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その日の勝負は

作者: 紅凛刳





俺には護りたい人がいる。

ワガママで、天邪鬼で、気分屋なお嬢様。



「凛刳さん、今日はFPSでどう?」


「ん?いいよ。キル勝負?」


お嬢様は勝負事が好きだった。

俺に勝てた試しなんて無いのに、いつだって勝負と言っては遊びに誘うような人だった。


俺はその時間がたまらなく愛おしくて、負けず嫌いな彼女が俺との勝負に固執してくれる事が少し嬉しくて。


「俺の勝ちだね。危なかった」


「なーんーでー!あとちょっとだったじゃん!」


「あとちょっとが遠いんだよな」


「それはそうだけどさぁ…」


少しむくれる彼女を宥めるのには一苦労だったけれど。

莉緒と過ごす1日はとても大切で。


正直なところ、甘えていたのだと思う。

日常というものはそう簡単に壊れない、と。


莉緒の中にある想いは変わらず、俺の中にある淡い期待も届かないものなのだと。




「凛刳さん。今日の勝負は耐久にしよ」


「耐久か。珍しいね、何の耐久?」


その日は始めから莉緒の様子が少しおかしかった。

何かを決意した目をしていたように思う。


「………」


「莉緒?」


自信と不安が入り混じった、縋り付くような表情。

思わず手が伸びる。

頭を撫でる、抱きしめる、何でもいい。安心させてあげたい。

その手が届く前に。

続く彼女の言葉で俺の行動の一切は硬直した。


「色仕掛け」


「は?」


「僕に欲情したら凛刳さんの負け」


「何言ってる?莉緒?」


「今日日付が変わるまで我慢できたら凛刳さんの勝ちね」


行動と同時に思考が止まった。

色仕掛け?欲情?

何を言っているのかを理解するのに数秒を要した。


「…そんなの勝負にする事じゃないだろ」


「ふーん?」


「大体色仕掛けってなんだ。俺にそんな事してなんの…」


「負けるの怖いんだ。凛刳さん僕に欲情しちゃうってこと?」


「そうは言ってない!」


「僕、魅力無い…?」


「そんなわけないだろ!!」


「へへ。じゃあ勝負になるね」


自分でも何言ってるか分からなくなってきた。

混乱させられているうちに、俺は1日莉緒の誘惑に耐えなくてはならないという話にされていた。



こうして、俺にとって天国のようで地獄のような1日が始まったのだった。









「凛刳さん凛刳さん」


「なに?莉緒」


振り返る。

前屈みになり、胸元を大きく見せるような莉緒の姿。


「ね、興奮した?」


「……もう少し魅せ方覚えてから来い」


紅潮しそうな頬を精神力で抑えて仏頂面で返す。

少し残念そうな莉緒の表情も努めて無視する。


この勝負には負けるわけにいかない。


「分かった。これ以上ね」


「…欲情するって事の意味分かってんのか……?」


それから、俺の不安をよそに莉緒の誘惑はエスカレートしていった。



「凛刳さん!」


呼ばれて顔を上げれば至近距離に莉緒の笑顔。

鼻が触れそうなくらいの、互いの息遣いを感じるような距離。


見入ってしまいそうになる。


「……どした?」


「カッコイイよ。僕の護衛さん」


「………ありがとう」


莉緒も可愛いよ、と返す余裕は無かった。

唇を重ねたくなる衝動を自制するので精一杯だった。




「凛刳さん?」


どこで買ってきたのか、際どい服装で挑発的な笑みを浮かべる莉緒。

脚や胸元にいきそうな目線は愛しい顔を見つめる事でどうにか誤魔化す。


「可愛い服だね。どこで買ったの?」


「通販!ほら、ちゃんと見て」


くるりと一回転すると下着が見えてしまいそうなスカートだ。

大胆に開いた胸元も合わせて少し不安感が芽生えてくる。


こんな扇情的な服装で外を歩いているのだろうか。


「…もう。凛刳さんの前でしか着ないよ。僕のことを…、その、ぇっちな目で見てほしいのは凛刳さんだけだから…」


「……それ禁止にしてくれ。俺は勢いで莉緒を襲いたいわけじゃない」


「襲いたいって思っちゃったんだ?じゃあ僕の勝ち?」


「そうじゃない、けどさ。欲情するって事は俺が襲いかかる可能性もあるってこと分かってる?」


「…………襲ってよ」


「ん?もう少し大きな声で頼む」


聞き取れない程小さな声。

聞き返しても知らなーい!バーカ!と舌を出されてしまった。




文字通り鬼のような精神力で自制しつつ、莉緒の誘惑をかわし続けてどうにかこうにか0時手前。

約束の時間まであと少し。


「……凛刳さん」


いつも一緒に寝ているベッドに腰掛ける。

俺の理性はかなり限界だった。


「ん」


おもむろに莉緒が目を閉じた。

誘惑する気のないような自然な表情。

違う事と言えば目を閉じている事と…唇を少し突き出している事。


その姿はあまりにも無防備で、俺への信頼に溢れていて、期待がこもっていて、それでいて諦めも入っているようで。


「ん!」


元々無かったような俺達の距離が縮まる。

莉緒が顔を更に近づけたからだ。


思わず頬に手が伸びた。

護ると誓った人。

万人を魅了するような人。

俺も魅了されたのはいつ頃からだったか。


「莉緒」


頬に置いた手を彼女の後ろに回す。

逃がさないように。

俺の理性を甘く溶かした責任を取らせる為に。


0時の鐘が鳴った。


「好きだ」


言いながら唇を奪った。

人化の術なんてとうに解けている。

長い牙が彼女を傷付けると分かっていても止まれない。


莉緒の頭を抑えつけたまま強引に舌を入れる。

驚いたような吐息が漏れるのも気にせずに、縮こまっていた彼女の舌先を誘うように絡めた。


「ん、ふぁ」


「莉緒、莉緒…!」


ピクリと反応した莉緒の口が少し開いた。

一気に舌を突き込んで口内を蹂躙する。


舌をなぞり、全体を押し付けると莉緒の舌が応えるように動く。

互いの唾液がどちらのものか分からなくなっていく。

愛しさが、好きという気持ちが抑えられない。


「っ、」


莉緒の息が詰まった。

唾液に血の味が混じる。


俺の牙が莉緒の唇を傷つけた、と理解した瞬間理性が返ってきた。


「ごめん、莉緒。俺……」


「痛かった」


「本当にごめん」


「でも、嬉し」


人化の解けた猫の姿で口の端から血を垂らす彼女は酷く妖艶で。


「じゃあ勝負は僕の勝ち?」


「……時間は怪しいけど莉緒の勝ちだよ。俺はもう自分の気持ち隠せない」


「あんなに誘惑して反応しなかったのにね?」


「俺は莉緒を護る為にいる。それで俺が傷つけちゃ意味ないだろ」



「凛刳さんになら傷付けられたって嬉しい」


「……そうは言うけど」


「もう、意気地なし」


そう俺をなじると、莉緒はベッドに四肢を投げ出すように寝転んだ。

ロングのTシャツしか着ていない裾から下着が見える。


いつもなら注意していたそれを、言葉にする事ができない。


「凛刳さん?」


「…なに、莉緒」


「僕を凛刳さんの手で汚して」


理性なんて保てなかった。

莉緒に覆い被さり、両手を拘束する。

目の前の愛しくて魅力的な女を犯す事しか考えられなくなった頭で、少しだけ声が聞こえた気がした。




「…遅いよ、バカ」







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