39.誤解が解けたその後で 02
慌ただしく動き出した兵士達。
一番後ろに控えていた者がバッグからサッカーボールほどの球体を取り出し、こちらに向き合って高々と投げた。他の兵士達も板状の何かを取り出し体の前に掲げている。
「勝基君あれヤバイ感じする奴!」
加藤さんの絶叫に俺は[鉄壁]を、未波が[結界]を張り巡らせた。
「だめかも!」
加藤さんがさらそう叫ぶので、俺も未波も焦りながら強く広くとスキルを上乗せして行く。
そんな中、危険を察知して動いたのは横井と田中だった。
「全てを切り裂き道を開け![真空破]ッ!」
「噛み砕け[竜戟槍]!竜の怒りを思い知れ!」
嬉々としてそう叫ぶ2人にあっけに取られながら、放たれた攻撃の行方を眺める。
放り投げられた球状の魔道具へ吸い込まれるように命中し、それによりさらに高く飛ばされていた。
次の瞬間、それは激しい爆発音と光を放ちはじけ飛んだ。
「きゃっ!」
[結界]を張るため俺のそばまで来ていた未波が悲鳴を上げ俺に抱きついた。
かなり高くまで打ち上げられたにも関わらず、それから発せられた熱波がこちらまでやってきており、その熱により森の上部は燃え始めた。
野太い悲鳴が上がりその声に顔を向けると、飯田が私兵達を切り捨てていた。容赦ないなと思ったが、明らかに殺意があった攻撃に、止める理由が見つからなかった。
幸い、燃え広がった火は水関係のスキル持ちが次々に放水し、あっという間に鎮火していた。
俺は、緊張が解け抱きついている未波の拘束から逃れるようにして地面にへたり込んだ。
「やっと、終わったか……」
思わずそう呟いたのは、フラグだったのか……
俺の耳には「佐田―!」という叫び声が聞こえビクリと肩をふるわせた。
こちらにドシドシと歩いてくる浜崎のその顔は、狂ったように激怒して見えた。
「おい浜崎!」
「何やってんだよ!こんな時に!」
「そうだぞ!何考えてんだ!」
止めようとしたのは浜崎とつるんでいた3人だった。
その3人は……浜崎の放った攻撃により一瞬で切り伏せられ、さらには近くにいた矢沢も巻き添えを食らったように体が2つに分かれていた。
彼方此方から悲鳴が聞こえる中、浜崎が俺に一直線で向かってくるが、再び未波にしがみつかれ身動きがとれない。
「未波!距離を取るぞ!」
「大丈夫!私達を守って![結界]!」
俺が叫んだ瞬間、少し冷静になったのか未波が目の前に[結界]を生成する。
俺も慌ててそれに倣う。
「[鉄壁]!えーと固く、強く!」
ややしどろもどろで叫びながら、目の前に生成された格子状の鉄壁を固くなれと念じ強化する。
だがその鉄壁も結界も、浜崎が狂ったように俺の名を叫びながら放つ一撃にあっけなく粉砕された。
咄嗟に未波を抱えるようにして背後に飛ぶが、一撃から繰り出された衝撃波のようなものに体が打ちのめされ、痛みを感じながら地面を転がった。
体を強く打ち付けられながら、体制を整えようと必死で体を起こす。
途中で柔らかい何かに触れた気がするが、今はそれを気にする時じゃない……はずだ。
「浜崎!やめるんだ!」
その時、叫びながら俺の目の前に割り込んできた飯田の背中が見えた。
浜崎とつばぜり合いを始めた飯田。
2人の戦いを見守りながら未波と一緒に後退り距離を取る。
「効果があるか分からないが……飯田に、我が仲間に、困難を乗り越える為の力を、[鼓舞]」
慣れない口上に恥ずかしくなりつつも飯田に使ってみたが、目に見えて飯田の動きが良くなったように見えた。
飯田も一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに目の前の浜崎に集中し説得しようと声をかけている。
[鼓舞]の効果があったのは俺が飯田を認めたからが、飯田の中で俺に対する誤解が解けたからなのか。それは分からない。
……均衡が続く戦いは、どちらかと言えば飯田が優勢なように見えた。俺達も手を出したいのだが、2人の本気の動きにはついて行けそうにない。攻守が目まぐるしく変わるその様子に、俺達はあっけに取られていた。
そんな中、押され気味の浜崎は飯田の攻撃を受け流しながら自らが切り殺した仲間の1人、堀部の背中に剣を突き立てた。
「何をしてる!」
さらに激怒する飯田。
周りからも悲鳴が聞こえている。
堀部の背中から剣を素早く引き抜いて距離を取った浜崎。その手に持つ黒い剣がビクビクと脈打つように震えている。その剣は堀部から出る黒い霧状の何かを吸い取っていた。
