03.異世界転移と新たな出会い 03
彼女と一緒に暮らすことになり、俺は彼女にルリと名付けた。
俺は今、そんな彼女から名を呼べと強要されている。
「じゃあ、ルリ様」
ルリ様は不機嫌そうになってしまった。
「じゃあ、ルリさん」
ルリさんはなおも不機嫌であった。
「じゃあ……ルリちゃんで」
ルリちゃんからため息が聞こえた。
「じゃあ……ルリ」
『うむ。うむうむ!良い響きじゃ!』
そう言って上半身を後ろにのけぞらせ頷いているルリは、少しだけ頬を染めていたように見えた。
俺はその後、暫くの時間をルリと繰り返す作業に没頭することになる。
「ルリ」
『うむ、もう一度じゃ』
「ルリ」
『良いの。もっとじゃ』
「あの。ルリ?」
『なんじゃ?もっと呼ぶと良いのじゃ―――』
繰り返す事、10数回。
ルリが満足そうに頷いている頃、俺のお腹が食事の催促をしてしまいルリに笑われる。どうやらお腹の鳴る音というのは初めて聞いたらしい。
『さてカツキ、お主は食事は必要なのじゃろ?』
「まあ、そうですね」
『何を食べるのじゃ?肉か?』
「肉とか魚、野菜とか?」
『野菜と言うのも分からんが、魚は無い。この辺は川がないしの。じゃが肉はあるのじゃ!』
そう言って俺を上半身の腕でお姫様抱っこをしたまま移動を開始したルリ。
暫く移動した後、俺を抱きながらも右手を前に翳す。
シュッという音と共に糸が生成されそれが木陰から飛び出したウサギ……のような角の生えた動物を捕縛していた。
思わず「おお」と声をあげた俺の元には、胴体をぐるぐると簀巻きにされたそれが置かれる。
「ルリ?これを食えと?」
『うむ。ついでに命も刈り取っておくが良い。少しは力も増えるやもしれぬ』
「じゃあ、まずは……どうやって殺すんだろうか?」
『その手でぎゅっとしてやれば良いではないか?』
「ぎゅっとか。ぎゅっと……よし!やってみるか……」
そう言ってルリから解放されると、震える手でその地面に転がされているうさぎモドキの首に両手を伸ばす。
手が触れると体温が伝わってくきたことで思わずを引っ込める。
これは無理かもしれん。
そう思った時、そのうさぎモドキが暴れ出し割と可愛かった顔がキッと険しくなった。齧歯がむき出しとなり思わず悲鳴を上げる。可愛くない!そう思ったがそれで殺せるわけもなく、首を回してルリを見る。
『うむ。カツキの居た世界は平和だったのじゃな?』
「そうだね。少なくとも俺のような一般人は獣を殺すという体験は一度もないよ」
『これは魔物じゃが、仕方ないの』
そう言ったルリは右手を横に振るとそれに合わせ糸が飛び出し枝を切り落とし、2度、3度と枝を鋭利な武器へと作り替えている。
先が斜めに切断され1メートル程度の手頃のサイズになった枝。それをルリから差し出され、どうやらこれで突けという事だろうと理解する。
それでもやっぱり躊躇する。
だが、相変わらずうさぎモドキは怖い顔をしてこちらを睨んでおり、段々とバカにされているような気分になった俺は、握っている枝に力がこもる。
『じらしては可哀想じゃぞ?』
そう言われて不意に手が動き、その枝先はうさぎモドキの喉に突き刺さった。
「あっ」
戸惑っている俺は、口元から血をごふりと吐いたうさぎモドキが目を開けたまま動かなくなったのを見つめていた。
「うっ……」
やっと俺が殺したと理解した後、吐き気を感じ地面に膝を突く。
そして地面の吐瀉物を見つめる俺は、脳内に"スキル獲得"という音声が流れ体が少し熱くなったのを感じた。
「ス、ステータス……」
――――――
佐田勝基 / 人族 / クラス [引きこもり]
力 G- / 知 F+ / 耐 G-
<スキル>
[拠点防衛] 自分の陣地を認識しその範囲を防衛拠点とする力
[偵察] 人知れず相手のステータスを確認する力
――――――
目の前に映し出されたステータスには[偵察]というスキルが増えていた。
