17.城への帰還と皇帝陛下への報告 02
俺は落胆を堪える様にして男の話を聞いていた。
「その当時は30階層の試練は受けられた為、偶々何かが可笑しかっただけ、そう結論付けたそうです。ですが50年程前、遂に30階層の試練も受けられなくなったのです!
その時はじめて、勇者オキタ様が100階層の試練を終えられた際に、神から聞いたという言い伝えられている言葉の意味に気付いたのです。『このダンジョンの役目は終わった』という言葉の意味を……」
男が静かにそう言い視線を下げた。
俺はその説明を頭の中で反芻した後、浮かび出た疑問を問いかけた。
「勇者が最下層をクリアしたことにより、ゆっくりと時間をかけてダンジョンがその機能を無くしていったと言うことですか?」
「そう考えるのが自然だと思われます」
「では、やがてダンジョン事体も消えて無くなってしまう可能性だってあるんじゃないですか?」
「……その可能性も、あります」
帝都のダンジョンが消えれば人々の生活はどうなるのだろうか?そう考えた瞬間、他国へ進攻せざる得ない実情をある程度理解することはできた。
だが、何よりも俺達が日本へ帰るには魔王を倒す道しか残されていないという現実を思い知り、悔しさに拳を強く握りしめた。
それから俺は、男にいくつか質問を投げかけた。
他の小さなダンジョンはどうなっているのだと聞けば、そもそも試練がないので分からないと返ってきた。他の国ではどうなのかと聞けば、王国には試練があるダンジョンがあり、その為の冒険者の流出が帝国の衰退の原因であり、王国に進攻しなくてはならない理由でもあるのだと……
そして俺は、最後にこの質問を投げかけた。
「では、あの森にあるというダンジョンには、試練も残っているという可能性はあるのか?」
男は長い沈黙の後、はっきりと頷いた。
「あの森は地中から染み出てくる魔素の量が非常に多く、ダンジョン自体もかなり古くからある可能性がございます。ですので階層も深く100階層が存在すると予想されます。そして、そこを攻略できれば勇者オキタ様と同じスキルを得られる可能性も……」
その話を聞いた俺は、背中に冷たい物を感じながら頭を振り、頭に浮かんだ考えをかき消した。
俺はたとえ佐田を殺してでも、邪魔をするなら志田さんさえも殺してでも、何が何でも……あの森のダンジョンを手に入れ攻略しなくては。
そんなバカげた考えを……
俺は何を考えているんだ……佐田はともかく志田さん達を?とてつもない罪悪感に胃の中が逆流してきたのを必死で堪えた。
「陛下、御耳に入れたいことが……」
俺が冷汗を流し苦しんでいる中、室内に駆け込んできた兵が陛下に何かの報告をしていた。
陛下は顎をさすり何かを考えているようだ。
「良い。通せ」
「はっ!」
陛下の一言に兵士はドアまで戻り開け放つと、中に飛び込むようにクラスメイト達が入ってきた。
「飯田君、大変なんだ!拓海と順二が……」
俺に縋りついてきたのは横井であった。
あまり目立たない彼が、目に涙を浮かべ俺に縋りついている。俺は横井に落ち着くように伝えるが中々落ち着いてはくれず、結局は一緒になだれ込んできた他のクラスメイト達に話を聞くことになった。
◆◇◆◇◆
――― 少し前
ベッドには苦しそうに顔を歪めながら呻いている拓海と順二を見守っている。
「横井様、金村様と樫木様には解毒剤を処方いたしましたが、経過は思わしくありません」
「あ、ありがとうございます。他に何か、何とかならないんですか?2人を……」
「鑑定士に見てもらいましたが、毒の特定ができず一般的な解毒剤しか処方できません。解毒魔法も効果がないのです。我々にはもう何もできません。申し訳ありません」
「どうしてこんなことに……」
俺はこの世界に来てからの事を思い出しながら、自分達の行った行動を彼是と考え、後悔していた。
順二だけは高校に入ってからの仲だが、他の3人は小学校から一緒であった俺達。
召喚された当初は、みんなアニメの世界のようだとはしゃいでいた。
元々、2次元好きで目立たない俺達……この世界に来てからも必然的に5人で固まって生活するようになった。
俺は剣士で卓也は魔術師、拓海が神官で健太は槍術士、そして順二が罠師というバランスの取れたパーティになっていたと思う。
ダンジョンでも興奮しながら魔物を倒し、新しいスキルも覚えた。
夢のような世界だった。
残念ながら飯田君達のように勇者や賢者というチートなクラスにはなれなかったけど、それでも俺達は十分に満足していた。
飯田君が魔王を倒してもこの世界に残ることはできるかな?いや、なんとしても残りたい!そして冒険者となってこの世界をもっと楽しむんだ!
