1人目の賢者
「行ってきます」
そう言ったのは"白狐族”の少女"白”だ。歳は18くらいだろうか、白い髪に青い瞳をしている。左の腰には鞘を携えており、左の手の甲には青白い紋章があった。
「すまないねぇ。近頃はこの付近も魔物が多くて、お嬢さんのような若い子の手もかりなきゃ、処理が追いつかなくてねぇ。」
そう言ったのは白狐族の老人だった。どうやら白狐族の少女はこの村周辺に出た魔物を退治しているようだ。
「大丈夫ですよ、私ももう18歳。そろそろ南の塔にある試練に行くんです。ここの魔物如きすぐに片付けます!」
そう言った時、
「「グァァァー!!!」」
叫び声をあげ2匹の犬型の魔物が出てきた。
「ナイトハウンドですか」
そう言うと腰の白い鞘から刀を抜いた。その刀身は白く輝いていた。ナイトハウンドが飛びかかってきた。少女はスっと消えたかと思うと、次の瞬間にナイトハウンドが真っ二つに斬られ、その白い刀身からは赤い血が滴り落ちていた。
「ふぅ、今日はこれで終わりですかね」
そう言うと白狐族が2人、こちらに駆け寄ってきた。この少女の他にも白狐族の少女が居たようだ。この街の裏の森で闘ってたようだ。
「姉さんは流石だな。このナイトハウンドだって、この辺りじゃそこそこな魔物なのに。」
白狐族の少年だ。どうやらこの少女の弟のようだ。
「白の実力なら余裕でしょうね。」
この少女の友達、レフが弓を持ちながら言った。
弟はレフが放ったであろう矢を持っていた。
「ハク!」
そう言うと白は弟であるハクに抱きつくと、
「大丈夫?怪我はない?何かあったらいつでもお姉ちゃんに言うんだよ??」
そう言われたハクは白を押しのけると、
「だ、大丈夫だよ。と、とにかく、一旦村に戻ろう。」
「白はほんとブラコンだね。」
「えへへ~だってかわいいんだもん///」
そうして村に戻った。村に戻ると長老が白達にいった。
「御苦労だった。白以外のものはそれぞれ家に戻り、ゆっくり休むといい。そして白よ、わしの家で話がある。」
「「「はい。」」」
そうして白は長老の家に行った。長老の家に入るとそこには白の両親と長老がいた。
「いよいよ試練の塔に行く時が来たな。白、お主の実力であれば問題ないであろう。」
と長老が言った。両親は心配そうにしながらも、
「白なら大丈夫、頑張るんだよ!」
「お前には父さん達がいつでもついてるからな。」
と応援してくれた。
「明日の朝、南の試練の塔に行ってくれるな?」
と長老が言うと、
「もちろんです!無事に試練の証を取り、戻って参ります。」
と白が自信満々に答えた。その後家に戻った白は母親の料理を美味しそうに食べ、明日に備えて眠りに入るのだった。
朝、村のみんなに見送られ、試練の塔に向かった。もちろん道中にも魔物が出てきたが、白の相手になるはずも無く、軽くあしらわれるだけだった。
「ここが試練の塔か。長老様が言うには4階構造らしいけど…」
そう言って木の扉を開けた。1階、2階と何事も無く上に上がって行き3階に上がり進んでいた時だった。
「キシャァァァ!!!!!」
咄嗟に白は避けたが、腕に魔物の爪が掠ってしまった。
「チッ、ネイルスネークですか。」
どうやら鋭い爪が特徴の魔物らしい。白は面倒くさがる様子で相手にしようとすると、「ブーン」と羽音がした。音のした方を見ると蜂の様な姿をした魔物がいた。赤い目をしたこの蜂は自分の前に魔法陣を出すと、白に向かって光の棘が飛んできた。辛うじて避けた白は面倒くさそうに
「ソーサリーアピスもいるんですね。」
と反応したが、他の魔物に向ける視線とは明らかに違った。その事からこの魔物が村周辺の魔物とは強さが違う事がわかる。ネイルスネークはその鋭い爪を使い、連続で切り裂いてくる。
ソーサリーアピスは遠距離から先程の棘をはなってくる。
「ソーサリーアピスは4体。ネイルスネークは2体か、まずはソーサリーアピスを片付けなきゃ。あいつなら私の刀でも一撃でしょうし。」
