71.皇帝陛下就任式 02
俺は気まずさにみんなの顔色を窺っている。
早く何か反応が欲しい。
俺は覗き魔とかそんな奴じゃないんだと言い訳しようかとも思ったが、言うだけ藪蛇になりそうだったので黙って見守っていた。
「勝基君は何時そんな話を聞いたのか?はっきり言った方が良いと思うけど?」
加藤さんにそう言われ、言い訳を諦めた俺は話しを続ける。
「結構前だけど、散歩帰りにフランと未波が立ち話してるのが見えて、少しだけその話が聞こえてきたんだよ。未波がその時に話してたのが、飯田の事を好きなんだと思うって言ってたんだよ。
それと、俺のことは好きじゃないって、そう未波が話をしてたから、その時から俺は未波が幸せになってくれるようにって。これ以上未波の手を煩わせないように頑張って強くなろうと、そう思って……」
それを聞いて2人は首を傾げている。
「勝基君こう言ってるけど。2人は覚えてないの?」
「うーん、全く?」
「私もですわ……未波が飯田様を好きだなんて話……あっ!」
何かを思い出したのか、フランはソファから立ち上がると未波の手を引き部屋の隅に移動する。そこに加藤さん達も集まり何やら話している。
途中、未波が真っ赤な顔で俺を睨むので、やっぱり人の恋バナを盗み聞きしていたことに怒っているのだろう。そう思って今後の展開に恐怖を感じつつ待っていた。
暫く話をしていた女性陣は、ゆっくりと元の場所へと戻ってゆく。
未波とフランはソファの近くに立ったまま俺を見ている。
「あの、勝基様はどこまで話を聞かれたのでしょう?」
「え、いや、未波が俺を嫌いだということが分かったから……そのまま部屋に戻って、後は聞いていないぞ?ホントだぞ?」
その言葉に未波はホッとした様子だ。
周りから「あー」という落胆の声も聞こえてきたが、目の前の未波はフランに何かを求めるように肘でフランの脇腹を小突いていた。
「勝基様、未波はあの時、未波から見て、飯田様が、未波をどう思っているか?を聞いていたのですよ?」
「未波から見て?」
「ええそうですわ。飯田様が未波に好意を持たれていらっしゃることは明白です。ですが、それを未波自身が認識していらっしゃるのかと。それと同様に、未波から見て、勝基様は、未波をどう思っていると感じているのかと、あの時私はそれを確認をしていたのですわ!」
「ん?」
俺は言われたことがすぐには理解できず首を傾げる。
「あー、つまりは、未波は、飯田が未波の事を好きだってことを感じてるかって話?」
「そうですわ!」
「そして、俺は未波を好きじゃないって、未波自身はそう感じていたって話?」
「そう!そうですわ!そもそも、その後の会話を聞いていらっしゃったらそんな勘違いは―――」
最後は未波に口を塞がれ藻掻くフラン。
「全部俺の勘違いだった、ってこと?」
「そうだよ!私は飯田君のことこれっぽっちも思ってない!あと、勝基君のことは嫌ってないし、その、う……あ……」
未波は何かを言いたそうだったが、俺は嫌われていなかったことに安堵してソファに深く腰掛け上を向いた。
気まずい空気が漂う中、部屋ドアが開かれる。
「皆様、来賓の出迎えのお時間が近づいてまいりました。御準備をお願いいたします」
そんな言葉と共に侍女が頭を下げている。
その背後には飯田達が立っている。
「じ、時間だな。じゃあみんな、行こうか?」
俺はそう言いながら、逃げ出すように部屋を出た。
部屋にいたのは短時間ではあったが 俺の勘違いは正され心の中のモヤが晴れた気がする。
「勝基様!置いていくなんて酷いですわっ!」
「おわっ!」
フランに腕を引かれバランスを崩しそうになる。
「勝基様、未波の事は大事だとおっしゃってましたが、私の事はどう思っておられるのですか?」
フランが耳元でそう囁くので戸惑ってしまう。
「フラン、大事な式の前だろ?俺なんて揶揄ってないで出迎え準備しなくていいのか?」
「揶揄ってなどいませんわ!私は本気でお慕い―――」
「フランソワーズ様、お時間が迫っております!お急ぎを」
俺の反論にフランが俺を強く抱きしめそう言うが、事務官の女性にそう言わ頬を拭くらませるフランは、「後でしっかりお話しますね!」と言って俺から離れ先を急ぐ。
暫く案内に従い歩くと、分厚い扉が設置されている部屋にたどり着く。
開いているドアは50センチほどはあるだろう厚みがあった。
外から見えるその部屋の中は広い空間で、部屋の中央には魔法陣っぽいのが金のラインで薄っすら描かれている。これが転移陣という奴なのだろう。侍女が1人しゃがんでその陣に魔石をはめ込む作業をしているのが見えた。
部屋まで一緒に部屋にやってきたのは新しく宰相となったニコラウス・ゲイルランドという男と侍女が2人、大臣の男が2人、事務官という女性が3名であった。
入室を許可されたのはフランはもちろんの事、俺と未波、宰相ニコラウス、事務官の女性一人のみであった。
中に入ると先ほど作業をしていた女性の他には誰もいないようで、その女性もすでに退室している。そして落ち着く間もなく事務官の女性がフランにまもなく時間であることを告げていた。
本当にギリギリだったようだ。
「それでは、お相手の準備も整いましたようなので、召喚陣を起動いたします」
「ええ、私達も準備はよろしくてよ!」
先ほどの女性が通信用の魔道具でやり取りした後、部屋の隅の装置を操作する。
暫くすると魔法陣にはめ込まれていた魔石が光り、そこから金のラインが光り輝いている。強い光を放ちそれが治まった時、陣の中には十数名程の男女が立っている光景に感動する。
立っている者達を眺めるが、中央に立つ一際目立つ装飾をゴテゴテさせている男、おそらくこいつが国王という奴なのだろうと感じた。
「ようこそおいで下さいました」
予想通りそう言ってニコラウスが頭を下げたのは。その国王と思われる男にであった。
「うむ。突然の事に面倒ではあったが招かれてやったぞ。帝国の者達よ、ありがたく思うことだな!」
そう言って胸を張る小太りの男には嫌悪感しか湧かなかった。
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※森の中での未波とフランの会話の詳細は [ 43.修行の合間に。未波とフラン ] でどうぞ。




