45.ダンジョンの試練 01
試練に挑むと決めて5日目の朝。
いよいよダンジョンの30階層、試練に挑む覚悟が決まった。
すでに玉井さんには飯田の持っていた魔法のバッグも含め、ストックしてあった素材などを満載してギルドに送り出した。不和さん達のグループの柳本さんは商人クラスということで同行してもらった。
彼女は初めて乗るコガネの背に少し興奮していたようだ。
例の雑貨屋で岸本さんと会ったようで、こちらの情報を伝えその結果大笑いしていたそうだ。だが、計6人の犠牲者が出てしまった事にはショックを受けたようで、帝国への怒りを滲ませていたという。
雑貨屋では帰還札などの大量の魔導具類や、疲労回復剤、調味料関係などを仕入れて来てくれた。
岸本さんからは、飯田も含めた俺達全員が指名手配のようになっていると聞いた。俺達は表立って歩けないようになったようだが、冒険者ギルドでは普通に納品を受け入れてくれた。
どうやらギルドでも今回の帝国の動きに不快感を覚えているようだ。と思ったが、玉井さんの話では「ギルマスは手数料でウハウハしたいだけだと思う」とのこと。まあそれでもこっちは資金が手に入るのだし、ウィンウィンな関係で良いだろう。
鍛冶屋では最初は取引をしようか躊躇していた店主も、使えそうな骨や牙、皮などの素材を提供すると涎を垂らしながら「何でも持って行ってくれ!」と掌を反し特別な武具があるという裏へと案内してくれたそうだ。
柳本さんには俺や未波達用で使えそうな武具を見繕ってもらった。その見立てはバッチリで、俺達にピッタリのサイズの装備を見繕って来てくれた。
持ち帰った装備は、不和さんと北山さんによりさらに強化を付与され、装備については万全の状態で試練に臨めそうだった。
この4日間、俺と未波達は拠点から少し離れた中層でそれぞれが無理のない程度に狩りをしている。自身の戦闘経験を積むためだ。
試練に挑んだ全員が一緒に戦えるとは限らない。スキルや能力値ももちろん大事だが、こういった経験はいざという時にきっと役に立つだろう。
魔物を倒し続ける俺は、あの日の未波の言葉を忘れようと必死だった。幼馴染だから……出来の悪い弟のように……でも嫌いなんだ……そんなことを脳裏に思い浮かべながら。
幸い未波との距離感は変わってはいなかった。心の奥底で義務感だけで一緒にいるんだなとどうしても思ってしまうが。時折耐えられなくて未波から視線をそらしてしまうが。
それはともかく、飯田達も同様に中層付近でそれぞれの経験を積んでいるようだ。
フランや他の者達は予定通りルリとコガネと一緒に毎日最深層へと赴いている。フラン以外は元々が地道にダンジョンで経験を積んだ奴らだ。能力アップが先決だろうしフランはまずは能力アップと新たなスキルが必要だ。
横井達はルリ達のいわゆる養殖プレーが効率的過ぎて、普通に狩りをするのが嫌になると言っていた。正直俺もそう思う。
そして今日、フラン以外の全員が30階層の試練に挑む予定だ。
30階層への転移の札は3枚しか所持していなかったので、昨夜は俺が転移の札を使って30階層へ移動し、未登録の転移の札を10枚ほどそこに登録して帰ってきた。一緒に転移できるのは5名までという制限がある為だ。
「ルリ、フランを頼む」
『うむ。フランは我に任せるとよいのじゃ!それよりも、十分に気を付けるのじゃぞ?』
「ああ。分かったよ」
そう言ってルリとコガネを撫でておく。
「カツキ様!私もルリ様と一緒に今日も頑張りますので、カツキ様も気を付けて下さいまし!」
フランが心配そうにそう言って俺の手を握る。
引き寄せられた俺の手が少しだけフランの柔らかなものが触れた気がするが、きっと気のせいだ。
「フランさん!勝基君は私がついてるので大丈夫です!」
頬を膨らませた未波がフランの肩を掴んでそう言うと、フランも「未波様も、お気をつけて」とにっこりして俺の手を離して一歩下がった。
その後、俺と未波達でそれぞれが転移の札を使い、他の者と一緒に30階層へと移動する。
飯田は入った時に感じる違和感が帝都のダンジョンよりキツイと言っていた。
「ここが、30階層を抜ける扉だな。帝都の30階層にも同じような扉はあった。普通に邪悪な巨人が3体いただけで、試練はなかったがな」
飯田がその大きな扉を見てそう言った。
「加藤さん、どう?」
「うーん、それほど嫌な感じはしなくなったかな?」
「なら大丈夫そうだな」
加藤さんからの返答を確認した俺は、緊張を隠すように軽い調子でそう言って扉に汗ばむ手を伸ばす。
指先が触れるとその扉がスッと開くが中は暗闇で見えない。
「よし、行こう!」
飯田も気合の入った声で号令をかけ、全員で中へと入って行く。
扉を抜けると暗闇は一転光に包まれ眩しさに思わず目を瞑る。
「ここは……」
目を開けた俺は、何もないだだっ広い沼地のような空間に立っていた。
周りを見渡せば一緒に入ったはずの未波達も、他の者達もいなかった。こうなる展開も予想はしていたがこれから起こるであろう試練を思い不安がよぎる。
そんな俺の目の前に光の玉が出現し、少し離れた上空をくるくる回っている。俺はそれを凝視していると、その光の玉はポチャンと音を立て水の中へと落ちていった。
唸りながら考える。
「これは、あの光った何かを拾えば良いって事か?」
そう呟いた俺はその光が落ちたところまでバシャバシャと水音を立てながら歩いてゆく。
膝下程度のそれなりに深い水位に苛立ってはみたが、そんなことも言っていられないことも分かっている。はやる気持ちでその位置まで行くと、濁ったその水に手を突っ込み探し始める。
だが、手にはなんの感触も無かった。
再度周りを確認する。
「さっき落ちた物を、この沼の中から探し出せって事か?」
俺は中学の校庭のような広さの沼地を眺めながらそう呟き、どんな形をしているかすら分からなかった物を探し出すことに、どうしようもない疲労感を感じため息がもれた。
これは試練というより嫌がらせなのでは?などと考えながら、再び手を突っ込み、その何かを探し始めた。
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