と言うと刀を抜き、ソーサリーアピスに斬りかかった。最初は刀の届く低空にいたが、こちらに攻撃して来るのが分かった途端、刀の届かない所まで行ってしまった。
「そこにいれば刀が届かないとでも?」
このままでは届かないが、白には考えがあるようだった。
「水棘」
そう言うと空中に術式が浮かび、水の槍が1体のソーサリーアピスの羽を貫き、ソーサリーアピスは地面に落ちた。
「うーんやっぱ"一式”じゃあ1匹落とすが限界ですか。」
一応今水棘で貫いたソーサリーアピスは息絶えたようだが、何やら不満らしい。
「妖術は使うと少し疲れるからあんまり使いたくないんですけどねぇ。」
と面倒くさそうに白が言った。そしてさらに後ろから来た敵に妖術を放った。
「波状水刃」
白を中心に水の刃が波のように3度伝わると、ソーサリーアピスとネイルスネークは3度斬られ死んだ。
「ふぅ。これで魔物を倒し終わったか……」
白が疲れた顔でそういった時、後ろから太い尻尾で背中を叩き飛ばされた。壁に罅が入っていた。
「クッ……………ソ。まだ居たんですか。よくもやってくれましたねぇ。」
白に奇襲をしかけた事を魔物は後悔したであろう。突如出てきた3匹目のネイルスネークは、次の瞬間には形も無いくらいに切り刻まれ死んでいた。
「淹斬。水の刃で切り刻まれてお前はそこで死ね!!」
奇襲されたのが相当嫌だったのか、そこにいつものような綺麗な言葉などなかった。だが襲われたものの、無事に4階に着くことができ、その奥で試練の証を入手した。
「?。これは、試練の証かな?」
そうして白は手に持った円形で紋様が刻まれた試練の証を見ていた時、どこからともなく声が聞こえてきた。
『賢者の紋章を受け継ぎし者よ…我はこの試練を創造した者である。この試練に賢者の紋章を授かりし者が訪れた時、我が力により導く。その手背にある紋章をこの証に掲げよ。』
白は証を目の前にある台座にはめ込み、証の真ん中にある宝石の所に手をかざした。すると紋章は青白い光を強めたかと思うと、その光は弱まっていきやがて光を放たなくなった。
「今の光は、それにこの高まる妖力は一体…」
『今我が力によりそなたの能力は格段に上がったはず。光が消えたのはやがで訪れるであろう時に分かるはずである。そなたの解放された力の名は【巫】。何時いかなる時でも我の力をその身に宿す事のできる力である。その力を使った時、一時的に我の力が使えるようになる。そしてこの宝玉を持っていきなさい。』
そう言うと白の手元に綺麗な球体が出現した。そして白は声の主について
「あなたは一体……」
と、声の主について尋ねた。すると、
『我はかつて人々を苦しめた暗黒神アザトースを封印した賢者の1人、ヴァルナ。この封印が解かれ、暗黒神の力が振るわれる前にそなた達が暗黒神を倒し、平和を取り戻してくれ。期待しておるぞ……』
そうして声とともに光が消えていった。
「暗黒神か…昔の人々を苦しめてたっていう。封印が解かれたらヤバいよね。他の賢者の人達と一緒に、倒さないとね。」
そう言って塔を降り、村に戻った白は塔で起きた事を話し、宴を楽しんだあと、沈むように眠りについた。翌朝
「それでは長老、そしてお母さん、お父さん。行ってくるね。」
白は村の入口で告げた。
「お姉ちゃん、寂し…くない……訳じゃないけど。でも絶対戻ってきてね。」
ハクが涙ぐみながら白に言った。
「お姉ちゃん、ハクをモフモフするために絶対戻って来るからね。」
と、ハクの頭を撫でながら、優しい笑顔でいった。
「では白よ、頑張るのだぞ」
「白、今度また戻ってきたら沢山ご馳走を用意しとくからね。」
「白、お前が決めた事ならとことんやって来い!」
長老と両親がそれぞれ別れの言葉を告げ、白は北の大草原にある"プライリー”にむかうのだった。
「ふんふんふ〜ん♪そろそろプライリーかな〜」
