66.皇帝の置き土産 02
凡そ30分。
俺達が落ち着く為に使った時間だ。
どうしてもオールフレンドアターック!が頭の中で繰り返され、堪えきれず誰かが噴き出すと連鎖的に笑いが広がっている。
石川達が笑っている理由を飯田に説明していたし、それで戸惑う飯田もさらに面白くて……
俺達がやっと慣れた頃、扉からこちらを覗く男達を発見する。
そこにいたはずの藍川の姿が見えないことに気付き、周りを確認するとあの助っ人の3人もいなくなっていた。
「あの……勇者様方……」
恐る恐るという感じで腰を引かせ聞いてきた1人の男性。
飯田達からこの国の宰相を務めるグレゴリ・サザビースという男だと紹介された。なぜ俺に?と思ったが今確認すると藪蛇になりそうな予感がしたので黙って聞いていた。
「ならば、陛下が病に倒れたことにでもしてですね?皇太子様に即位を頂き、国民に安心をもたらせねばなりませんね!」
そういう宰相グレゴリに、飯田達はあからさまに嫌そうな顔をする。
「皇太子って言ったら、あの皇太子だよな?」
「他にいないだろ?」
「じゃあ、仕方ないのか?」
「仕方ないんだろうな?」
「うーん、まあ俺達には関係ないか?」
そんな話をする飯田達。
「なあ、その皇太子ってやつ?今この場には来てないんだよな?いわゆる公務とか何かで不在なのか?」
俺の問いにグレゴリが顔を強張らせる。
「まさか、逃げたとか?」
「いえそのようなことは―――」
言葉を選びながら話始めたグレゴリ。
なんでも皇太子とやらは病気の為、現在や療養中なのだとか。だが回復されるまでは自分が宰相として責任持って国を動かすと、より強く、民の幸福のため働くと語るグレゴリ。
私に任せれば何もかも安泰、お任せください!と胸を叩いて笑顔を見せているが……
「皇太子が寝込んでいるって言うが、未波に見せた方が良いんじゃないか?」
俺の言葉に動きを止めるグレゴリは、あの、その、と様子がおかしい。
「私の治癒で治るかわからないけど、治るかどうか試すのもありじゃない?」
「そうだよ。皇帝になるんでしょ?病気で死んじゃったらどうするの?」
未波も加藤さんもそう言って宰相に言葉を投げかける。
「それはそうですが……」
「おい、はっきりしろよ!」
「ひぃ!」
宰相の様子に石川が苛立つ様子で詰め寄った。
結局、皇太子が静養しているという部屋まで案内された。あまり多人数で行くのもということで俺と未波、加藤さんと飯田、フランの5人で向かった。
「ちょ、ちょっとだけお待ちを!」
部屋の前でそういうグレゴリだったが、それを押しのけ部屋のドアを開けたのは石川だった。グレゴリは「勇者様お待ちを!さすがにそれは不敬ですぞ!」などと言っているが、俺達も気にしない様子でそれに続く。
そして、目の前の光景に頭を抱える。
ベッドの上で鎖につながれている男。死んだような目をしていたが、俺達を見てキャッキャと笑い手を叩き始めた。
「どういう、ことだろうか?」
飯田がそう尋ね無言となったグレゴリだが、ついには浜崎に剣を渡したことがばれて皇帝に咎められ、罪の意識で頭がおかしくなってしまったと説明される。
「皇太子がこんな状況だ。他に継承権?それを持つ奴はいるのか?」
「いえ、それは……」
戸惑いながらフランを一度チラ見するグレゴリ。
俺は、ため息をつきながら前々から考えていたことをグレゴリに告げる。
「じゃあ決まりだな。次の皇帝はフランで……なあいいだろ?フランソワーズ皇帝陛下?」
そう言ってフランを見る俺は多分笑っていただろう。
口を開け固まっているフランを見て、今にも地面を叩き笑い転がりたかった。
「カ、カツキ様!揶揄ってらっしゃるのですね!そんなに笑いをこらえながら、ひどいですわっ!」
