31.帝国からの使者 01
ダンジョン探索を再開して1週間、俺達は30階層を目前にしていた。
未波達の話では、帝都内のダンジョンより魔物が少し強いようだと言っていたが、それでも30階層ぐらいであればすでに十分戦える程になっていた。
30階層にある豪華な扉を前に「何となく嫌な感じがする」と言った加藤さん。罠師のスキル、[直感]によるものと判断した俺達は、もう少し力を蓄えてから進むことにしようと話し合っていた。
そんな中、中央の広場で俺を抱きしめるルリの足に力が入る。
『カツキ、また何か大勢でやってきたようじゃぞ?』
「またなのか?」
『人数は、20名ぐらいじゃろうか?中層の手前ぐらいで留まり、こちらが何かしてくれるのを待っている様じゃ』
「うーん、会うだけ会ってみるか」
俺はそう言ってルリから離れると、コガネが無言で俺の前に伏せる。
『何をしている犬っころ……』
『何って、いつもお前ばかりずるいだろ?私にもカツキを運ばせろ!』
『……カツキ、どっちに頼むのじゃ?』
ルリとコガネが俺を見ている。
「た、たまにはコガネにお願いしようかな?」
『なっ!』
驚き声を上げるルリに、コガネは顔を上げ得意気に口元を緩ませていた。
「じゃあ頼むよコガネ」
そう言いながら跨る俺に、コガネは『任せておけ!』と力強く返答し、ゆっくりと走り出していた。
「ちょ、勝基君待って!」
未波の言葉にコガネが足を止める。
結局、みんなでゆっくりと移動を開始した。
強くなったとはいえ、拠点にルリもコガネも居ない状況で5人を残すのは危ないからというのもある。俺達はゆっくりとその侵入者の元まで移動を開始した。
10分も歩けばその場所へとたどり着く。
訪問者は帝国の兵士のようだった。
だが、その先頭にはピンクのドレスを着込んだ美しい女性の姿もあった。戸惑いながらも互いが認識できる程度の距離へと近づくと、俺達を発見した兵士達は緊張しながら身構えた。
「突然の訪問失礼いたします。私達は帝国からの使者でございます」
その女性はそう言った後、ドレスを摘まみ身を屈め頭を下げた。
「私は、皇帝陛下が娘、第二帝姫、フランソワーズ・デ・ウイストザークと申します」
「お姫様きたっ!」
その女性の名乗りに加藤さんが反応して声をあげる。
「それで、帝国の使者と言うけど、今回はどんな用?」
「貴方様がこの森の主、佐田様、ですね?」
俺は主という言葉に戸惑い首を傾げた。
「俺は佐田だが、この森の主ではないぞ?」
その言葉にルリが蜘蛛足を俺に絡みつけてくる。どういう意味かは分からないが、今はそれに構っている余裕は実はない。結構緊張していることは俺の心臓が激しく高鳴っていることからも自覚している。
人付き合い怖い。
「先刻は、我が国がこの大森林を侵略しようと、佐田様の御学友でもあります勇者様方を強引に送り込み、そして多大な御迷惑をおかけしました。帝国を代表して謝罪をいたします。申し訳ございませんでした」
そう言ってもう一度頭を下げる帝姫殿下フランソワーズ。
「今回はそのお詫びとして、心ばかりの品ではありますがいくつかの装備品をお持ち致しました。私は装備品については知識に乏しく、その価値を御説明できませんが、どれも帝国の宝物庫からの逸品と聞いております。どうぞお納めくださいませ」
そう言ったフランソワーズの横を、兵士の1人がバッグを抱えこちらにやってきた。
「止まれ!」
無遠慮に近づいてくる兵士に向かい、俺は手を前に突き出し静止させた。
「それはそこに置いてくれ」
「か、かしこまりました」
素直にバッグを置く兵士だったが、その顔は怒りに満ちていた。そして二度三度とこちらを振り返りながら元の場所まで戻っていった。他の兵士達も不満層で、どうやら謝罪したいのは姫様だけのようだと感じが。
