。腕がぷるぷるしているがまだいけそうだ。そう思っていた矢先、急に力が抜け大きな音と共に台座が落ちる。俺はそのまま前に倒れ込みそうになるのを堪え横に転がった。
全身動かなくなった俺は、まずはと鹿肉を収納する。
だるい……死ぬほどだるい。
俺は寝ころんだまま時間が経過するのを待った。
1分程経過したところでドタドタと音がしてドアの方からノックの音が聞こえた。視線を向けることも返事を返すことも出来ずにいる。
「勝基君?大丈夫?凄い音がしたけど?」
「勝基様ー?開けてくださいませ!お手が離せないということであれば勝手に開けさせていただきましてよ?」
未波とフランの言葉を聞き、開けるなら早く開けてくれと心の中で叫んだ。
数分後、ガチャリという音と共にドアが開いたようで、何人かが部屋になだれ込んできたであろう音が聞こえた。
「か、勝基様!」
「勝基君!」
俺は駆け寄ってきた2人により体を起こされたが、まだ体は動きそうにない。
未波からは暖かな治癒の光が注がれ、フランは俺の口には治癒薬と思われる小瓶を押し付けていた。だがその小瓶から出てくる薬液は俺の口からダバダバと零れてしまう。
「これは……口移しかありませんわね!」
決意した様子のフランが小瓶に口をつけ頬を膨らませる。
「や、やめ、ろー!」
間一髪で声を出すことのできた俺は、少しだけ体が動くことを確認して迫ってきていたフランの肩を掴み、背後から羽交い絞めしていた未波ごと突き飛ばし……と思ったがそのまま上にのしかかられてしまった。
俺は2人にのしかかられながらもなんとか頭を上げ時計を確認する。
時間は3分程度経過していた。
俺は回らない口でなんとか現状を説明する。
スキルの反動で動けなくなっているがすぐに治ること、そっとしておいてほしいことを。
そんな俺を執事的なイケオジが横抱きにしてベッドへと運んでくれた。初めてのお姫様抱っこである。すでに室内には飯田達も駆けつけてこちらを見ているので恥ずかしくてたまらないのだが、俺の手はまだ顔を覆い隠すほど動いてくれない。
イケオジ執事は布団を俺に優しくかけると、天蓋カーテンで俺を隠してくれた。俺はそれに感動しながら感謝するが、その天蓋カーテンはフランにより開けられてしまう。
「フラン、お前な……」
そんなことを言っては見たものの、背後から未波も顔を出しベッドわきに待機して俺を見ているので、何を言ってもダメなのだろうと観念し目を閉じた。
お大事にと言って出ていった飯田達の気配を感じながら、只々体が正常に動くのを確認できたのは20分程度後の事だった。
5分間驚異的な力を得た後は20分程度の反動時間があることは分かった。
後は実際に詠唱を使った場合や発動後に何もしなかった場合など、検証しなくてはいけないこともあったが、まずは今晩発動後に何もしなかった場合を試そうと思い夕食までの時間を寝て過ごす俺だった。
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