5人でそんなことまで語り合っていた。
それなのに……
あの森から戻った俺達は体の擦り傷などを拓海が[治癒]で直してくれた。
別に大した傷ではなかった。
後ろで方で様子を伺っていただけの俺達は、あの蜘蛛の魔物の糸で締め付けられたり、行き帰りで小枝に肌を引っ掻かれたりと、5人ともその程度の小さな傷だった。
拓海は[治癒]で他のクラスメイトを直したりしていたが、突然気持ちが悪いと言い出して嘔吐して倒れてしまった。そのすぐ後、同じように順二も床に手をついて吐いた後、体を抱えるようにして蹲っていた。
すぐに城の治療師が処置をして部屋に運んでくれたが、2人の容態は一向に良くならなかった。
賢者クラスの石川君は重症の浜崎君達の治療をして忙しそうだったし、聖女の志田さんはもう城にはいない。そう考えると最悪の事態が頭をよぎり涙を堪えることができなかった。
昨日まで、あんなに楽しく異世界を満喫していたのに……
結局、30分もしない間に2人は血を吐き動かなくなった。
治療にあたってくれていた城の神官も首を横に振って頭を下げていた。
2人が死んだという現実を受け入れられず、俺はしばらく身動きだできなかった。
「卓志!どうすんだ!2人が死んだんだぞ!」
拓也の言葉にハッとした俺は、城の兵士に飯田君の居場所を聞き、陛下と謁見していることを知ると、その場へ案内してくれるように伝えた。
2人が死んだことはすぐに他のクラスメイトに伝わり、森で毒を受けたという話も広まった。
結局、全員で飯田君の元へ訪ねることになる。
あの、俺達が召喚された部屋、玉座の間の扉の前で待たされている間も落ち着かず深呼吸を繰り返した。そして、その扉が開いたのを確認した俺は、気付けば飯田君に縋りついていた。
拓也と健太が2人の事を伝えると、飯田君は鬼のような形相で怒りを表してくれたことが少し嬉しかった。
――――――
飯田浩平 / 人族 / クラス [勇者]
力 B / 知 C+ / 耐 B-
<スキル>
[十全の技巧] あらゆる剣技、魔法を操る力
[聖結界] 周囲に魔の者を浄化する領域を作り出す力
[鼓舞] 味方の能力を引き上げる力
[聖光雷撃] 聖属性の雷撃を落とす力
――――――
横井卓志 / 人族 / クラス [剣士]
力 C- / 知 E / 耐 F+
<スキル>
[剣術] 剣の扱いを極めし力
[連撃] 高速の連続攻撃を行う力
[真空破] 剣による真空の衝撃波を飛ばす力
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※金村拓海 / 人族 / クラス [神官] 死亡
力 F / 知 D- / 耐 E+
<スキル>
[治癒] 癒しの力で傷を回復させる力
[解毒] 毒素を抜き取る力
[浄化] 害のある菌類や汚れを取り除く力
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※樫木順二 / 人族 / クラス [罠師] 死亡
力 E- / 知 D- / 耐 E
<スキル>
[足止め] 自身の周辺の指定場所に見えないくぼみを作る力
[罠感知] 罠を見抜く観察力を得る力
[爆弾付与] 自身の周辺の指定場所に爆発を起こす罠を設置する力
――――――
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