「じゃあ早速、中を検めさせてもらうが良いだろうか?」
「もちろんですわ!」
ニッコリとほほ笑むフランソワーズ。
俺は、念のため警戒しつつバッグを逆さにして口を開く。
こうすると魔法のバッグからは適度なペースで中身が出てくるのだ。
出てきたのは宝石が多数埋め込まれた見た目が豪華な剣と重そうな全身鎧、そしてこちらも見た目重視の大きな盾であった。売ったら金になるんだろうが、使い道はそれしかない程度の装備品であった。
「確かに受け取った。では、後はこちらと帝国は不干渉ということで……」
「……できれば友好的な関係を作りたいのですが、まずは謝罪を受け取って頂けたという事で、また後日伺わせて頂きたいと思っております」
「まあ、たまにならな」
俺は社交辞令的に返答しながら、この世界はそういうのはあるのだろうかと考えてしまった。
「佐田様達の世界でも、こういう時は握手をして友好を示すものなのですよね?」
「まあそうだが、この世界では違うのか?」
「いえ、私達も同じでございます。では失礼して……」
フランソワーズは握手をする為なのだろう。俺の近くへとゆっくり歩いてくる。
背後の兵士達はその間もニヤニヤとバカにしたような笑みをしていることに不快感を感じる。やはり兵士達は和解をしに来た雰囲気では無いのだと、再度確信することができた。
「勝基君!」
加藤さんの声をあげたのをきっかけに身構える。
フランソワーズの背後からは兵士が一人こちらに向かってきていた。そして、その兵士は腰の剣を抜き高く振りかぶっている。
俺は舌打ちをしながら走り出し、戸惑うフランソワーズを抱き止める。
「[防壁]!」
兵士の振り下ろす剣に合わせて[防壁]を発動させ、鉄の壁を小さく固く生成する。
こうやってサイズを小さくする程、この壁は強固になる。声を出すことも強度を上げるのには有効だ。それらは未波達に教えてもらったことだ。
その話を聞いた時、飯田が攻撃を放つ前に恥ずかしいセリフを言っていたがあれは不治の病を発症したからでは無いんだ。と気付けたのは飯田の名誉のために良い事だったのだろう。
そんな事を考えつつも兵士から距離を取り元の位置へと戻る。
腕の中には混乱するフランソワーズが真っ赤な顔をして身を竦めていいる。
攻撃を仕掛けた兵士はルリが糸で拘束している。
未波達も身構え、迎撃態勢を整え終わっていた。
「悪しき森の悪魔達が姫様を拉致!兵士も1名拘束ー!」
「なんと卑劣な!姫様、今御救い致しますー!」
後ろにいた兵士達が棒読みでそんなことを言う。
腕の中の姫は未だに混乱中だ。
「分かりやすいことを……」
俺がそうボヤくと、背後にルリがやってきてそれに驚くフランソワーズが小さく悲鳴をあげた。
『カツキ、此奴らは何を言っておるのじゃ?襲ってきたのは向こうの方であろ?』
「そうなんだけどな。どうやらあいつ等は俺達と友好を結ぶなんて端から思ってなかったってことだ」
『意味が分からんのじゃが、敵だという事は分かったのじゃ!』
そう言うと、ルリは糸を多数飛ばし、兵士の殆どを捕縛していゆく。
「第8兵団より伝声!大森林にて、森の悪魔が姫を攫い我々も攻撃を受けています!繰り返します!森の悪魔が姫をぐっ……」
通信具によりどこかへ連絡を取っていた兵士は、ルリに首をへし折られ無言となった。
「お前達ー!こんなことをして許されると思うたか!すぐに我が軍が総攻撃をぐほぉっ!」
叫ぶ兵士をルリが締め上げその命を散らしていった。
「煩いな!黙ってろよ!」
俺のその一声でさっきまで呻いていた他の兵士達は、締め付ける蜘蛛糸の痛みを必死で堪えているようだった。
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