67.帝国との戦いとその後で 01
戦いも終わり、結局はフランの皇帝就任については保留となった。
フラン本人がまだ決断できないとのこと。
俺が一緒にいてくれるなら即引き受けるとのことだったが、それはさすがにと遠慮した。
フランの身の安全については飯田が残ることで解決した。石川達も飯田と一緒に護衛として城に残ると言ってくれたので、俺としても安心して森へと帰ることができると胸を撫で下ろす。
「志田さん、志田さんさえ良ければ俺達と一緒に城に……」
「えっ?……フランのことは心配だけど、私は森に戻るよ」
「そう、か……」
未波に断られ悲しげな顔でこちらをチラ見する飯田。
もしや俺に助け舟を?
「未波、お前は良いのか?飯田と一緒に城に残っても良いんだぞ?」
「え、何て?」
未波の気持ちを知っている俺は、チクリと痛む胸を押さえながらそう言うと、未波が冷たい目で俺を睨んでくる。
「いや、だってほら……俺はもう1人でも大丈夫なんだし、未波が世話を焼く必要はないんだぞ?だから安心して……」
未波が苛立ちを隠さずこちらにじりじりと詰め寄ってくる。
そんなに苛立つなら飯田のところに行けばよいのに。我慢して俺のそばにいる必要はないんだ。
「未波」
加藤さんが間に入って未波を宥めている。そして加藤さんや他の女性陣にも睨まれる俺。意味がわらず戸惑ってしまう。
「とにかく!私は森に帰るので飯田君達はフランの事をよろしくね!じゃあ、帰るよ勝基君!」
「え、あ、おお」
そして不機嫌そうに部屋を出て行く未波の後を追う俺と加藤さん達。
「佐田、俺達は森には帰らないことにしたから」
途中蘭堂達に呼び止められる。
話を聞くと、蘭堂達は街で冒険者として暮らしていくようだ。
横井と不和さんのグループも同じように冒険者として異世界を楽しみたいとのこと。杉浦さん達は飯田親衛隊として城に残るようだが、池田さんだけは何やらこちらに視線を向け挙動不審な様子だ。
「あの、さ。私は森に、佐田が良かったらなんだけど?一緒にいたいなって?あ、ほら!千佳ちゃんのご飯、ベリうまだったっしょ?だから佐田がオッケーしてくれたら私もーって……どう?」
そう言う池田さんは顔を赤くしてうつむいている。
確かに野村さんの作る飯はやばい。例え未波に愛想をつかれても野村さんがいてくれればそこは天国……いや、彼氏でもない俺がそう言うのはかなり気持ちが悪いな。そう思って心の中で野村さんに謝罪する。
彼女はあくまでも未波がいるからいてくれえるだけだ。だからいずれは……そう思うと悲しくなってくるが、疲労もあり今は何も考えたくなかった。
やや妄想を脱線させた俺だが、そう考えると池田さんの目的はズバリご飯だという事も理解できた。そして、池田さんもそれを俺に伝えるのはやはり女子として恥ずかしいのだろう。
「野村さんのご飯は確かにやばいからな。未波達もいるし、来たいなら別に構わないよ。そもそもあの森は俺のものってわけじゃないし……」
本当は一人になりたい気持ちもあるが、未波達もいる時点で今更だなと思ってそう返す。池田さんは嬉しそうに顔を上げ俺の手を握りブンブンとふってくる。
「わ、ちょ!」
柔らかいその手に思わずドキドキしながらも、池田さん越しに離れた位置からこちらをジッと見ていた未波と目が合ってしまい、俺は慌てて手をひっこめた。
帰り道、加藤さんからは何気に尻を蹴られるが、きっと調子に乗るなという事なのだろう。だが今回の事は俺が悪いってわけじゃないのでは?と首をひねる。
やっぱり一人で自由気儘に堕落した生活を送りたいな。
そう思ってため息をついた。
◆◇◆◇◆
私はついにやってきた。
夢にまで見た異世界だ。
[物理召喚]によりこちらにやってきた私は、周りに建ち並ぶ巨大な建物に慄いた。いったどんな力を使えばこんな巨大な建物を量産できるのか?
とはいえ、勇者から聞いたと言われる伝承ではこちらの世界の人々はなんらスキルは持たず、力も弱いのだという。そんな世界でならば、私が覇権を握るのも容易いだろう。勇者もすでに死んでいるだろうし。
そう思うと自然と頬が緩んでしまう。
「何あのおっさん、きっしょ」
「中年コスプレおじさん?」
私を見て何かを言っている女達。意味は分からないが侮蔑されているのだと感じ怒りが込み上げる。
「てかあれじゃね?どっかにカメラあるんじゃね?」
「テレビ?マジ?」
そばにいた男がそんなことを言ってキョロキョロと周りを見ている。
まあ良い。細かいことを気にする必要はないのだ。私は今からこの国の、いやこの世界の王となるのだから。
私は煩い奴らに向け右手を翳し、真空の刃を生み出し……
「なぜだ?」
魔力を籠めようとした私の意に反し、魔法は発動しなかった。
「魔力の存在しない世界、か……」
勇者の言葉として言い伝えられている言葉を思い出す。
だから何だというのだ。この世界の人間は戦いを好まず、ほとんどの者達は戦闘経験が無いとも聞いている。私の力をもってすれが、スキルなんぞ使わなくとも世界を牛耳るのは容易いだろう。
「なんだこのおっさん、その手、何がしたいんだ?」
その声に顔を上げれば、ブラウンの長髪男が私に近づいてくる。
私は腰の剣を抜きその不敬な輩の体を真っ二つに切り裂いた。
周りからは悲鳴が聞こえ改めて見渡すと、数えきれないほどの人間が右往左往して逃げ回っている。一部の者はあのスマホと呼ばれる魔道具と思わしき小さな板を持ち、こちらに構えている。
あれが何かは分からないが、さほど警戒する必要はないだろう。
それよりも、改めて見たこの場が帝都のような栄えた街の一角なのだと思えた。ざっと見まわしただけでも帝都にも勝るとも劣らない人の数。私は思わず気持ちを高揚させた。
まずはこの街を我が手中にしよう。
そう思って声を張り上げる。
「我は異界の王!マルドーク・デ・ウイストザーク!我にひれ伏すのであれば臣下に加えてやろう!だが、抗うというならその命、私が全て刈り取ってくれるわ!うわはははは!」
私は高ぶる気持ちを抑えきれず大声で笑った。
そしてまた一人。
この私に震える手で短刀を向け近づいてくる男の命を刈り取ると、周りの人の波に向け宣言した。
「逆らうものは切る!さあ、私に跪くが良い!」
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