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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜拠り所〜 八十七話 刷り込まれた倫理観

 ロナから、右手でダガーを受け取ったアレルは、手首を返したりしてロナが行った細工を確認する。

 その細工は、鞘のほうに施されており、横に革ベルト様のものが二本と縦に革紐が一本取り付けられていた。


「それさ、縦ので腰のベルトに固定して、横の二つで太腿に装備する形で付けてみてよ」


「ああ」


 ロナにそう言われるも、両手を使えばロナにも左手が見えてしまう事に、アレルは躊躇いを覚える。

 それを察してか、そこへ救いの手が差し伸べられる。


「はいはぁ〜い、さっき庇ってもらったお礼にぃ、パメラちゃんがお手伝いしてあげるぅ」


 ぴょんぴょんと跳ねながら、片手を目一杯掲げるパメラがそう言ってアレルに目配せしてくる。

 渡りに船だと、申し出に飛びつきそうになったアレルだったが、パメラがよからぬ事を考えている可能性が頭を過ぎり思い留まる。


(まさかとは思うが、ロナに関わる事で変な事はしてこないよな)


 だが、そんなアレルの邪推を知ってか知らずか、パメラは唇の動きで任せてと伝えてくる。

 なので、変に勘繰ってバツの悪いアレルは、謝意を込めてパメラに丸投げする事にした。


「分かった、そこまで言うなら手伝ってくれ」


「はぁ〜い! パメラちゃんに、お任せあれぇ!」


 パメラはそう言いながら、両手を上げて一回転すると、身体をくねらせてアレルに投げキッスをする。

 それをアレルは、実に迷惑そうにまるでハエでも叩くかの様に、右手で地へと叩き落とす。


「んもぉ、アレルちゃんのいけずぅ」


「ふざけてないで、やるならさっさとやってくれ」


「はぁ〜い」


 そんなパメラのおふざけに、表情が死に始めたロナに注意を払いつつ、アレルはダガーを装備し始める。

 すると、パメラはロナから左手が隠れる位置でその身を屈める。


「パメラ?」


「これなら、アレルちゃんも左手使えるでしょ? でも、痛むようなら私に全部任せて」


 と、パメラはロナには聞こえない様に話す。

 その内容自体には、感謝しか無いアレルだったが、そんなパメラからは視線を逸らす。


「······有り難いんだけど、それってもう少し隠せないのか?」


 アレルの言う『それ』──屈んだ事で強調されたパメラの胸元は、運悪くアレルからは良く見える角度になってしまっていた。

 アレルの言葉で、その事に気付いたパメラは笑顔の種類を変えて、隠すどころかわざと更に良く見える様に強調する。


「別にぃ、アレルちゃんならいくらでも見て良いわよぉ。減るものでもないしぃ」


「クッ······だから、お前は慎みを持てって言ってるだろッ」


 そう文句を口にして、アレルは自身の手元だけに集中して、ダガーの装着に取り掛かる。

 それを受けて、パメラもクスクスと笑いアレルを手伝い始める。


「アレルちゃんは、ベルトの方をやって。私は、腿の方に付けるのをやるから」


 ここで、ふざけていない事を伝えるかの様に間延びした口調を止めるパメラを、アレルは余計に質が悪いと感じる。

 そこで、アレルが一旦ロナの顔色を窺うとロナは首を傾げてきたので、少しもパメラとの会話は聞こえていないみたいだった。


「パメラは、他の奴に対してもこうなのか?」


「気になるぅ? でもねぇ、私もここまでするのは、アレルちゃんが初めてよぉ」


「お前、初めてって言いたいだけだろ? ······まあ、カーペンターに来てる様な連中だと、この状況ではパメラの胸をガン見するだろうしな」


「アハハ、あそこの人達ってぇ、何と言うか熱意っていうか、そういうのがスゴイのよねぇ」


 あれを、パメラは気持ち悪いと言わずに熱意と言い換えた辺り、優しみが凄いなとアレルは感じる。

 しかし、そこで左手に無理な力を加えたせいで痛みが走ったアレルは、僅かに表情を歪める。


「アレルちゃん?」


「······何でもない」


 不意に、手を止めたアレルをパメラは気に留めるが、アレルは素知らぬふりを通す。

 しかし、それではパメラの事を誤魔化せず、強情なアレルに対してパメラは呆れた様なため息を吐く。


「アレルちゃん、痛いなら抑えているだけでいいから任せてぇ」


「いや、これだけでも──」


「任せなさい」


 アレルの言葉を遮り、ギュッと一本目のベルトでアレルの腿を締めつつ、パメラは下からアレルをにらみ付ける。

 それに、アレルは抵抗をしようとするも、ジーッとにらむパメラの圧力に負ける。


「解った、頼む」


「もぉ、素直にそう言えば良いのよぉ」


 そう呟くと、パメラはテキパキと手早くアレルがやっていたベルトへの固定と、残っていたもう一本の腿への装着を終わらせる。

 そして、最後にパメラは屈んだままアレルに上目遣いで訊ねる。


「締め過ぎたりぃ、違和感があったりしないぃ?」


 その言葉に、アレルは右足を軽く動かして、ある程度の感覚を確かめる。


「大丈夫だ。問題ない」


「そう、なら良かったわぁ」


 アレルの返事に、パメラはヨイショと立ち上がって微笑む。

 そうして、パメラがアレルから離れたタイミングで、今度はロナがアレルに声を掛ける。


「アレルさん、それでダガーが抜けるか試してみてくれないかい?」


「ああ」


 言われて、アレルはダガーの柄に右手を伸ばす。

 柄を順手で握ったアレルが、そのまま抜こうとすると鞘が僅かに前後する。しかし、身体に固定しているベルトはしっかり固定されているので、それはどんな体勢でも抜きやすくする為の遊びだと判る。

 なので、順手で握ったアレルも速やかにダガーを鞘から抜き放つ事が出来た。


「どうだい?」


「ああ、この程度の遊びなら揺れても気にならない程度だし、ダガー自体も抜きやすい。丁度いいよ」


「そうかい。それなら、良かったよ」


 イヒッ、とロナは満足そうに笑う。

 だが、逆にアレルの方はなんとも言えない表情をする。それに気付いたパメラは、首を傾げてアレルに訊ねてくる。


「どうかしたのぉ?」


「いや、なんか全身武器だらけで、物騒だなと思ってな」


 長剣にソードクラッシャー、右足のブーツに隠しナイフ、そして右手に持つダガー。

 元の世界なら、銃刀法違反まっしぐらの姿に、無意識下に刷り込まれた忌避感がアレルを悩ませるのであった。



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