20.それぞれの進む道 02
団子を平らげ熱い茶を啜った俺は、丁度近くにいたあの少女に話しかける。。
「で、ではこれで……」
伏し目がちにそう伝えると、一瞬首を傾げる少女。
「そう?もっと注文してくれてもいいんだよ?」
「あ、いや……」
「まあいいや。じゃあ、団子セットで小銅貨3枚になりまーす」
そう言って笑顔を向ける少女……だが俺にはその小銅貨がどれ程のものか分からないし、所持しているはずもなかった。
これはやばいのでは?冷や汗が流れるのを感じたが、不意にポケットに入れてある櫛の存在を思い出す。女物だが髪を整えるには良いだろうと城から持ち出したものだ。それには綺麗に装飾がされているので、今回の代金くらいにはなるだろう。
「今はお金、なくて、これで」
「え、ちょっと待って?お金ないの?小銅貨だよ?銅貨じゃなくて小銅貨」
少し困った表情を浮かべた少女。
「何これ!」
だが、俺の手に持つ櫛に気付くと飛び上がるほどに驚いている。
「ちょ、ちょっと触ってみても良い?」
「あ、ああ。どうそ」
俺の手から少女が櫛を奪い去ると、それを裏表とじっくり観察していた。
「ちょ、ちょっと待ってね!これ、いったん返しとく!お、おとーさーん!」
少女はそう言って俺の手に櫛を戻すと裏へと走って行く。
数分後、ガタイの良いおじさんと一緒に戻ってきた少女は、もう一度櫛を見せてとせがんできた。
「それで、金がないからこれで、という事で良いかな?」
「ひ、ひゃい!」
おじさんからの突然の圧に変な声が出てしまった。きっとそのおじさんは店主を装った暗殺者に違いない事を俺の本能が理解した。
「だが、小銅貨3枚だぞ?これはどう考えても金貨が必要な代物だ。かと言って釣りを出すほどうちは儲かってはいないし……」
「い、いえ。どうせ貰い物、です」
「だが……」
困った様子の店主だが、しきりに少女に小突かれていた。
「なら、銀貨5枚ぐらいなら買い取ってやれるが、さすがにそれでは安すぎるよな?」
「いえ、大丈夫」
価値が分からないが団子が小銅貨というぐらいなら銅貨もあるだろう。それを考えれば銀貨5枚もそれなりの価値なのだろう。なにより今の俺には現金が必要だった。
「じゃあ、ちょっと待ってくれな」
「わーい!」
店主は奥へと消え、少女は変な踊りを始めた。
戻ってきた店主から銀色をした硬貨を5枚渡される。この世界で初めての現金に少しだけ感動していた。
「あと、これも良かったら持って行ってくれ!」
「あ、ありがとう」
そう言って手渡された袋は少し暖かかった。
「お昼のお客さん向けの定食を詰めたものだ。あまり日持ちはしなから、今日中に食ってくれ!せめてものお礼だ」
俺は再び頭を下げながら、両手を出して催促する少女に櫛を渡す。
少女は櫛を見つめながら「ふひひ」と笑っていた。
もはや少女は俺を見ることもしていないので、店主に別れを告げ店を出た。
あの少女も結局は金目当て。新しい恋は始まらなかった。そう思って少し悲しくなりながら道なりに進む。
暫くすると街の外へ出る門の近くまでたどり着いた。
その横にある広場のような場所にある柵が見え、なんとなくだがそちらに視線を向ける。その中には大きな二足歩行の蜥蜴のような動物が2体、こちらをギロリと睨むように俺を見ていることに気が付いた。
「ティ、ティーレックス!」
遠い昔に某国立博物館でみたティラノザウルスほど大きくは無いが、見た目は恐竜そのものであった。
それに驚いた俺は高度な危険察知が働き後退り、尻もちをついてしまう。
「ぷっ、どうした坊主」
金髪親父がそう言って俺を笑うのを見て、恥ずかしさに顔が赤くなる。
「蜥蜴引きの荷車は初めてか?街の外へ出る様だが、これは南西にあるサクリエル自治区行きだ。もうすぐ出発だがこの時間はこれしか出ていない。西のワイドドラゴ王国行なら夕方もう一度出るが、どっちを希望だ?」
「は、はあ」
金髪親父が何か言っているが、俺はこちらを見て首をぐりぐり振り回しているその蜥蜴を見つめながら空返事をしていた。
その後、改めて行き先を聞いた俺は、自治区行きというワードに閃きを感じ、言われるがままに銀貨1枚を出し、その蜥蜴に引かれるのだという乗り物の荷台に乗り込んだ。
暫くすると先ほどの男が前の席に座り蜥蜴引きの荷車は出発した。俺と同じように粗末な荷台に乗り込んだのは、商人の男とその付き人、帝都に観光に来ていた自治区に住む親子の計5名。
俺を入れても6名のその荷車はゆっくりと発車した。
それから、盗賊に襲われそうになったのを閃いたハッタリで乗り切ったり、兵士にスカウトされたりしながら、[計略]の力を存分に発揮した俺は、サクリエル自治区の軍師として個室と従者を与えられるようになっていた。
この、サクリエル自治区というのは、もともとサクリエル王国という国だったが、今は帝国に支配され、資源を吸い取られているという。自治区の主、元王族の自治区長は帝国に復讐の機会を伺っていると話してくれた。
「ぼ、僕が……俺が、この自治区を、帝国から取り戻してみせますよ!」
自治区長の期待の目に、俺はしっかりと自信を取り戻し、浜崎達に復讐の機会を得たことに喜び、異世界チート伝説の始まりを感じていた。
「始まりの時は近い。まずは俺自身のスキルを磨き、俺の中に眠る究極の力を目覚めさせ、俺に仇なす全ての人間に復讐の血しぶきを降らせなければ……」
俺は自室で独り拳を握りしめる。
そして部屋に備え付けられているベルで先ほどの侍女を呼び出し、夜伽を命じ頬の痛みを感じて苦笑いするのだった。
どうやら今夜はまだその時ではなかったようだ。
俺の恋の駆け引きの方もまだ始まったばかり、俺の異世界冒険譚はこれからだ!
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