その直後、堀部の亡骸が塵のようになって消えた。まるで先ほどの浅野さんのように……
「あれは、死体を吸収したのか?」
そう呟いた俺は、飯田の攻撃を逃げながらも死した仲間を、そして私兵団や魔法局達の亡骸の刺して回る浜崎を只々見ていた。
そして黒い剣により攻撃を受けた亡骸が塵となって消える度、浜崎の姿は徐々に人の形をやめていった。手が増え、尾が生え……そして背中に翼、頭に角が生え、最後に全身が黒く変色したところでその変化は止まる。
「なんなんだよ。お前……」
あまりの光景に飯田も立ち止まっていた。
動きを止めた飯田に、浜崎だった者が飛びつくように黒い剣を叩き込んでくる。
受け流そうとした飯田だったが、そのままははじき飛ばされ地面を転がった。
『ふう。こうやって体を獲たのは何年ぶりだろうな?なんとも清々しい気分だぜ!』
もはや浜崎の声でもないそれは、俺達をゆっくりと見下ろしながら宙へと浮いて行った。
『あれは魔王、じゃな。あんな方法で復活しおったとは』
『うむ』
俺のそばまでやってきたルリとコガネは、そう呟いて空を見つめる。
『あれはお主達には荷が重い。ここからは我の出番じゃ。カツキ達は手出しは無用じゃぞ?』
『うむ。我々に任せておけ!』
そう言った2人に、俺は「頼んだ」と安堵の表情を見せた。
2人なら何とかしてくれる。
そう思った俺の目の前から2人が消える。
2人を探せば空には轟音と共に稲妻が走っている。
それはもちろんコガネの雷撃であった。
颯爽と空を駆けるコガネの目の前には、雷撃により右腕を黒く焦がされた浜崎だった者、ルリが魔王と呼んだそれが顔を歪ませている。
さらに魔王はルリの放った蜘蛛糸により拘束される。
容赦なくギリギリと締め付けられながら、、魔王は地面へと叩きつけられた。そこに耳をつんざくような咆哮を上げたコガネが、特大の雷撃を叩き込む。
全身を焼かれた魔王は苦しそうに口を開く。
『お主達、魔物であろう。なぜ吾輩に攻撃を仕掛ける!』
恨めしそうに2人を見ながらそう言った。
『お主と一緒にするな魔の王よ!私はこの森の平穏を尊ぶ者!』
『そうじゃ!カツキの平穏を守るのが我の役目じゃ!』
そして、ルリから放たれた蜘蛛糸により、魔王の手足は切り裂かれ、すでに力を失ったようにボロボロの黒い剣だけを残して塵へと消えた。
終わってみれば圧勝たっだ……
俺は唖然としながら戻ってくるルリ達を眺めていた。
「俺は、あんなのを相手にしようと思っていたのか……身の程知らずも甚だしいな……」
俺の隣に並んだ飯田からそんな声が漏れたのも当然であろう。
俺は、戻ってきたルリ達を抱きつき、感謝を籠めて2人を撫でた。
――――――
浜崎尚斗 / 人族 / クラス [聖剣士] 死亡
力 B+ / 知 C- / 耐 B
<スキル>
[聖なる剣] 剣に聖なる魔力を籠めて邪を払う力
[聖なる一撃] 光のように早い一撃を放つ力
[聖なる外装] 邪を弾く障壁を纏う力
[聖なる癒し] 自身の傷を癒す回復の力
[聖なる捌き] 神の裁きにより悪を断じる力
――――――
堀部隆英 / 人族 / クラス [双剣士] 死亡
力 D+ / 知 E- / 耐 E-
<スキル>
[双剣術] 双剣を巧みに操る力
[背後の目] 背後の気配を察知する力
[一閃] 少しの時間無防備になって力を溜めこみ一気に放つ力
[双竜檄] 両手から繰り出される連続攻撃により敵を切り裂く力
――――――
福田晴喜 / 人族 / クラス [拳闘士] 死亡
力 C- / 知 F+ / 耐 D+
<スキル>
[重拳] 拳による一撃を放つ力
[豪脚] 力強い一歩を踏み出す力
[覇気] 一次的に自己の力を倍増させる力
[正拳] 強力な拳を放つ一撃必殺の力
――――――
中島正義 / 人族 / クラス [重戦士] 死亡
力 C+ / 知 F- / 耐 C+
<スキル>
[肉体強化] 身体能力を向上させる力
[挑発] 敵の注意を引きつける力
[盾強化] 盾装備の硬度を著しく高める力
[砦] 周囲の仲間の防御を高める力
――――――
矢沢大和 / 人族 / クラス [分析官] 死亡
力 E / 知 D+ / 耐 F
<スキル>
[簡易鑑定] 人物や物の名前や簡単な内容を見通す力
[弱点看破] 対象者の弱点を見抜く力
[罠看破] 危険な罠を感知する力
[精密分析] 物質の構成する成分を詳細に見抜く力
――――――
ブクマ、評価、励みになります。感想お気軽にお書きください。