と鼻歌を歌いながら草原の村"プライリー”を目指していたのは白狐族の少女"白”プライリーの南にある白狐族の村"ルナール”から来た賢者の末裔の1人である。
「そこのお嬢ちゃん、ちょっと止まってくれ。」
プライリーの入口に着いた白は、村の警備をしていた片方の男性に止められた。
「最近はちょっと物騒でな、よそ者を中に入れる訳にはいかないんだ。」
と、もう片方の男性に言われた。
「ここの村長さんに通行証貰わないとファストパーロン渡れないのですが…」
と困り顔で白が言った。ここからセントラル王国に行くためには橋を渡るしかなく、そのためにはどうしても通行証が必要であった白は、
「話を聞いてもいいですか?こう見えても賢者の末裔なんですよ?(ドヤァ)」
と言うと、最初に止めてきた男性が白ともう片方の男性に、
「それは本当か!?だが村長様に1度確認をとった方が良さそうだ。」
と言い、少し経つと確認をしに行った男が戻ってきた。
「確認がとれました。それと申し訳ありませんでした。私はリーン、そしてこっちはユーンです。」
ユーンは白に対してお辞儀をすると、リーンが村長宅へ白を連れていった。村長宅に入ると、中には村長と1人付き人がいた。リーンは
「こちらがベルデ村長です。」
と言うとベルデ村長にお辞儀をした。白も空気を読み会釈し、話を聞くことにした。ベルデ村長は、
「白殿、わざわざおいで下さいまして誠にありがとうございます。ファストパーロンへの通行証がいるとの事で、本来であればすぐにでもお渡ししたいのですが、数日前から夜間にモンスターによって畑が荒らされるという被害がでております。そこでもしよろしければ、このモンスターへの対処をお願い出来ないでしょうか?もちろんそれに見合う報酬も追加で支払います。どうか、この村をお助け下さい。」
と、数日前からの村の被害を訴えた。困ってる人を見過ごすという選択肢が無い白は微笑みながら、
「追加の報酬入りませんよ。私がモンスターを討伐してきますので、それが終わったら通行証を頂ければいいです。」
と言った。これには白をここに連れてきたリーンやベルデ村長も喜び、
「白殿、ありがとうございます。」
とお礼を言った。白は「いえいえ」と謙遜しつつ、早速モンスターの討伐に行こうとし、
「ベルデさん、そのモンスターはどちらの方向から来るかは分かりますか?」
とベルデ村長に尋ねると、
「ええ、モンスター達は東にある森から来ていると思われます。」
と答えた。それを聞いた白は、(ここから森だと少し距離がある)と思いつつ、
「では今から行ってこようと思います。」
と言うと、ベルデ村長は付き人に
「リュイ、今朝作ったカボチャ揚げをもってきてくれ。」
と頼むと、リュイは奥の方から包みに入った食料を持ってきてくれた。
「申し訳ないのだが最近は畑が荒らされて収穫があまりないのです。」
とベルデ村長が言ったが、白はそんな中わざわざ貰えた物に素直に喜んだ。
「私揚げ物大好きなので嬉しいです、ありがとうございます!では…」
村長宅を出て東の出入口へと向かった。ベルデ村長をはじめとする村人達が見送りに来た。ベルデ村長は、
「それではお気を付けて。」
と気遣いの言葉をかけ、白は村人達に暖かく見送られ、東の森へと向かった。森へと歩いていく最中に草原にはスライムが居たが、特に襲われるわけでもなくスルーして草原と森の境に到着した。そしてそこの木陰で休むことにした。
「ふぅ、だいぶ歩いてきたしそろそろあれ食べようかな。」
プライリーで貰った包みをあけ、中のカボチャ揚げを食べ始めた。
「ん、このカボチャ揚げめちゃくちゃ美味しいですね。今まで食べてきた物の中でも1番かも♪」
美味しそうに1つ2つと食べ、5つ入っていたカボチャ揚げを食べ終え包みをしまい終える頃、森の中から来る人影が見えた。
「誰か助けてくれ!」