「ごめんごめん!いや本気だからね?俺は、フランが皇帝になればこんなクソみたいな国も少しはマシになるかなって思ってたんだから」
フランは真っ赤になりながら俺を見て「うー」と唸っている。
「いいんじゃないか?フランソワーズ姫なら帝国はもっと優しい国になると思うぞ?」
真面目な顔してそう言う飯田に、俺はなぜか笑いが込み上げ堪えるのに必至だった。
未波も何かを言いたそうにしていたが、口を開くと笑いそうになり口元を押さえ震えていた。
「フランソワーズ様が皇帝?失礼ながらフランソワーズ様のような弱者が皇帝をするなど、他国に示しが付きませぬ!ここはやはり皇太子様に即位頂いて、私めがしっかりと御支えするのが一番かと!」
グレゴリが必死にそう言った時、飯田がムッとした表情をした。
「弱者?弱者で何が悪い!国を動かすなら強さより全体を見る洞察力や政策を立案する思考力が大切だろ!フランソワーズ姫は優しく行動力もある!十分だと思が?」
グレゴリに詰め寄る飯田。
「し、失礼ながら、弱いという事が問題なのです!弱さを見せれば王国にも他の国々にも足元を見られるでしょう!ここはひとつ皇太子様を―――」
「なら俺がフランソワーズ姫の後ろ盾となろう!姫の敵がいると言うなら、俺が相手してやる!」
予想外の展開ではあるが、飯田が後ろ盾になるなら安心だ。
「ちょっと待っていただけますか!私、まだ皇帝をやるなんて一言もいってませんわ!カツキ様、私が皇帝をやるなら私のものになって下さいませ!」
「えっ?フラン何言ってるの?俺を巻き込まないでくれ!」
「そうよ!どさくさ紛れに勝基君に何言ってるの!」
フランの言葉に俺と未波で反論する。
「カツキ様!私を皇帝にと言って巻き込んだのはカツキ様ですわ!そうですわ!それが良いですわ!」
「だ、だが、それでも俺がフランのものになるって、自分が何を言ってるか分かってるのか?」
「わ、分かってますわ!カツキ様は、わ、わ、私と、城に住み、こここここ子作りして、世継ぎを生むのです!ええそれが良いですわ!一緒に世継ぎを育て、より良い帝国を作り上げるのですわ!」
フランが真っ赤になりながらそんなことを叫んでいる。
「ちょー!フランはほんと、何言ってんの?」
「そうよ!こ、こ、こ……なんて」
乱心したフランに俺と未波が慌てて抗議する。
なぜ未波が一緒に抗議しているのか分からないが味方は多い方が良い。どうせ仲の良いフランが俺なんかと付き合うことに反対なのだろう。それでもいいさ。それよりかいっそ飯田とフランがくっついてくれれば、俺としても万々歳なのだが……
「この際はっきりさせて頂きますわ!カツキ様は、私のことをどう思ってますの!私は、今言った通り、心の底よりお慕いしておりますわ!カツキ様が私を支えて下さらないのでしたら、皇帝なんてやりませんわー!」
ハアハア言いながらそう言うフランに思考停止する俺。
子作りってまるでフランが俺に好意を持っているようじゃないか。
「えっ、今なんて?」
そんなフランの言葉が理解できず聞き返すが、フランは真っ赤になって下を向いたまま返答してはくれなかった。
その間に俺と一緒に思考停止していたはずの未波が復活し、フランに詰め寄り俺から離れ何やら話を始めている。
「えっ?どういうこと?俺、耳までおかしくなった?」
そう言いながら周りを見回しすと、加藤さんがため息をついていた。
「耳じゃなく頭がおかしくなったんじゃないの?」
加藤さんの言葉に、やっぱり頭がおかしくなったから変な感じに聞こえたのかもと納得してしまった俺だった。
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