32.帝国からの使者 02
俺は、ルリの蜘蛛糸に締め付けられている兵士達を眺めていた。
「うぐっ、お、お助けを!俺達はこうなるなんて思ってなかったのです!」
呻く兵士の1人が命乞いをするので、ルリに締め付けを少し緩めるように伝える。
「他の奴らは知りませんが俺は、フランソワーズ様を送り届けそのまま放置するように言われていたんです!」
周りの兵士がもうんうんと頷いている。
「俺だってそうだ!佐田様、恐らくですが団長と副団長……さっき死んだ者達には別命がありあのような凶行に及んだと思われます!」
その兵士がさらに情報を吐き出して行く。
「俺達は何も知らなかったんです!フランソワーズ様に襲い掛かったのは団長です!団長が全部悪いんだ!」
「佐田様お助けを!さっき城に連絡していたのが副団長のロベルトです!彼も知ってたはずです!明らかに連絡の仕方が用意周到だった!」
先ほど今回の騒動を起こし死んだのは、団長と副団長という上役だったようだ。
「お願いです!女房も子供もいるんです!あの2人が悪いんです!」
兵士達が次々に命乞いを繰り返しているが、他にも拉致されたと馬鹿にしたように叫んでいたのがいたはずだ。そいつらも明らかに知っていたように思えたので、情報提供頂こうと口を開く。
「何を他人ごとのように言っている?お前達はフランソワーズさんをここに置き去りにする為に来たのだろう?」
俺の言葉に顔を青くする兵士達。
ふと気付けば加藤さんが仁王立ちで俺の横に立っている。
「あのさー、フランソワーズさんがこっちに歩いている間、あんた達もニヤニヤしてたけど?何か他に知ってることもあったんじゃないの?例えば、あのバカみたいに悪魔だ!拉致だ!と叫んでいた奴らとか……」
どうやら加藤さんもそのことに気付いていたようだ。
他の女性人達を見てみると、未波以外はそうだそうだと頷いている。俺だけが気付いたんだと思ったがそうじゃなかったようだ。あと少し加藤さんの指摘が遅ければ、俺が自慢気にそのことを告げ恥をかくところたった。
俺は心の中で加藤さんに深く感謝した。
「わ、私は、フランソワーズ様が握手を求めた後、佐田様達と暫く話をするので、そのタイミングでその場を離れ帰還するという任務だって聞いてたんです……」
「俺もそう聞いていた!そしたら副団長がそのタイミングで笑っていて、それで釣られて笑ってしまっただけなんだ!」
「そうだ!団長達だけじゃなく、あの2人は多分知ってたはずだ!そうだよな、ジェクサにクライトス!」
そう言って兵士の1人が指差したのは、加藤さんが指摘した通り拉致だなんだと騒いでいたあの2人だった。
名指しされた2人が慌てて口を開こうとしていたようだが、暇だったからか苛立った様子のルリがその口を蜘蛛糸で覆ってしまった。
ウーウーと唸るだけの2人を他所に、兵士達は勝手に暴露話を始めていた。
「あの2人は、団長達に特に気に入られていたので、絶対知っていたに決まってます!」
「そうですそうです!いっつも贔屓されてて、知らないわけないんですよ!」
「俺、ここに来る途中も4人で何かを相談し合っては笑い合ってたのを見ました!」
当の本人達はバタバタと足を動かし唸っている。
「ルリ、ちょっとだけ奴らの口を自由にしてやってくれ」
『分かったのじゃ!』
まだ不機嫌な様子のルリは、短くそう返すと兵士の塞いでいた口を開放した。
「お前達何を言ってる!俺だって知らなかったんだ!」
「そうだ!俺も何も知らんかったのだ!大体、さっきのは、拉致だというのは、見たまんまを言っただけではないか!」
2人は怒りの表情で反論しているが、あの叫んだ内容を考えれば何らかのことを知っていたのは明らかだろう。
そんなことを考えながらも、言い争いをしている兵士達に言いようのない不快感を感じてしまう。亡き者にされようとしたフランソワーズさんの気持ちが想像できてしまい、過去の苛めの記憶が甦り、胸に感じる痛みを必死で耐えていた。
「あの……佐田様……」
そんな俺の胸元から弱弱しい声が聞こえ、ハッとする。
慌てて胸の中にいたフランソワーズさんを開放する。そして、フランソワーズさんを抱きしめていたことにまったく意識していないかった自分に戸惑っていた。
「す、すみません」
さっきまでの胸に感じていた温かみが消えた俺だが、今は恥ずかしさに顔が熱くなる。
「いえ……佐田様は私を守って下さったのですよね?見えていませんでしたが、あの者達のやったことが手を取るように想像できますし……私は、帝国では居場所が無い厄介者でしたから……」
フランソワーズさんもさっきまでの状況が恥ずかしいかったのか、もじもじと胸の前で指を動かしながら小さな声でそう呟いていた。
厄介者、という話も気になるが、まずは目の前の問題を片付けなければ……
「フランソワーズさん、機会があればその話を聞かせて下さい」
「はい。それと、私の事はフラン、とお呼びくださいませ」
「え、あ、なんで?」
突然のことに戸惑う俺は、直後に加藤さんの咳払いにより現実に引き戻された。
「とにかく、事情は何となく分かった。直接かかわった2人は死んだ。お前達はもう帰れ!特にそっちの2人はもう2度とこの森に近づくなよ?あと、皇帝にもう2度と俺達にちょっかいを出すなと言っておけ!」
俺は色々と面倒になり兵士達を帰すことに決め、早々に立ち去るように促した。ルリもその言葉に反応し拘束を解いてゆく。
「勝基君、あの2人もそのまま帰しちゃって良いの?」
生き残った兵の全員の帰還を認めた俺に、加藤さんは不安そうに尋ねてきた。
「だが、あの程度で殺すってのもな……未波はどう思う?」
「私は……私も、殺すのはちょっとって思ったけど、愛理、やっぱり私はまだ考えが甘いのかな?」
つい未波に振ってしまったが、未波も同じ考えのようだ。
あの2人には直接攻撃を受けたわけでは無い為、どうしても殺して……という考えにはまだなれそうにない。
「いいんじゃない?そもそも決定権は勝基君にあるんだし、森の主、なんでしょ?」
加藤さんはそう言ってニヤリと笑った。
「森の主はやめてくれ」
俺は、ニヤニヤと頬を緩ませた加藤さんにそう言いながら、また揶揄われるネタができてしまったなとため息をついた。
「じゃあお前達はさっさと帰れ!顔は覚えたからな!二度とここには来るなよ!」
俺はそう言って兵士達を睨みつけていた。
正直全員顔を覚える気はないし、街中でバッタリ会っても気付かなそうだなと思った。
「か、帰ります!いや、帰りたいです!でも……」
「俺も帰りたいです!ですが陛下になんて報告をしたら良いのか……」
「無理です!今帰れば打ち首になっちゃいます!」
口々にぼやき始めた兵士達にまたうんざりする。
「じゃあ、ここで死ぬか?」
ため息交じりにそう言った俺に、兵士達が声を揃えて「帰ります!」と聞けたところでやっとこの騒動も終わりだなと安堵する。
「では、フランソワーズさんも、気を付けてお帰り下さい。そして皇帝陛下にはもう来るなとお伝えください」
「私に!帰る場所などありませんわ!」
俺の言葉はフランソワーズさんの叫びに遮られてしまう。
どうやら今回の騒動はまだ終わりではないようだ。
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