21.それぞれの進む道 03
――― 帝都内、某所
「ん?ここ、どこ?」
私は、目の前に映った古臭い建物が並ぶ街並みを眺めながら呆然と立ち尽くしていた。
ついさっきまでは、慣れ親しんだ心の故郷、アニメーツの店内で行われているイベントに参加して大いに盛り上がっていたハズだった。大好きな声優S氏も笑顔をうかべ某コンビニとのタイアップ唐揚げを食べていた。
はずだったのに……
ちな、学校には風邪をひいて高熱にうなされていると、母を装い鼻を摘まみ連絡していたのでバレはしないだろうと思っていたが、まさかこんな摩訶不思議な現象に遭遇するとは、人生とは分からないものだ。
奇声をあげ声援を送っていた私の視界に光が飛び交ったと思った次の瞬間、見たことも無い街並みとヘンテコな格好の人々が映し出されていたのだから、私の混乱は分かっていただけるだろう。
……私は誰に向かって言い訳をしているのだろうか?
とにかく、これが同志と共に熱狂するイベント中に突然眠りこけてしまった私が見ている夢か、もしくは本当は部屋のベッドで高熱にうなされている、とか?そんなことでもない限り、起こりうる可能性としてはあれしかないのだろう。
「うん、どう考えてもぉ……異世界召喚っ!」
私は思わず両手を高々と上げ叫び、「ふわははは」と高笑いをしてしまう。
だが、冷静に考えれば現状はかなり厳しいと言わざるを得ない。所持品をチェック。手には必死に振っていたペンライトが4本。トートバッグに入ったS氏の写真集に化粧道具程度……まずは金策が必要だ。
ペンライトは売れるかな?勇者世界のアーティフェクトって言ったら一気にお金持ちになれるかも?S氏の写真集?確かに高額で売れそうだが、これを売るなんてとんでもない!
私はそう思いながら自身の恰好を確認する。
某S氏が出演しているアニメのダークヒロイン役のコスプレという名のカァイイ制服姿だ。現役jkたる私はうまく着こなすことはできている。だが、どうせ異世界に召喚されるなら、他の異世界物のあれやこれのコスもバッグに入れておくべきだった。
さらに言うと、さすがにミニスカ過ぎて恥ずかしい。
とりあえず金髪なズラは外してトートバッグにしまい込んだ。
私は膝を突き嘆き悲しんだ。
地面の小石が生足の膝に突き刺さり、改めてこれが現実だと確信する。
さて、いつまでも悲しんでいては空腹は満たされないだろう。
私は行動を開始すべく立ち上がり、路地裏から人波に沿うように街の中心地へ向かって歩き出した。
「おねーちゃん、凄い恰好してるな!どっかの店に出てる子かい?なんなら俺が高く買ってやるよ?」
突然剥げた頭の大男が私に声を掛けてきた。
ふへへと声が出てそうな緩んだ頬で私を値踏みするように見ている。
「〇ね!」
とっさに、思わず、本当に反射的に、気付けば私は日本でも使ったことのないワードを全力で口走ってしまった。
「……あ”?お前、死にてーなら俺があの世に送ってやるぞ?」
ハゲた頭にピクつく血管がよく見える。
私は全速力でその場を逃げ出した。
背後からは男の罵声が聞こえたが、本気で死を覚悟した瞬間であったからか、めっちゃ早く走れた気がする。
それから私は、目立たぬように移動を開始した。
といってもやはり目立つ。周りからは好奇な視線を向けられ、たまらず近くに見えた雑貨屋に飛び込んだ。
「良かった!服も売ってる!」
そう思って店内の地味な服を手に取って確認してみた。めっちゃゴワゴワしてる……
「お嬢ーちゃん、すっごい格好してるけど娼館のお使いかい?」
「あ、いえ。できればこの服を売って何着か仕入れたいんです。田舎の方からこの国に初めて来たんですけど、どう考えても浮いてる気がして、お願いできませんか?」
「ああ、他の国から、中々煽情的な格好だったから勘違いしてしまったわ。失礼しちゃったね。じゃあ、ちょっとその服、触らせてもらっていいかい?」
私は、店の店主と思われるお姉さんがワキワキと指先を動かしながら迫ってくるのを、若干の恐怖を感じながら受け入れた。
「うん。すっごい綺麗な布だけど、どこで仕入れたのか教えてくれないかい?これなら金貨を出す人もいるかもしれない!」
「どこから、は私も知らないんです。あと、金貨とか、この国の事を何も知らなくて……良ければ教えてくれますか?」
お姉さんは怪訝そうな顔をしているが、多分だが大丈夫な気がした。
「訳ありっぽいから何も聞かないけど、とりあえずこっちにおいで。ご飯でも食べながら話しましょ」
「はい!」
私は、お姉さんに誘われるがままに奥の部屋へと入っていった。
お姉さんは彼是と私に服を選んでくれた。
少しごわつくけどこの世界ではそれなりに高価な服だという。
私はその場で着替えた後、お姉さんが出してくれた食事を頂いた。今更だがお姉さんはシェスカさんと言って今はこの雑貨屋さんの店主だそうだ。
食事は質素だが普通に美味しかった。この世界なら生きていける気がした。
食事を終え、一方的に質問する私にシェスカさんはとても丁寧に答えてくれた、
ここはウイストザーク帝国の帝都ザークスランドという街らしい。
比較的豊かな街ではあるが、年々景気が悪くなっているというので、どこの国でも不景気なんだなと思いながら、暫くシェスカさんの愚痴を聞いていた。
この国で使われている貨幣については、金貨は10万ザーク、続いて銀貨が1万、銅貨が1000、小銅貨が100ザークだと教えてくれた。一般的な食堂で銅貨で定食が食べれるらしいから、日本円と変わらない感じかな?
私が着ていた制服については生地も良いし、娼館の遊女達なら金貨を何枚も出しそうだからと金貨2枚+服や下着を何着か、貰えることになった。
さらには宿を確保していないという私に、部屋なら結婚して出ていった兄の部屋が空いてるから使って良いことになった。両親は早くに他界されているといて今は一人暮らししているそうだ。
食費を稼ぐ手立てについては追々考えようと優しくほほ笑む気前の良いシェスカさんに、私は惚れてしまいそうだった。そんなシェスカさんには、ちゃんと恩返しをしようと強く決意した。
ちな、ペンライトについてはいざと言う時に城にでも献上したら、凄い価値が出そうだと言っていたので、とりあえず保留で置いておくことにした。城が絡むと面倒事が増えるのはあるあるだからね。
そして、お兄さんの部屋へと案内される。
シェスカさんが掃除はきっちりしてあるから。という言葉どおり綺麗になっていたし、布団は新しいものに交換してくれたので安心して暫く居候をさせて頂くことにして、お姉案のお手伝いをしながらその日は夜を迎えた。
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