試しに使ってみようとルリを見る。
――――――
ルリ・アラクネレジェンド
力 SS+ / 知 A / 耐 A
<スキル>
[操糸] 糸を作り出し操る力
[自己回復] 自己を治癒、再生する力
[気配察知] 周囲の気配を感じる力
――――――
「ルリって強いんだな」
『なんじゃいきなり?』
「今、新しく偵察ってスキルを覚えたから使ってみた。ルリのステータスが見えたけど、力がぶっちぎってた!」
『ほぉ。詳しく教えるのじゃ!』
リルが嬉しそうに笑い俺に詳細を聞いてきたので、しばしルリの能力について話をして盛り上がっていた。
それと同時に、俺も魔物を倒せば成長するのだと分かりルリに感謝を伝えると、ルリは照れ臭そうに顔をそむけていた。
そのタイミングで再度自己主張する俺のお腹。
肉はどうしようか……
「ルリ、俺は生肉は無理だ」
『で、あろうな。うーむ良い考えがあるのじゃ!』
「え、おっ、ちょっと待って―――」
ルリは俺を再び横抱きにすると糸を操り木々を利用して高速で移動を開始した。
あまりに怖すぎて目を瞑って耐えていた。
そして数分後、幾度か魔物らしき不思議生物に遭遇するが、今目の前にいるのは蜥蜴だ。20センチぐらいの大きさの赤い奴だ。
[偵察]の結果は火蜥蜴だった。思わずゲットだぜ!と言いそうになった。
ルリはそれをササッと簀巻きにして睨みつけると、火蜥蜴は『キュ』っと鳴いて気を失ったようだ。
「ルリ、それをどうするんだ?」
『此奴は火を吐くでな。これで焼けばよいじゃろう?』
「な、なるほど」
確かに火吹きとスキル欄にあったなと納得する。
ルリは確保していたうさぎモドキ、[偵察]結果が定番の角兎だったそれを地面に置くと、火蜥蜴をやや乱暴に目覚めさせ『さあ焼け!』と命じていたので慌てて止めた。
「ルリ、これ皮を剥いで解体できるか?」
『う、うむ。やってみよう!』
戸惑いながらも皮を丁寧に掃いていく。
白い手でバリバリと皮を剥いていく光景に良く分からない不思議な感覚となり、ルリ、めっちゃ力強いな。さすがSS+だ、俺も成長したらできるかな?などと考えていた。
皮を剥いでもらった後は適当に切ってもらう。
糸を操り器用にぶつ切りしていくルリ。中から出てきた内臓に吐きそうになるが何とか堪え、口の中が酸っぱくなってしまった。
大きな葉の上に置かれたブロック肉と化した角兎の肉片。それを近くの岩の上に乗せ、やっと準備ができたので火蜥蜴に頑張って焼いてもらおうと声をかける。
本当は血抜きとかしないと臭いんだろうな。そもそもこの兎は旨いのだろうか?いずれはちゃんとした調味料がほしいな。そんなことを考えながら火蜥蜴が『ギャ!ギャ!』と言いながら火を吐く光景を眺めていた。
とにかくじっくりと焦がす勢いで焼いてもらった。生焼けは本当に怖いから。
暫く焼き続けるとなんとか安心できるほどの焼け焦げ具合となっていたが、火蜥蜴がもう無理死ぬ!という様子に見えたので、今度から枯れ木を集めて火をつけてもらうようにしようと考えていた。
「ありがとう。こんな物で良いだろう」
大きな石の上で焼いては貰ったが、下に敷いていた葉は当然燃えてなくなっている。衛生面にも不安を感じつつも空腹に負け口に放り込む。
火傷しそうになるが口の中で少しハフハフして味わっているが、やはり味はしないな……と思いきや、後から若干の甘みを感じた。旨いな角兎。空腹だからだろうか?でも後からお腹を壊すかも。俺は次々と不安が込み上げてきて吐きそうだった。
それでも1匹丸ごとお腹に収めた俺は、満腹となりお腹をさする。
そして眠気が訪れフラフラと頭を揺らす。
「ルリ、ごめん。眠い」
『うむ。安心して眠るが良いのじゃ』
俺はルリに包まれ、ふわふわした蜘蛛足の柔らかさを感じながら意識を手放した。
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