07.集団転移と帝国の思想 03
皇帝の合図で私の元へ近づく男性。
「これは護符の指輪です。勇者様にもお使い頂いています。いざと言う時には魔物から身を守ると言われています」
そう言って渡されたのは、黒い石が嵌っている指輪であった。
私は何となく躊躇しながらも指に嵌めようとする。
「ダメよ!」
そう言いながら私から指輪を奪ったのは浅野さんだった。
「浩平と一緒の指輪なんてあんたには似合わないわ!」
即座に左手の薬指に嵌める浅野さん。
満足そうに手を上に翳し指輪をうっとりと眺めた後、私に得意気な表情を見せる。
浅野さんは少しやんちゃな女子達が集まってグループを作っていて、浅野さん自身も元から派手な感じだ。今も長い金髪にこの世界のお化粧にも慣れたのか、やんわりメイクをしていた。
今はグループの人達も含めて全員が飯田君達のグループの親衛隊のようになっているみたい。浅野さん自身は元々浜崎君と付き合ってたって話があったけど、どうなったんだろう?
浜崎君達のグループは飯田君達とは喧嘩腰で話しているのを何度か見かけてるけど、そう言うこともあってなのかな?
私がそんなことを考えている間も、指輪を持って来ていた男性は戸惑いながら皇帝の顔色を窺っている様だ。
「お前は、魔眼術士であったな……珍しいクラスでもあるし、まあ良いだろう。お前が着けておれ。では、もう良いか?私も忙しいのでな」
面倒くさそうにそう言って立ち上がった皇帝は、護衛と侍女を引き連れ部屋を出ていった。
「見て浩平!ペアリングよ!」
「それは志田さんに贈られたものだぞ!外して志田さんに渡すんだ!」
「い、嫌よ!」
「お前……殺すぞ!」
また飯田君が怖い顔をしている。
その圧力に負け、悔しそうに指輪を外そうとする浅野さんだったが、どうやら抜けないようだった。
「やっぱりか……それ、一度嵌めると抜けないのは俺のと一緒か。いっそ指を切り落とすか?」
飯田君の言葉に顔を引きつらせ後ずさる浅野さん。
「ま、待って!私は大丈夫だから。安全にダンジョンに入る。だからそれは必要ないよ。それに、私って後方支援でしょ?だから浅野さんの方がふさわしいと思うよ!」
一気にそう言うと、飯田君は渋々納得したようだ。
そんな飯田君達が、私達の護衛を務めると言ってくれたが、それに対しても残っていた兵士達から冷たい視線が向けられたので断った。
当然ながら浅野さんにはすごく睨まれた。
「志田さん、俺はもう10階層までは一人で潜れるようになった。志田さんや他の子達にも怪我をさせるようなことは絶対にない!任せてほしい!」
「飯田君は勇者なんだよ?私達に構ってる時間を自分の為に使って!」
「だが……」
再び断る私。そんな私をいつまで睨んでいる浅野さん。
早く部屋に戻って昼寝したい……
結局は私が断固拒否した為、私達は5人でダンジョンに入ることになる。
その日の内に城の武器庫で最低限の胸当てや、軽く細い剣を準備してもらった。嫌そうに付き添っていた兵士も、これで十分だと言っていたので、5人が同じような装備を選択していた。
こうして、護衛を押し付けられた4名の兵士達のやや冷たい視線を背に受けながら、私達は翌日からダンジョンへ入り、力を上げるため奮闘することになった。
帝都のダンジョン1階。
はじめは兵士の1人が無言で奥まで走っていくと、戻ってきた時には緑色の小さな人のような見た目の生き物?人間?よく分からないけどそれを左右に抱え引きずってきた。
「これがゴブリンだ。魔物の中でも雑魚中の雑魚だ。まずはここを剣で突け」
もう1人の兵士が苦しそうに藻掻いているゴブリンという魔物のおでこをトントンと指で突いていた。
「これを……」
私はゴクリと喉を鳴らし頬に汗が流れ得るのを感じて動けなかったが、他の4人も同じように動き出すことはしていない。
「早くやれ!」
そんな声に押されるように私は剣を抜いた。
「じゃ、じゃあ私も」
ようやく絞り出した声でそう言うのは愛理だった。
「こ、ここですね……うっ、ごめんなさい!」
そう言って右手に力を籠めると、あまり抵抗なく剣先がゴブリンの頭を貫いていた。
思わずみんなのそばを離れると地面に両手をついて胃の中身を吐き出した。刺した瞬間のゴブリンの呻き声が脳内に何度も聞こえてくる。私は、このままこの世界で生きていけるのだろうか?
そんな心配をしている間に、愛理も悲鳴を上げなからもゴブリンを倒したようだ。
それを横目に見ながら、私の中に何か流れ込むようなものを感じる。不思議な感覚を口の中の酸っぱさと共に感じた私を他所に、他の兵士達も続々と魔物を捕獲しては私たちの前に差し出している。
ゴブリンの他にはスモールウルフという小さな狼の魔物や、角兎という魔物もいた。結局ゴブリン以外はあまり嫌悪感が無く狩れていたのは、やはり人型という見た目の問題かもしれない。
そんな戦いを何度も繰り返すうちに、多少の慣れを感じてしまう。きっとこうやって心が死んでゆくのだろう。
あっという間に私達は帰る時間となったようで、兵士達の指示によりダンジョンから地上へ出た。
そのまま部屋に戻るとみんなでお風呂に入り、私達はいつの間にか抱き合って泣いていた。
暫くお風呂の中で互いを励ましあった後、部屋着に着替えて運ばれてきた食事を食べ始める。
片手間で確認したステータスには、[治癒]と[浄化]というスキルが増えていた。
――――――
志田未波 / 人族 / クラス [聖女]
力 G / 知 C / 耐 G
<スキル>
[結界] 自身の指定した範囲で耐物耐魔の結界を作り出す力
[治癒] 癒しの力で傷を回復させる力
[浄化] 解毒効果のある光を放つ力
――――――
能力に変化はなかったけれど、今日は午後ぐらいにはもう力や体力も上がっていた気がする。それは、訓練場で運動していた時とは比べ物にならない程に……
こうして少しずつ強くなれば、いつかこの国の人達にも認められるかな?
そう思いながらも、他の4人の疲れた顔を見て不安だけが募っていった。
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