野菜の入った籠を背負い男性が白の方に向かって走ってきた。男性の後ろにはハウビーストが2体おり、籠の中の野菜を狙っているようだった。白は庇うようにその男性の前に出るとハウビースト達は、白の方へ狙いを変えた。白が刀を抜く前にハウビースト達は2体同時に跳び上がり鋭い爪で切り裂こうとしてきたが、白はしゃがみ、抜刀で正面から来ていたハウビーストの首を斬ると、その後ろから来ていたハウビーストを刀を逆手に持ち替えて斬った。そしてハウビースト達が消滅した後、そこにあった爪や牙を拾った。
「大丈夫ですか?」
刀を鞘に収めると、男性の安否を確認した。今の一瞬の出来事を見た男性は唖然とし口を開けていたが、白の言葉で我に返った。
「助けて頂きありがとうございます。自分はロンって言います。プライリーにセントラルで仕入れた野菜を持っていく際にモンスターに襲われてしまいまして。」
汗をかきながらロンは事情を話した。
「そうだったんですか、でも無事でなによりです。プライリーまではスライム程度しか居なかったはずなので、無事に辿り着けると思いますよ。」
白はプライリーの方を指さしてそう言うとロンはもう一度お礼を言って、プライリーへと歩いていった。
「私も森の奥へ行きますか〜。」
そう言って森の中へと進んでいった。だが少し進んだところで、先程も居たハウビーストが2体とそれらよりも大きいハウビーストの計3体が現れた。
「リグハウビースト!?初めてみた…」
白は驚いたが、自分が狙われていたのですぐに切り替えて戦闘態勢に入った。リグハウビーストが吠えると、2体のハウビーストは左右から白に狙いを定めた。そして風が吹くと、2体のハウビーストは白に攻撃を仕掛けてきた。
「淹斬」
複数の水の刃が円形に、白の体と平行上に放たれると、ハウビースト達は切り刻まれてその場に倒れた。リグハウビーストはそれを見ると、白から逃げるように森の奥へと消えていった。
「リグハウビースト…多分レアモンスターなのに逃がしちゃった。」
少し残念そうに呟くと、白はリグハウビーストが逃げた方向へと歩いていった。やがて1部だけ木が生えていない場所を見つけた。そこには洞穴があり、出入口には金髪の少年が居た。その少年はなにかに気が付いたのか白の方を向くと、右眼には白と同じ賢者の紋章があった。
「君どこから来たの?可愛いね〜♡」
白はこちらを見ていた少年も何が起こったか分からないくらいの速さで少年を抱くと、頬ずりし始めた。少年が振りほどこうとした時、白の左手にある賢者の紋章が見え、同じ賢者である事を知った。
「ぼ、僕はアルスです。リエースにあるレース・アルカーナから来た、エルフと人間のハーフです。あなたは?」
アルスは振りほどくのを諦めて白に自己紹介をした。
「私?私は白、ルナールから来た白狐族だよ。ねぇねぇアルス〜白お姉ちゃんって呼んでよ。」
未頬ずりを辞めずに言った。アルスは「白お姉ちゃん」と言わなければ離して貰えないと察した。あまり言いたくは無かったが仕方ないという感じで意志を固め、
「し、白お姉ちゃん…離して………///」
とアルスはすごく恥ずかしがりながら言った。白はあまりの可愛さに抱きながら尊死しそうになったがなんとか意識を保ち、アルスをゆっくり下ろした。
「"白さん”、ところでここに用があったんですか?僕はただ通りかかっただけなのですが。」
白に何故ここに来たのかを聞いたが、それよりも"お姉ちゃん”ではなく、"さん”呼びされてることが気になった。
「プライリーで依頼を受けてここに来たんだよ。ていうかなんで白お姉ちゃんって呼んでくれないの?あ、もしかして私に気を使ってる?大丈夫だよアルス、お姉ちゃんはどこにも逃げないからね♡」
「お姉ちゃんは仕方なく言っただけです。それよりも白さん、僕も手伝うので洞穴の先に行きましょう。」
あくまでも仕方なく言っただけだと言うと、白は残念そうにしながらも先へ進み出した。