76.ワイドラゴ王国の事情 01
「我が国最大のダンジョンのことだけど―――」
そう言って話し始めたマイケイル。
現在、ワイドラゴ王国のダンジョンは急速に成長をしていうるようで、ダンジョン内の魔物達の数が増えているという。
帝国のダンジョンの試練が無くなったことにより、試練目的の冒険者は軒並み王国に流れてしまったが、最近は難易度が上がった影響から帝国に戻る冒険者も多いという。
30階層の試練を終えてしまえば50階層は無理、そんな冒険者達が難易度が低く安定して稼げる帝国のダンジョンの方が良いと感じ、帝国に帰ってしまっているらしい。
その為、一時は右肩上がりだった冒険者の数も徐々に固定化され、反面ダンジョンの魔物は増え続けているという。このままいけば魔物があふれる、いわゆるスタンピードと言われる事態になりうると。
そこで王国では強い冒険者には褒章を与え魔物をより多く狩るように政策を打ち出していたが、あのアホな国王はそれに積極的ではなく、金の無駄と予算を出し渋っていて成果はあまり出ていないそうだ。
その為、マイケイル自身が有能な冒険者をスカウトする為、帝国で冒険者の品定めをしていたのだとか。前途有望と思われる俺達の情報もしっかりと集めているようで、時機を見て王国に招待したかったと。
「ある程度魔物を狩りつくせば数百年単位で落ち着くと思うんだ。できれば50階層を超えるぐらいまで狩りつくしてくれるとこちらとしても助かる。どうだい?愚弟のように強制はしないが報酬は弾むよ?」
その話を聞き、確かにスタンピードが一度発生したら他国にまで影響があるのは異世界あるあるだ。と思ったが、魔物達は本当にダンジョンを出れるのだろうか?ルリ達だって外に出れなかったのに。
「一つ質問。実はルリ達はあの森を出ることはできないんだ。あの森自体がダンジョン扱いなんだと思っている。ルリですらダンジョンを出ることが叶わないんだ。本当にダンジョンから魔物が溢れることはありえるのか?」
俺の問いに飯田達も「確かに」と相槌を打つ。
「過去に何度か同じようにダンジョンから魔物があふれた事例があるんだよ。その時は小さなダンジョンだったから近隣の村が滅んだだけで済んだ……だが、今まであの規模のダンジョンがあふれたことは無いんだよ。
だからこそ、今の魔物が増え続けている現状を危険視してしまうんだ。慎重に対策を行った結果何事もなかったのなら良いさ?でも、万が一にも魔物があふれ出てしまえば、外に出た魔物達は狂暴化して街を目指すという言い伝えもある。
だから、多分大丈夫だろ?という楽観的な考えは危険だと思わないかい?」
真剣な表情のマイケイルの言葉に、こちらは何も言い返すことができず押し黙ってしまう。
「私も話に加わっていい?」
背後からそう言ってきたのは岸本さんは、フランから発言を許可され話し始める。
「私も、過去の魔物の氾濫の伝承は読んだよ。帝国の北のダンジョン、その時は25階層までのダンジョンがやっぱり魔物が増え続け、魔物が溢れちゃって3つの村が被害にあったって書いてあった。
その時は最下層のゴブリンやスモールウルフですら狂暴化して、兵士達もかなり苦戦して撤退して村の人達も避難することになったって書いてあった」
そんな話をする岸本さんに、フランはそっと近づき両手で肩を掴む。
「由美ちゃん、ちなみにそれはどこで?」
フランはやさしくそう聞くが、岸本さんは「あっ」と声を上げぷるぷる震え黙ってしまった。
「書庫の奥。禁書室ですわよね?」
「た、多分そう?奥に隠し扉が有って、その、封印されてたから?ちょーとだけ弄ったら開いちゃってさ?」
岸本さん何やってんの?と思いながら見ていると、彼女の顔から汗が流れ落ちる。
「今度から、ちゃんと許可を取って下さいね?由美ちゃんなら許可致しますから」
「うん。ありがとうフランちゃん」
安堵した表情でそう返す岸本さんだが、逆に宰相は頭を抱え侍女達に何やら指示を出しているようだ。
「では、確かにその可能性はあるということですわね。勝基様、私からもお願いいたしますわ。王国で魔物の討伐をお願いできますでしょうか?」
俺はその話を快諾した。
その後、俺が行くなら未波も、ならば飯田達も同行すると言い出したので、まさにマイケイルの言っていた通りになってしまう。
「ならば私も同行いたしますわ!」
フランがそう言い出したので宰相がまた大慌てでフランに詰め寄った。
「なりませぬ!この大事な時期に皇帝陛下が国を開けるなど!許されることではございませぬ!」
宰相ニコラウスは必死にそう言うが、俺は多分もうこのフランを止めるのは無理なんだろうと思っている。
「飯田様達が城にいらっしゃらないのであれば、どなたが私を守って下さるの?ニコラウスが身を挺して守って下さるのかしら?」
「そ、そんな御無体なことを、第一飯田様達がいらっしゃらなくとも横井様達がおられるではありませぬか!」
「あら、飯田様達が行かれるですのよ?なら、当然横井様達も御一緒したいと言い出すはずですわ?飯田様、そうですわよね?」
ニコラウスはフランに話を振られた飯田を助けを懇願するように見ている。
「いや、横井達を残しておけば―――」
「王国のダンジョンですわよ?横井様達だって行ってみたいと思っているのではなくて?」
「いやそんなはずは―――」
「それに恵梨香ちゃん達だって行きたがりますわ!そうなれば横井様だって行きたいと言いますわよね?」
「ですが……」
反論したい飯田だが、いつになく鼻息を荒くしているフランに気圧されているようだ。
「俺は、負けない!負けるわけにはいかない!……フランソワーズ様は大切な御身!それを危険なダンジョンへだなんて―――」
「未波もそう思いますわよね?みんなで行った方が安全ですし、その為には私も同行した方が良いですわよね?」
飯田の説得を一時諦めたフランはその言葉を遮るように未波に矛先を変えた。
「た、たしかに?人数が多い方が安全かも?それに30階層まで行ければまた試練があるんでしょ?スキルはいくらあっても良くない?」
「それですわ!今後の身を守る手段を得るため、私も新たなスキルを得なくてはなりませんわ!」
閃いた感じでそう言うフラン。フフンと得意気な表情を浮かべ、飯田達を再度説得し始めた。
そんな自信満々な表情をするようになったフランに、俺も思わず嬉しくなってしまう。フランにはもっと強くなって欲しいなと思った。ならば全力で俺も支えよう。その時は本当にそう思っていたんだ。
その後、未波の言葉に絆された飯田もフランの提案に折れ、フランも俺達と一緒にワイドラゴ王国へと同行することになった。
俺の意思も確認されぬまま今後の予定が決められてしまう。
対外的には強固な同盟関係を無図ぐための表敬訪問といった形になるようだ。気付けば1週間後には転移門を使って王国へ移動することも決まった。慌ただしい日々はまだ暫く続くようだ。
これが終われば森でゆっくりできる。そう信じて王国へと旅立つ準備を始めた。
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